
−1.「鬼願成就の章」−
「うわああああああ!!!」 「何… これ?」 もう気付いていた、自分の中のもう一人の自分に *** 病院の面会時間が終わり *** 雪奈が帰り 静かになった病室で冬弥は1人外を見ていた。 *** そして 数日後。 *** 「しっかし 世界は広いよね 広いと思っていた世界は結構中途半端な広さだった。 そしてさらに半月後… 戦いの舞台は新たなる土地へと移る。 Next Story 「第2章 鼓武激励の章 −待合−」 <手前を読む> <目次に戻
る> <神無月TOPへ戻 る>−「傷痕」−
叫び声と共に冬弥は目を覚ました。
「はぁはぁ… ぼ、僕は…」
「と、冬弥さん 目が覚めたの? 大丈夫!?」
目が覚ました冬弥に少し泣きそうな顔で冬弥に問う雪奈。
心配する雪奈に目もくれず冬弥は一番初めに自分の手を見る。
「手に血が付いていない… 夢…」
それはいつも見慣れた自分の手であった。
爪も長くはないし血も付いていない、そのことに心底安堵する。
が、安堵のため息を漏らすと同時に体中に鈍痛が走る。
「痛っ…」
よく見ると体には幾つか包帯がまかれている。
「この傷… やっぱり 夢じゃ…ない」
あたりを見回すと見慣れぬ部屋のベッドに自分がいることにも気が付いた。
白色に統一された部屋にパイプベッド。わずかに薬の独特の匂いもする。
「ここは… 病院…?」
「冬弥さん まだ起きちゃダメだよ」
そこでようやく冬弥は雪奈に気付く。
「雪奈!?」
「きゃっ!」
そして冬弥は痛みを忘れ雪奈の両肩を掴んだ。
「雪奈 大丈夫だったか? 怪我は? 身体は何ともないのか!?」
いきなりのことで驚いた雪奈だったがゆっくりと笑って言った。
「うん ボクは大丈夫だよ」
「そう…か よかった…」
「それより冬弥さんはまだ寝てなきゃダメだよ!」
雪奈に怒られそのままベッドに寝かされる。
「身体中が痛い… 僕は… あれから一体どうなったんだ…?」
落ち着いて自分の身体の調子を伺ってみると身体中から痛みを感じていた。
それは外傷的な傷の痛みというより身体の芯からくるようなものだった。
「それより… どこまで覚えてるの…?」
「気が付いたら手が血まみれで男が倒れてて…そして、雪奈が傷ついてて…それから気が遠くなって…」
意識を失うまでの記憶を必死に辿りながらひとつひとつと思い出していく。
「それから すぐに冬弥さん倒れちゃったんだよ それでこの病院に…」
「それで… あの男は…?」
その質問に雪奈は答えずにポケットからあるものを取り出す。
「これ…」
雪奈が取り出したのは直径5cmにも満たない球体。
ガラス球のようだったがその中心には淡く黒い光を放っている光体があった。
「“エレメント”って呼ばれる物」
「エレメント?」
「覚醒者が能力使用時に生態活動を停止した時になる姿」
「え? じ、じゃあ、まさかあの時の男がこのガラス球みたいなのになったってこと?」
「うん…」
雪奈は静かに首を縦に振った。
「死んでるの…?」
「うん… 肉体も光となって後にはこのエレメントしか残ってなかったから…」
「僕が… やったの…?」
わずかな沈黙、隠し事が出来る状態ではないと判断したのか雪奈は質問に答える。
「うん 冬弥さんは覚えてないみただけど…別人みたいになって…」
「そう…か」
「今、冬弥さんの体中が痛いのは筋肉痛だと思うよ」
「筋肉痛?」
「うん 覚醒者は何故か運動能力がものすごく上がるの
それでイキナリ筋肉とかを酷使しすぎたから筋肉痛みたいな感じになってるの でも…」
戦いの時のことを思い出し少し寒気に襲われる雪奈。
何本も飛んでくるクナイと素手で掴んだ時、一瞬にして相手との間合いを詰めた時、
そして、能力を使って防御していた人間の胸を素手で貫いた時、
あの時の“冬弥”の動きは“一般の覚醒者の運動能力”を遙に凌駕していた。
「なるほど…」
「ごめんなさい… 守るって約束したのに…」
見ると雪奈は俯き今にも泣きそうな顔で目に涙を溜めていた。
冬弥の握られている右手にわずかに力が込められる。
それを握り返して冬弥は言った。
「気にするなって あれは僕自身が決めた結果なんだから」
「冬弥さん自身が…?」
「あぁ」
思い出していた。 いや、それだけはハッキリと覚えていた。
闇に包まれた世界での出来事、あの時に契約したことを。
「とにかく気にするな 泣いてる人を見るのは苦手なんだ」
「うん ごめんね」
雪奈は目に溜まっていた涙を拭って笑顔を作る。
それを見て冬弥も笑顔を作る。
“神威”の存在に…
雪奈は借りている部屋に戻った後、すぐさま電話をかけ
今までの事柄を余すことなく電話の相手に伝えていた。
冬弥と会ったこと…
覚醒の事を伝えたこと…
相手組織の能力者が襲ってきたこと…
冬弥の能力が覚醒したこと…
そして、襲ってきた相手を「殺して」しまったことも…
「−−−−以上がボクが見たすべてです」
『そう… おそらく“降魔の法”ね』
電話の相手はゆっくりと静かに答えた。
「“降魔の法”?」
聞いたこともない言葉ににおもわず聞き返す。
『ええ “使い魔自体を自らの肉体に降ろして能力を発現させる”系統の能力者のことなんだけど』
それにしても まさか能力が“降魔の法”とは…ね』
電話の向こうで少し困ったようにため息をついたのがわかる。
「夕菜さん ボク どうしたらいいんでしょう…?」
電話相手の名前は「麻生 夕菜」 雪奈と同じ組織に属する能力者。
現在は別の土地で冬弥とは別の覚醒能力者の担当としてその人と行動を共にしている。
彼女こそ 雪奈が能力覚醒後に初めて会った能力者であった。
身の回りに起こった悲惨な出来事… 自分が人とは違った能力を持ってしまったことへの恐怖…
その事で心を閉ざしきっていた雪奈をずっと励まし支えてくれた恩人。
夕菜がいなかったら今の雪奈は存在していなかったと断言してもよい。
現在、雪奈がもっとも信頼し心を許している人物である。
それゆえか「普段は見せない」少し怯えた声で相手の指示を待つ雪奈。
そして、相手はそれに対し冷静に事の整理をし始めた。
『そうね… “降魔の法”は発動時に軽い興奮状態になるので凶暴性が増すのも特徴の一つなんだけど…
雪奈ちゃんの話を総合してみると彼は能力発動時に完全に別人格になっていると考えていいわね』
「……」
返事をした雪奈の頭に昨日の光景が浮かび上がる。
変貌した肉体 伸びた髪 紅く光る瞳
そして何より、身を震わせるほどの激しい鬼気。
あれは雪奈の知っている「冬弥」ではなかった。
『あなたが彼の覚醒を止められなかったの無理もないわ、おそらく能力覚醒前の代償は彼には無かった…
「代償の後の覚醒」するのではなく「覚醒と同時の代償」
能力発動時に「心」と「身体」を支配させられる そして発動後の肉体への反動
恐らくこれが彼の「代償」なんでしょうね まだ詳しいことは解からないけど… 』
「……」
『ハッキリ言ってかなり特殊な覚醒ケースよ…
“使い魔に心を喰われている状態”と言っていいわね
自分で能力の制御できてないという点では暴走しているのと同じ事だわ』
「暴走…」
暴走 それは決して正しい表現ではないかもしれない…が
その言葉のよって雪奈がさらに事の重大さを感じるには十分な表現だった。
『一度 こちらへ来る?』
「え? 夕菜さんの所へって事ですか?」
『ええ もう1人の彼… 神威と名乗ったその人格の詳しい性格がわからない以上
自分で能力を制御できないというのはかなり危険な状態かもしれないしあなた1人じゃ…
話を聞いた点では正直、かなり危険だと思うわ。何の躊躇もなく人を殺すなんて…ね
それに能力者を撃退してしまった以上また新しい能力者が襲ってくる可能性も高くなるの…』
「っ!?」
「襲ってくる可能性も…」 その言葉に雪奈は思わず周りを警戒してしまう。
だがそれも無理も無い 彼女はまだ高校生。
正式に組織に入って1年程経っているとはいえ、
その中身は訓練ばかりの日々で実際の任務は今回が始めてだったのだ。
極度の緊張を伴う能力者同志の戦闘は精神的にも負担がかかる。
そして、覚醒候補者である冬弥の覚醒を阻止できなかったこと。
その少なからず信用していた相手の覚醒時の変貌。
襲ってきた相手の悲惨な死。
それらすべての出来事は雪奈に想像を絶する精神的苦痛を与えていたのだ。
「う…」
冬弥の前では必死に抑えていた涙が頬を伝う。
それは 雪奈にとって夕菜がとても頼りにしている存在だという証明でもあった。
『あっ ご、ごめんなさい』
夕菜も それを感じ取って自分の軽はずみな発言を少し後悔した。
そして、しばしの沈黙の後
『で、どう? こっちへ来る? もちろんこっちで住む部屋は用意しておくわ』
夕菜はもう一度質問してみた。
「は、はい。考えてみます。今すぐには決められないし…」
『そう…』
夕菜のその声には少し落ち込んだような感じがこもっていた。
彼女も雪奈のことが心配なのだ… できれば共に行動してやりたい。
その思いが強かった。
『で、彼とも相談してみてね こっちへ来ないか?って』
「はい わかりました」
雪奈は出来るだけ明るいの声で返事をした。
人々の喧騒も聞こえなくなった時刻。
街の光も届かない暗い部屋の中で月の光だけが部屋を照らしていた。
孤独と不安と恐怖に包まれた心。
自分が昨日までとは違った世界に来てしまったような感覚。
そんな彼を月明かりだけは以前と変わらずに静かに包み込んでいた。

冬弥の退院と同時に雪奈は「移住」の話をした。
能力のことも、代償のことも、これからのことも
知っていること、電話で話したことを全て伝えた。
いつかは知る事実、事実を隠すことは疑いにつながる。
それだけは絶対に避けたかった。
能力が覚醒した時ほぼすべての人間が常識を覆されることになる。
「隠されいた現実」それは社会や人間への疑心を生む。
そのことから覚醒したばかりの人間に一番大切なのは
“信頼”なのだということを雪奈は知っていたからだ。
雪奈が思っていたより冬弥は移住にも快く承諾してくれた。
それは雪奈を心から信頼している証なのだろう。
雪奈はそれがすごく嬉しかった。
「ありがとう 冬弥さん」
覚醒者ってもちろん全国にいるんだろ?」
「うん 世界中にいるらしいよ、でも日本が一番多いんだって」
「むむ〜 やはり世界は広い… いろんなことがあるもんだ」
今、二人は移住に向けての荷物整理をしていた。
ここから目的の街へはかなりの長距離の移動となる。
荷物が多いと大変だし、少ないと後で困るしと整理に悩んでいた。
雪奈は元々ここに住んでたわけではないので
当然 荷物整理の大半は冬弥の荷物だ。
「そういえばこれから行く街では会ってみたい人がいるんだ」
「あれ? 知り合いがいるの?」
「ああ 僕は趣味でインターネットとかしてるからね
それでチャットで知り合った人がちょうどその街にいるんだよ」
机の上に置いてあるパソコンを指さして答える冬弥。
「へ〜 そうなんだ」
話していると手が止まる冬弥と
話しながらもせっせと作業する雪奈。
荷物整理一つでも二人の性格が表れていた。
「実際に会ったことはまだ無いんだけど よくチャットやメールで話してるからさ」
「どんな人なの?」
「実際会ってみないとよくは知らないけど ハンドルネームは“ラン”さんっていうんだ “ラン姉”って呼んでる
本名は“涼宮 蘭”…だったかな〜」
「ランさん? あれ? どっかで聞いたような…」
そう言いながらポケットの中から小さい紙を取り出す。
「???」
「あっ やっぱり…
さっき話した夕菜さんが現在同居してる覚醒者が“涼宮 蘭”(すずのみや らん)って名前なんだよ」
どうやらメモ用紙だったらしい紙を見ながらやっぱりという顔で言う雪奈。
「えっ?」
それを聞いて驚く冬弥。
「偶然?」
そして 顔を見合わせる二人。
「たまたま同じ名前なだけだろ…」
「そうだね そんなわけないよね きっと」
面白い偶然もあるものだということで無理矢理解決させた直後。
冬弥の持っている携帯が軽快な音を鳴らしてメールの着信を知らせた。
「あれ 誰からだろ?」
そして携帯の画面を見て表情が固まる冬弥。
「どうしたの? 冬弥さん」
送信者:ラン姉
件名 : うふふ☆ (ノ∀`)
本文 : 夕菜から聞いたよ
冬弥クンこっちに来るらしいね
ま、能力覚醒時には辛いこともあっただろうけど
こうなった以上お互い覚悟決めて前向きに行こうね
んじゃ こっちに来る日は教えてね
ちゃんと迎えに行くから☆ (≧▽≦)
冬弥は黙ってそのメールを雪奈に見せる。
「……」
「……」
「同じ人…だね」
「ああ」
互いにボーゼンとする冬弥と雪奈。