
−1.「鬼願成就の章」−
−「02.襲撃」−
突然やってきた不思議なの少女雪奈は冬弥の自宅前にある平屋アパートに住むことになった。
目の前の場所にしたのは何かあったらすぐに対処できるからという配慮。
アパートも今はほとんど放置状態なので他に借りてる人はいない。
正直かなりのボロではあったが近所に住んでる知人が所有しているとことで
無料で一部屋貸してもらえることになったことは幸運なことだった。
もちろん、電気、水道代などは別なのだが…。
「しかし 正直 あまり綺麗な部屋とは言えないな」
「住めば都って言うし ボクはあまり気にしないよ」
今二人はその埃まみれの部屋を丸一日使って掃除中であった。
「でも、いつまでココにいる気なの?」
「う〜ん 一応 冬弥さんの覚醒しそうな気配が無くなるまでなんだけど……」
「で、その覚醒時期ってどれくらいの期間なの? まさか何年もとか?」
「人によってまちまちなんだけど 短くて数週間
長くても1、2ヶ月だから1年以上ってことは無いよ」
「なるほど しかし、寝る所も無い状況で来るというはどうかと思うぞ」
「う〜ん 緊急の応援だったからね」
「そうだったな」
地元にも雪奈と同じように能力者が何人かいるのだが
全員出払っているようで急遽応援を頼んだということらしかった。
本来なら雪奈のようなまだ若い子には特に応援はまわってこないものらしい。
強面の大人より若い女の子だったのでよかったのか
頼りになりそうな大人の人じゃなく子供が来て運が悪いのか
冬弥は複雑な心境であった。
「ふぅ〜 疲れた〜」
冬弥は一息つきながらやっと拭き終わり綺麗になった床の上に腰を降ろす。
雪奈の方はまだせっせと一生懸命に汚れた壁を拭いている。
「…………」
雪奈を見ながらいろいろと考える。
冬弥には聞きたい事は他にも沢山あった。
「何故自分が」「どうして君みたいな子が」「能力の事」「覚醒の事」数えればキリが無いほどに。
だが、それはあまり聞かないように心掛けた。
何故なら、「能力者」は秘密裏の事項。社会的には決して表には出ない真実。
それに“覚醒候補者”として中途半端に片足を突っ込んでいる状態であった上に
雪奈は“冬弥の覚醒を阻止する為”にやって来たのだ。
それが無事に成功すればおそらくはもう雪奈とも能力者とも一生関わることがないのだろうから。
知らねば平穏な日々、知しってしまえば…。
「そう言えば学校はどうするの?」
「うん 休校届け出してるから大丈夫だよ」
「中学生なのに大変だね」
「え?」
その一言に終始動いていた雪奈の手が止まる。
「ん?」
「えっと…… ボク高校生なんだけど……」
「えっ!? そうなの!?」
「ちゅ、中学生に見られてたんだ…」
ガックリと肩を落とす雪奈。
「ご、ごめん いや…… 最近の子ってみんな背が高いから…… えっと……」
あまりの落ち込みの仕草にしどろもどろになる冬弥。
「もう いいよ……」
そう言いながら目に溜まった涙を拭う仕草をする雪奈。
もちろん仕草なのだけだが、それほど本人は結構気にする事だったらしい。
「冬弥さんこそ学校は? 今日は平日だよ」
「今日は休みだからって…おい 僕は学生じゃないぞ」
「えっ!?」
「こう見えても21歳の社会人だぞ バイトだけど……」
「えっ? えっ? 高校生じゃ……」
「初めて電車で会った時にちゃんとネクタイしてたろ」
「ブレザー系の制服なのかと……」
「ぐはっ 高校生……か」
今度は冬弥がカックリを肩を落とす。
「ご、ごめんなさい あの… その… えっと…」
見た目が実際の年齢より幼く見える二人が送ろうとしている。
普通の人とは違う日々はこうして始まりを告げた。
***
冬弥が雪奈と会って数日が経ったが
雪奈のおかげか特に何も起こることなく平穏な日々が続いている。
バイトの行き帰りはもちろんのことバイト中や家に居るときもずっと雪奈は冬弥を警護していた。
もちろんバイト中は仕事場の隣の喫茶店にいたり、寝る時は借りてる部屋に戻るわけだが
できる限り一緒にいるように心掛け朝、夕の食事も冬弥の家族と共にとっている。
当たり障りの無い理由で紹介した雪奈を意外にも冬弥の両親は歓迎した。
雪奈はもちろんお金が無い訳ではなかったが「あんな可愛い子を一人で住ますわけにはいかない」と言って
食事時は半ば強引に同席させるくらいだ。
家族が増えたようで楽しげに食事の席で話す両親を見ると冬弥も嬉しかった。
監視されての生活なんて実際なら息が詰まりそうだと思っていたが不思議と不快に感じることもなく
自然な感じで今までと同じような感覚で過ごせていた。
そして、二人ともこのまま何事もなければいいなと考えていた。そして、更に数日が経ったある日
すでに日も暮れ空をわずかな月明かりと街の明かりだけが照らす時刻。
「到着〜っと」
バイトも終わり、電車を降りながらいつものセリフを漏らす。
「さて…… 後は家に帰るだけっと……」
「………」
「雪奈…?」
いつもここで返事をしてくれる雪奈からの返答が今日は無い。
見ると雪奈は何か険しい表情で辺りを見回している。
「おい 雪奈って」
「あっ ごめん ちょっとスーパーに寄って行っていい?」
「うん いいよ」
いつもは真っ直ぐ帰る雪奈が今日は珍しく寄り道しようと言い出した。
冬弥は買い出しかと思い雪奈に付いて行くが
スーパーに立ち寄っても何を買うでもなく、ぐるりと売り場を一周しただけですぐに店を出た。
「………」
「?? 何か買うんじゃなかったの?」
「やっぱり……」
「………?」
「誰かに見られてる……」
「えっ?」
真剣な表情のままでそう言った。
その言葉にドキリと冬弥の心臓が跳ねる。
「見られてるって 尾行か何かされてるってことか?」
「うん しかもすごい敵意を感じるの こ、これは……」
いつもの緊張とは無縁といった感じとは全然違う雪奈の表情。
それは初めて会って話した時のことを冬弥に思い出させた。
「敵意? な、なんで?」
「この辺には“BF”は無いし、冬弥さんこの近くで人目につかない広い場所ってある?」
「あ、ああ 少し歩かなきゃダメだけどちょうどそんな公園があるよ」
「そこに行こう」
「えっ? な、何で?」
「こんなに強い敵意を持ってるんだもん。まっすぐ家に帰ってもきっと接触してくるよ
そうなるとお家の人も危ないから……」
「ああ、わかった」
雪奈は一般人の目を避けてその監視者と接触しようとする行為に冬弥は終始不安だった。
何故監視されてるのか? 敵意を持たれているのか?
さらに接触してくる? しかも危ない?
冬弥の疑問は口に出ることは無かったのでもちろん雪奈はその心の中の質問には答えはしなかった。
雪奈と終始無言のまま歩いていく 。
不安に心を潰されそうになりながらもその目的地の公園に辿り着いた。
公園といっても遊具は数点ある程度でフェンスと緑に囲まれたグランドが敷地のほとんどを占めている。
しかも大きい照明設備は整ってなく四方にある小さな照明だけが辺りを照らしている程度の運動場である。
「おい 雪奈ってば……」
グラウンドの中央辺りまで来た時に
沈黙に耐え切れず冬弥が雪奈の肩に手を伸ばそうとした時、その肩が僅かに震えているのがわかった。
それは不安からくるものなのか それとも…恐怖からくるものか…
そして 何かを決意した目をし
雪奈は振り返って冬弥越しに今来た方向の暗闇に向かって叫んだ。
「いるんでしょ 出てきなよ」
そして……
「後を付けられてると知りながらこんな場所に自分から行ってくれるとはな」
暗闇から低い声で返事が返ってきた。
***
冬弥が振り向いた後ろの闇から現れた男は全身黒尽くめの格好で大きなコートを羽織っていた。
コートの裾には全て三角の切れ込みが入っており巨大な翼を模したようなデザインであった。
「ボク達に何か用……なの?」
「ああ そっちの坊やに用があってな お前には用は無い」
「坊や」という言葉に異論を唱えたい冬弥だったがそれを口には出せなかった。
その男が自分に敵意を持っていることがハッキリ感じられたからだ。
どんな小さなきっかけでも作ったらイキナリ襲ってくるとも言えるほどに。
「と、冬弥さんに…? なんで?」
「こちらもお前らと同じように能力者を集めてるんだよ…
それに単独で行動しているお前らも狩れて一石二鳥って訳さ。
お前らは普段はグループで行動しているが今回のような監視に付く時は大抵1人だけだから な」
男は「狩る」と言った 誰が……誰を……?
「狩るって まさか……」
冬弥の呟きに男は答えた。
「あ? お前は何も知らないのか?
俺たちの組織とそいつらの組織は互いに互いの能力者達を狩りあっているのさ」
事も無げに男は言った。生か死かという現状をまるでゲームをしているかのように。
「なっ!?」
「違う!! ボク達はそんなことはしない!!」
ハッキリと雪奈がそれを否定する。
「同じ事だろ 俺たちのやる事をいちいち邪魔してきやがって」
ムッとした表情で男が答える。
「雪奈…… この人、一体……」
「能力者も必ずしもいい人ばかりじゃないの
そして、その能力を私利私欲のために使おうとしている人達の組織が存在するの……
多分、この人はその組織のメンバーだよ」
「当たりだ やっぱり知ってたんじゃないか ご褒美に殺してやるよ」
男はさらりと雪奈に向かって「殺す」と言った。
冬弥にもハッタリじゃないことがわかった この殺意……。
しかも…… この人も能力覚醒者……。
恐怖に身体が震えた… 膝がガクガクと振るえる。
「でもお前は後回しだ まずは説得が先だからな」
そして男は冬弥に視線を向ける。
「お前が睦月か… 俺の名は“三城 映”(みき あきら)
さっきも言ったが俺はお前を迎えに来たんだ。
どうだ? 得た力を使って共に世界を変えてみないか?」
「冬弥さん……」
雪奈が不安げな表情で僕の方を見る。
「い、いやだと言ったら」
冬弥は搾り出すような声で言った。
「無理強いはしないさ 拒否するなら死んでもらうだけだからな」
まったく困った風も無く三城は答えた。
「あ…… う……」
冬弥の身体はまだ恐怖に震えていた。
この人はまともじゃない。と理性と本能で理解した。
「殺す」なんて単語を簡単に言えるなんて しかも 本気で……。
「お前はまだ能力に目覚めていないからわからないだけだ…
目覚めれば自ずとわかる… 無能力者の存在の無意味さを……」
三城は淡々と言葉を続けていた。
「違うよ!! 得た力にはきっと他に意味があるはずだよ!!
なぜならボクやあなたたちが大事なものを失う悲しみを一番よく知っているはずなんだから!!」
「力のある者が無い者を淘汰する…… それは自然界の摂理だ」
「能力の覚醒時の深い絶望……
その心がもっとも弱くなる時に突然与えられた人並外れた力にあなたたちは喰われたんだ!!
みんな大事な者を失う悲しみを知っているはずなのに何でそんな事をするんだ!」
「いや 気がついただけさ… そういう大事なものが自分を弱くすると それが枷になっているんだと
そして もう俺にその弱点は無い!! そして力を手に入れたんだ!!」
現状がよく把握できてない冬弥にも
三城の異常なまで雰囲気がよくわかっていた。
それでも必死に説得しようとする雪奈。
そんな雪奈の説得も男には一切効果は無く
すぅっと右手を僕の方に差し出して言葉を続けた…。
「さあ 俺たちは選ばれた者なんだぞ こちらへ来い そうすればそれがよくわかる」
「あなたたちは騙されているんだよ そう都合よく世界が変わるわけないよ!!」
「それもそのうちわかるさ……」
「説得の余地なしのようだね 雪奈……」
「……うん」
ポツリと呟く冬弥に雪奈が答えた。
「それにしても“大事なものを失う”か くっくっく
先程も思ったがお前らは今でもそういう解釈をしてるんだな」
今まで無表情だった三城が笑いながら言った
「え……?」
「俺は“大事なもの”を失うとは解釈してはいない。
“自分を押さえつけてある枷”が外れると解釈している
そして、それを自覚した時に能力に目覚める……とな」
「そんなわけないよ…」
説得は無理だと理解したのか
力なく雪奈が答えた 顔には悲しみの表情を浮かべて… 。
「で、どうするんだ 仲間になるのか? ならないのか?」
改めて言われる勧誘 いや… 脅迫の言葉だった。
仲間にならないなら殺す 今までの会話がそれを表していた。
「………」
冬弥は恐怖で何も言えなかった。
ハッキリと感じられる死への予感に。
「冬弥さん…」
その様子を心配そうに見る雪奈。
「……だ」
自分が勧誘にのれば雪奈はどうなるんだろう…
解放してくれるんだろうか…
そんな甘い考えが通じない相手だというくらいは冬弥も分っていた。
だから 答えは……
「いや……だ」
ここで自分が相手の勧誘にのるわけにはいかない。
最初に誓ったのだから彼女を信じる…と。
そう思いながらありったけの勇気を振り絞って冬弥は答えた。
「そうか……」
俯いて呟いた三城の口から次に出た言葉は
「じゃあ後で邪魔になりそうだからこの場で死ね」
二人への死刑宣告だった。