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橋口和恵(TOSS☆坊ちゃん、TOSS南国港free-way)
大平光代さん。1965年生まれ。中学校2年生の時に、いじめを苦にして自殺未遂。その後、非行に走り、16歳で極道の妻となる。養父、大平浩三郎氏と出会って立ち直り、中卒ながらも、29歳で「司法試験」に一発で合格。現在、弁護士として非行少年の更生に東奔西走の毎日である。消してしまいたいような過去を背負いつつも、次図からの運命を切り開いていこうとする彼女の生き方を通して、人間の可能性と勇気を子どもたちに伝えたい。井上好文氏の追試である。
大平光代著『だから、あなたも生きぬいて』に掲載されている六枚の写真をテンポよく1枚ずつ提示する。
説明1 みっちゃんと言います。お誕生部は10月18日です。これは生後6ヶ月くらいの時の写真です。
説明2 これもみっちゃんです。生後8ヶ月頃の写真です。
説明3 4歳の時の写真です。
説明4 5歳のとき、お母さんと一緒の写真。
説明5 小学校2年生のとき、家族旅行での写真。
説明6 小学校6年生のときのピアノ発表会での写真。
小学校時代のみっちゃんは、どこにでもいる普通の子でも出会った。
発問1 みっちゃんは、皆さんと同じ中学校2年生の時にある事件を起こします。どのような事件を起こしたのだと思いますか。予想して、ノートに書きます。1番の所に書きなさい。
列指名する。
指示1 スクリーンをみなさい。
新聞記事をスクリーンに映す。(昭和55年1月9日付の読売新聞、朝日新聞)
指示2 タイトルを読みなさい。
「女子中生、割腹自殺を図る」「『私は潔白』中2女子割腹」
教師が読む
8日午後4時35分頃、兵庫県西宮市小松町1の武庫川河川敷で、同県尼崎市の中学2年生A子さん(14)が果物ナイフで腹を刺し、助けを求めているのを、西宮市高須町1の1の9、中山猛さん(18)が見つけ、119番した。A子さんは救急車で西宮市内の県立西宮救急センターに運ばれたが、腹部五カ所を刺し、うち二カ所は肝臓に達する傷で重症。自宅に「学校で犯人扱いされた。死んでやる」と血で書いた遺書が残されたいた。
発問2 みっちゃんが、自分で自分のお腹を5カ所もさして死のうとした原因の1つは「学校で犯人扱いにされたこ と」ですが、実はもう一つあります。予想して、ノートに書きなさい。
書けた生徒にノートに持ってこさせ板書させる。名前も書かせる。
説明7 いじめです。このときのことをみっちゃんは、次のように書いています。
私がじっと3人の方を睨んでいると、他の生徒はなおも、
「あんたなんか人間をすきになる資格なんかあらへんのじゃ」「ほんまじゃ」
「犬でも相手してとけ。この病気持ち」
かわるがわる口汚くののしった。
この子ら、いたずら電話の犯人が私かどうかはどうでもいいんや。ただいじめる口実がほしかっただけなんや。
私は、そのとき、いじめれていたときのことを思い出していた。
無視されたり、陰口を言われたり、落書きをされたり、ものをゴミ箱に捨てられたり、トイレで水をかけられたり、ほんまにひどいことばかりされてきた。この子らに何の権利があるんやろ。
そして、なによりも私がショックだったのは、親友と思っていた3人が、まるで手のひらを返したように向こう側についたことだった。
本間に親友やと思っていたのに・・・。親友やと
そう思うから、これまで親に言えないような秘密や悩みを、なんでも言っていたのにそれが全部筒抜けだった。
この子ら、私の親友のふりして、いろんな事を聞き出し、それをみんなに話して、今まで陰で笑っていたんか。それに、冬休みの時、今日呼び出すことを知っていて、あんな風に話していたんか。だましたな。裏切り者。
周りを囲まれている中で、この3人に対する憎しみが増してきた。そして、できることならこの場で3人を殺してやりたいとさえ思った。
説明8 みっちゃんは自宅に帰り、自分の手首を切り、その血で遺書を書きました。そして、河原に行って死のうと したのです。幸い命はとりとめました。
発問3 4月、お腹の傷も癒えて、三ヶ月ぶりに学校の門をくぐったみっちゃんに、他の生徒はどのような声をかけ たと思いますか。予測してノートに書きなさい。
「なんできてんのやろ」
「ほんまや」
「よう来れたな。どんな神経してんのやろ」
「普通の神経とちゃうで」
「同じクラスになったらどうしよ〜」
「私やったら、じ・さ・つするわ〜、きゃはは〜」
と、わざと聞こえるように言う生徒たちもいた。私は家に引き返そうと思った。
でも、クラスの教室に入れば、担任の教師がいるし、みんながそのような態度をするはずがない、少なくともクラスのみんなは温かく迎えてくれるだろうと思い直し、勇気を出して教室に入った。しかし、それは甘い考えであったと言うことをすぐに思い知らされた。
初めてのクラス。最初は五十音順で座っていたが、班と席順をくじで決めることになった。箱から1枚紙切れをとると、4−3と言う番号が書かれた恵あった。4班の3番の席という意味である。しばらくして、私と同じ班になる4班のくじを引いた1人の生徒が
「私いやや〜」
と大声で叫んだ。するとそばにいた生徒も加わり、
「どないしたん?」「ショックう」「何班やねん」「あいつと同じ4班」
「ギエ〜」「最悪」「ほんま最悪」「誰か替わって〜」と大騒ぎした。それを聞いた他の生徒も、
「そんなやつ誰もおらんやろ」とにたにたしながら私をちらっと見た。
そんなに私と同じ班になるのがいやなんか
胃のあたりがかっと熱くなった。
班分けが決まったので、それぞれ自分の席に着くと、生徒の自己紹介が始まった。
「私の趣味は、音楽鑑賞です。将来は歌手になりたいです。仲良くしてくださいね。」
生徒は、それぞれおきまりの自己紹介をし、終わると拍手をしてもらってる。
次は私の番や。趣味は、え〜と読書やな。将来の夢は今んとこないけど、保母っていうとこかな。それから、これからよろしくお願いしますもいわなあかんな。
どうやったら印象良くすることができるかを必死に考えた。いよいよ私の番になったので、起立した。そして、
「趣味は・・・・」
とそこまでいうと、後ろの席から、
「こいつの趣味は腹切りで〜す」
と男子生徒がヤジを飛ばした。周りの生徒がくすくすと笑う。私は、顔が硬直して行くのが分かった。その後の言葉が出ない。
説明9 その後、みっちゃんは非行に走ります。そのときの気持ちをみっちゃんは、次のように書いています。
死に損ない。クラスの生徒から、この言葉を聞いたとき、もうここには私の居場所はない。そう思った。
傷つき弱っているものに対し、平気で誹謗中傷する。こいつ等に人間の心があるのか。もしこいつらが人間というのなら、私はすぐ人間をやめてやる。
そう決心した私は、今までの生活から一変して、夜の世界にできかけるようになった。
非行を繰り返し、そして16歳のとき、極道の妻となり、背中に刺青をいれます。
発問4 その後、大人になった、みっちゃんは何をしていると思いますか。予想して、ノートに書いてご覧なさい。
列指名で発表させる。
現在の写真を何枚か見せる。「どの子にも将来の展望を 講師 大平光代弁護士」
説明10 弁護士です。みっちゃんこと大平光代さんは、22歳の時に、大平浩三郎氏と出会い、何度も説得されま す。そして、この言葉で、立ち直る決心をしたのです。赤の部分を読みましょう。
「でもな、いつまでも立ち直ろうとしないのは、あんたのせいやで、甘えるな!」
説明11 それ以来、みっちゃんは「睡眠以外はすべて勉強」という生活を続けます。そして、もっとも難しい司法試 験に29歳で合格し、弁護士になるのです。
指示3 なぜ、みっちゃんが弁護士を選んだのでしょうか。みっちゃんは、このように言っています。読みましょう。
「私が弁護士になろうと思ったのは、非行少年の先輩として、私ならこの子たちのために何かできるのではないかと思ったからです。」
説明12 みっちゃんは、非行少年を立ち直らせる活動に取り組みます。2003年には、大阪市の助役にもなりま した。大阪市助役を辞任後も、青少年の問題や教育の問題に一生懸命取り組まれているのです。
発問5 今日の授業で、学んだこと、考えたこと、思ったことをノートに書きなさい。
《先行実践》 井上好文氏:『道徳授業でいじめに負けない子を育てる』(明治図書),p53
《参 考》 大平光代氏:『だから、あなたも生きぬいて』(講談社),
染谷幸二氏:大平光代さん(「だから、あなたも生きぬいて」の著者),TOSSランドhttp://www.tos-land.net/
白岩紀男:大平光代氏の生き様に学ぶ〜井上好文氏実践の追試,TOSSランドa@http://www.tos-land.net/