Battle Field
 


−1.「願成就の章」−



−「胎動」−

「じゃあ後で邪魔になりそうだからこの場で死ね」
 その言葉が放たれた瞬間 周りは激しい殺気の渦に飲み込まれた
 本物の殺意 自分の命が握られてる感覚
 そして、その恐怖で動けないでいる冬弥の前に雪奈が立ちふさがった
「冬弥さん 離れていて…」
 そう言った雪奈の目には強い決意を秘めた感じがした
「ま、まさか… 雪奈1人で…」
 こくり と静かに頷き
「ゴメンね 大変な事に巻き込んじゃって…」
 そういって優しく微笑んだ
「まず女… お前からだ」
 そういって三城が一歩前に踏み出してきた
 雪奈の表情が険しいものに変わる
 戦う気なのだ 冬弥と自分自身を守る為に
「行くぞ…」
 そう言った瞬間 三城が一足飛びで襲い掛かってきた
 そして羽織っているコートの端の部分を振り下ろす
 雪奈は冬弥を突き飛ばし 自分も反対方向に飛びのく
 −ドスッ−と鈍い音がした
「っ!?」
 突き飛ばされ体制を崩した冬弥が次に見たものは
 さっきまで立っていた位置の地面ににめり込んでいるコートだった
 コートの端の尖った部分がまるで巨大な刃物のようにザックリと地面に刺さっている
「な、なんだ あのコートは… 何か仕込んでいるのか?」
 驚愕する冬弥を尻目に 三城は地面に刺さったコートを無造作に引き剥く
 それを雪奈はずっと険しい表情で見つめている
「最後に聞いてやろう… 小娘… お前も俺たちの仲間になる気はないか?」
「……」
 険しいままの雪奈の表情
「そうだろうと… 思ったよ!!」
 そう言った瞬間に三城は雪奈との間合いと詰めた
 そして左右に広げられたコートが雪奈を襲う
 それを必死にかわす雪奈
 表情からして余裕が無いことは一目瞭然だった
 あっという間にフェンスまで追い詰められる雪奈 もう後が無い
 そこへ容赦なく襲う相手の攻撃を
 何とか横に飛んでギリギリでかわす
「どうした 反撃してこないのか?」
 そう言い放つ男の後ろで音をたててフェンスと木が倒れる
 男の攻撃はフェンスだけでなく直径20cm以上もある木すらも真っ二つにしていた
 すさまじい切れ味 まともに受けたらひとたまりも無い
「やっぱり それが“能力”なんだね…」
「ああ」
 薄笑いを浮かべる三城から、いや正確には羽織っているコートから黒いモヤのようなものが立ち昇り
 “それ”は三城の上空数十cmのところで停滞した
「紹介してやろう これが俺の使い魔 “夜霧”だ…」

夜霧顕現

 その台詞に呼応するかのように“夜霧”と呼ばれたモヤの中に眼のような二つの白い光が現れる
 それを見ながら雪奈は動き易くなるために素早くコートを脱ぎ
 両手をかざして一瞬祈るような仕草を見せて叫ぶ
「琥珀!!」
 と同時に白い閃光と共に琥珀が現れた
「“具現の法”!!」
 そしてさらに琥珀の額の宝石が光り輝き その光が琥珀自身をも包み込む
「グレイプニル!!」
 光の玉と化した琥珀から一本の白い鎖が現れた
 その鎖は重力に縛られることなく雪奈の周りを生きているかのように漂っている
「ほう それがお前の使い魔の能力 “具現の法か”… 」
 そして コートと広げながら三城も使い魔に命じる
「来い!夜霧!!」
 ズズズッと夜霧はそのままコートに染み込んでいった
 対峙する二人に緊張が走る
 初めて目にする能力者同士の戦闘という
 あまりの出来事に冬弥は声もかけることも出来ずにただ二人を見つめていた
 
 

 

     ***
 


 

「はあっ!」
 雪奈が三城を呼び指して叫んだ瞬間に
 ユラユラと揺れていた鎖はまるで獲物を狙うがごとく三城に向かって行った
 雪奈は指先で鎖の動きを操り三城を捕らえようとする
 鎖はまるで雪奈の指先と繋がっているかのような動きを見せる
「ちっ!!」
 三城はコートを広げてその場で身体全体をを横向きに回転させた
 キィィンと甲高い音と共に三城を捕らえようとした鎖がコートにいなされる
「な、何だ 今の音は!?」
 鎖とコートが触れた時の接触音は少なくともまともなコートとの接触音ではなかった
「やっぱり… あなたの使い魔は“物を硬くする”能力(ちから)だね」
 驚きを隠せない冬弥とは逆に冷静な態度で三城の能力を推理する雪奈
「ああ 正解だ 隠すほど大したものでも無いしな 教えてやるよ
 俺の使い魔の能力は“発現の法” “硬質化”だ」
「“発現の法”…使い魔を物体に取り込ませることで発現する能力…」
「わかったところで何も変わらない
 夜霧を取り込ましたこのコートは全てを切り裂き、全てを防ぐ」
 コートをなびかせあくまで強気な三城
 そして終始険しい顔でいる雪奈
「はっ!」
「ふっ!」
 同時に二人が動く
 間合いをとって三城を鎖でとらえようとする雪奈
 だが離れれるのは一瞬ですぐに間合いを詰められてコートで攻撃される
 常に間合いを詰めようとする三城
 だが雪奈が操る鎖によって微妙に軌道と速度を抑えられギリギリで避けられる
 そんな一進一退の攻防が続いた
「くっ 雪奈!」
 冬弥は二人に向かって走り出した
 これは「試合」でも「ゲーム」でもない
 目の前で行われているのは紛れも無い「殺し合い」
 自分が何か出来るとは思ってもいない 策があるわけでもなかった
 ただ 止めたかった それ思いだけが冬弥の身体を突き動かした
 
 

 

     ***
 
 

 

「やめろーーっ!!」
 自分の感じている恐怖を吹き飛ばす為に大声を上げながら向って行く
 三城は一瞥もくれず懐から数枚の布切れを取り出し冬弥に向かってそれを投げた
「雑魚はすっこんでろっ!!!」 
 クナイの形に切り取られているだけの布きれが
 能力によって硬質化され凶器となって冬弥を襲った
「冬弥さん!! ダメ!!」
「!!」
 雪奈の叫びに危険を察知し、横に飛んで避ける冬弥
 何とか反応することが出来たとはいえ、完全には避けきれず左右の腕と左足に布が突き刺さる
「ぐあっ!!」
 刺さっているとはいえコート越しなのでほんの数cm程度 我慢できない痛みではなかったが
 布が刺さるという非現実的なものへの“恐怖”が冬弥をその場に蹲らせた
「な、なんで… コートを硬質化してるのに…」
「バカめ… 夜霧はガス形態の使い魔だぞ
 身体を分解させて同時に幾つもの物を硬質化させるなど訳はない」
 三城は驚く雪奈に得意げに語る
「そうだな… よく考えたらまともにやり合う必要もないんだよな…」
 そして、何かを思いついたようにまた懐からまた数枚の
 クナイ型に切り取られた布を取り出し、ちらりと冬弥の方を見た
「冬弥さん 逃げてっ!!」
 三城の行動を察した雪奈が叫んだ
 だが、クナイはすでに冬弥に向かって襲い掛かっていた
「このっ!!」
 しかし、今度は冬弥は素早く脱いだコートでそれを弾いた
「よしっ!」
 冬弥が上手く全部弾けたと確信した瞬間
 三城はすでにその眼前まで間合いを詰めていた
 冬弥の方に一瞬とはいえ気をとられた雪奈と
 クナイに気をとられていた冬弥はそのことに反応できなかった
 完全に無防備な冬弥に三城はいくつもの拳打を叩き込む
「があぁぁっ!!」
 体中に激痛が走る、それの痛みは尋常ではなかった
 一撃一撃が身体を突き抜けるかのような衝撃
「あがが…」
 そのあまりの“痛み”によってその場に蹲る
「どうだ? 効いただろう… 俺の能力を持ってすれば
 こんな薄い皮手袋も鋼のナックルと同じだからな」
 左手の手袋をはめ直しながら三城は冷酷な笑いを浮かべ
 ネクタイを掴んで蹲っている冬弥を強引に膝立ちにさせる
「冬弥さん!!」
「おっと 動くな…」
 三城は近寄ろうとした雪奈に右手をかざして静止するように言う
「動けばどうなるか… わかるよな…」
 左手は冬弥のネクタイを掴んだままだ
「……」
 その一言で金縛りにあったかのように雪奈は動くことが出来なかった
「わかったよ… そのかわり冬弥さんにはもう手を出さないで」
 そう言って構えていた両手を下ろし無抵抗を表現する雪奈
「ゆ、雪奈…」
 ドガッ!!
 三城はネクタイを掴んでいた左手を離すと同時に後頭部を殴り
 思いっきり冬弥の頭を地面にたたき付けた
「お前はそこで寝てろ…」
 地面にうつ伏せに倒れている冬弥の頭部あたりから赤い液体が流れ出す
「あっ!!」
 それは紛れも無く血であった それを見て雪奈の表情が蒼白になる
「女、お前は黙って言うことを聞けばいいんだよ… 使い魔を消して俺の傍まで来い」
 倒れている冬弥の首元にコートの尖った裾の部分をかざして言う
 “本気で次は殺す”という沈黙の脅迫だった
 唇を噛みしめながら雪奈はその要求に応え能力を解除する
 鎖は琥珀の姿に戻った後にスゥと消えた
 そして、一歩一歩ゆっくりと三城に近づいていく
「くっくっく」
 雪奈は三城の目の前で止まる すでにもう手が届く距離だ
 事が思い通りに運ぶのが気持ちいいのか三城は唇を歪めて不気味に笑った
「そのままだ…」
 そう言いながらゆっくりと右手で握りこぶしを作る
「あっ!!」
 そして、そのまま動かないでいる雪奈の手足に容赦なく拳打をいくつも叩き込んだ
 雪奈は痛みで声も出せぬままその場に倒れた
「くはははは… 痛みでもう動けまい
 ガキにはあまり興味が無いんだが… まぁ たまにはいいか… くくくっ」
 すでに対抗できない状態になったとみると冬弥からコートを放し
 そのまま雪奈を仰向けにさせると両手をセーターの首元に持っていく
「い、いや…」
 雪奈が拒否の声を発するがそれは意味をなさず
 着ていたセーターはそのまま左右に引き裂かれた
「ゆ…きな や、やめろ…」
 冬弥は動けなかった 止めたくても痛みで身体が動かなかったのだ 頭もズキズキを痛む
 それでも何とか顔だけを三城に向けて必死に懇願する
「あはははは」
 だがそんな必死の声はまったく届きはしなかった
「く…そ…」
 薄れていく意識の中
 冬弥は目の前で行われ様としている凶行を止めることすら出来ない自分を呪った
 悔しさの涙で目の前の視界がぼやけてくる
 そして、視界が完全に暗くなった…
 ドクン ドクン と自分の心臓の鼓動だけが聞こえていた
 その時
『“力”が欲しいか…』
 ドクン!と特に激しい鼓動音と共に声が聞こえてきた
(な、なんだ… この声は…)
 その声は薄れた意識の中でもハッキリと聞こえてくる
『“力”が欲しければ… 俺の声に応えろ』




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