
病院から退院して半月が経過したある日。 「こっちだよ」 人混みを掻き分け駅を出る。 公園の中央広場にある大きな噴水 一人は「女性」というよりは「少女」、赤く長い髪を横で纏めて体格は雪奈よりさらに小柄 冬弥は雪奈から聞いた情報と自前の情報を収集しそれを頭の中で整理し始めた 「麻生 夕菜」 女性 20歳 (情報元:雪奈) ***
汽車、新幹線、電車といくつもの乗り物を乗り継いで
冬弥は雪奈と共に“麻生 夕菜”の元に向かっていた。
不安を感じざるを得ない今回の旅を
目まぐるしく変わる景色だけが気を紛らわせてくれていた。
ようやく目的の街についた頃には
地面に近かった太陽もピークを越え今度は下がり始めていた。
地元の街から滅多に出ることがなかった冬弥にとっては
駅から見える何気ない看板やお店、周りを歩く人達までも全てが華やかに見えた。
先を歩く雪奈の後ろを冬弥はキョロキョロしながら付いていく。
「キョロキョロしてて迷子にならないでね」
知っている土地に着いたせいか少し「お姉さん風」を吹かす雪奈。
年下の女の子に注意をされることに多少の違和感を感じつつも
「あぁ わかったよ」
と冬弥は素直に返事をする。
そこに初めに眼に飛び込んできたのは大きな公園だった。
駅の入り口正面には広大な公園が作られており
その周囲は広い道路と高いビルの群れが取り囲んでいる。
公園を挟んだ駅の反対側には幅の大きな道路がずっと先まで伸びていた。
「大都会…」
大きなビル、広い道路、大きな公園、都会のスケールに圧倒された冬弥が
口を大きく開けて意味不明な言葉を呟く。
「冬弥さん?」
雪奈はそんな田舎者丸出しの表情を不思議そうに見つめる。
「悪かったな田舎者で!」
「わっ!? ビックリした」
頭の中で勝手に再生されていたナレーションにツッコむ冬弥。
「よくわかんないけど… では…」
と雪奈はコホンと咳払いをせいて大きく深呼吸をした。
「ようこそ。千条市へ」
そして街を背景にして目一杯の笑顔と両腕を広げた状態で歓迎をした。
「あ、ありがと…」
雪奈の思わぬ行動に冬弥はその言葉を言うのが精一杯だった。
「あの公園で待ち合わせしているから…」
と公園を指差して歩き始めた雪奈の後を慌てて付いて行った。
池の中心のオブジェから放射されている水が綺麗な曲線を描いている
ビル風のせいか少し冷たい風が吹いていたが広場には何人もの人がいた
駅前ということもあり、地元を問わずに沢山の人が待ち合わせ場所に使っているのだろう
「ちょっと早く着いちゃったね」
公園の時計の針は2時40分を指している
待ち合わせの時間は3時、まだいくらかの余裕があった
「ちょっと寒いから何か温かい飲み物でも買ってくるよ ここ動かないで待っててね」
そう行って雪奈は小走りで走り出した
真冬の冷たい風の中でも雪奈の中の「お姉さん風」はまだまだ吹いているようだ
そんな雪奈の態度に思わず冬弥に笑みがこぼれる
そして、雪奈の姿が見えなくなった時
「もしかしてあなたが冬弥さん?」
背後から不意に声を掛けられた
「は、はい そうですけど」
反射的に返事をしながら冬弥が振り向くと、そこには二人の女性が立っていた
おそらく待ち合わせ相手の「麻生さん」と「涼宮さん」の二人
先程、雪奈と一緒のところを見かけて声を掛けてきたのだろう
二人は共通して髪が長い女性だったが、それ以外は対照的な印象の人達だった
中学生、いや小学生ともそれそうな体付き、
顔も当然幼顔、だが小さな丸型のサングラスを掛けている
活発そうな子供にも見えるが少し大人びた印象を受けるような変わった感じの少女
もう一人は、スラリと背が高く、キレイに切り揃えられた黒髪のストレート
落ち着いた雰囲気が年上の印象を感じさせ、一見するとモデルの様である
そんな二人が並んでいると年の離れた姉妹のようだった
「涼宮 蘭」 女性 23歳 (情報元:冬弥)
以上
あまり役に立たなかったようだ、これだけでは二人のどっちが麻生でどっりが涼宮かわからない
外見的特長も聞いてくべきだったと後悔してももう遅い
そこで冬弥は“一般的”に見て年上と見られる女性の方に意を決して話しかけてみた
相手が年上に見えるということは
「えっと… 涼宮さん…ですか?」
おそるおそる冬弥が背の高い女性の方に話しかける、と
「はふう〜」
意味不明のため息のような声を発し、少女の方がガクッと膝を着いて倒れた
「えっ? えっ?」
「やった ほらね、言ったとおりでしょ」
困惑する冬弥とは別に「やっぱりね」という顔で女性の方が喜んでいる
心なしか少女の方は倒れたまま肩を小刻みに震わせている
「あっ 夕菜さん!」
そこへ缶コーヒーを両手に抱えた雪奈が戻ってきた
「雪奈ちゃーん!!」
イキナリ奇声ともとれる声を上げて少女が飛び上がり、雪奈に抱きついた
ビックリして持っていた缶を落としそうになるが何とか防ぐ
「冬弥クンがあたしの事気付いてくれへんかった〜」
どうやら同情を求めているようだったが態度がものすごくウソっぽい
「えっ? えっと…あの…」
「あっ ごめん 雪奈も初めてだったわね そちらが“涼宮 蘭”(すずのみや らん)さんよ」
困惑する雪奈に少女を差して答える女性
「えっ? この人が涼宮さん!? だって確か23歳のはずじゃ…」
今度は冬弥も困惑しながら質問をする
当然の疑問だ、“涼宮 蘭”は年上のはずなのだからこんなに幼い人の訳はないと考える
それは雪奈も同じのようで冬弥の疑問に頷いて同意している
ちなみに少女(蘭)はまだ雪奈に抱きついたままである
「はい、みなさんよくそう言われます 見た目が幼い人ですから
ちなみに私が“麻生 夕菜”(あそう ゆうな)です」
「ちょっと平均より背が低いだけなやのに〜」
女性(夕菜)の説明に納得がいかない蘭の発言にその場の全員の顔が
「ちょっとじゃないから」というツッコミを語っていた
「とにかく、あたしが涼宮蘭 よろしゅうな 雪奈ちゃん」
関西系のイントネーションで蘭が雪奈の腕の中で挨拶をする
「は、はい 関西の人なんですか?」
「んにゃ でも大阪住まいが長かったせいでちょっとエセ関西弁になってるだけ」
そう屈託の無い笑顔で答える蘭は改めて見ても幼い
そのせいか雪奈も緊張が解けて笑顔になる
「蘭ちゃん約束よ。今日も私の勝ち、後でちゃんとパフェを奢ってね」
そう言う夕菜の言葉から察するに
どうやら、冬弥が本人(蘭)を初対面時で分かるかどうか賭けていたようだ
今日「も」ということは初対面の人に何度か試したことがあるらしい
そしてきっといつも負けているのだろう
冬弥と雪奈は納得と共に少し同情した
「さて、自己紹介の続き。 あたしが “涼宮 蘭” よろしゅう 冬弥クン」
いつの間にか雪奈から離れていた蘭は
今度は冬弥の正面に立ち満面の笑みで右手を差し伸べた
「はい よろしくお願いします」
そして、握手を交わす二人
と同時に冬弥の手は見かけとは想像も出来ない程の力で握り締められる
「イタタタタ! 何すんですか!? 涼宮さん!」
「パソコン越しとはいえ、1年間も付き合ってきた仲なのにあたしの事がわからんなんて」
表情はそのままだが握っている手にさらに力が入る
「ごめんなさい、だって容姿の話は全然しなかったじゃないですか、趣味の話ばっかりで‥ あう‥」
必死になって謝る冬弥 途中からは声も出せずに悶えている
「あわわわ す、涼宮さん、冬弥さんも悪気があったわけじゃないですから」
痛みで悶えている冬弥を見て雪奈が大慌てで止めようとする
「まぁ そうだね」
納得したのか可哀想になったのか蘭は手の力を抜く
その態度には悪びれた様子は一切無い
「そ・れ・と わたしの事は“涼宮”じゃなくて“蘭”って呼ぶこと チャットでも名前で呼んでたでしょ
もちろん雪奈ちゃんもね あたしも“冬弥クン”と“雪奈ちゃん”って呼ぶから」
「えっ 一応初対面だし、イキナリ名前でなんて‥」
右手をさすりながら答える冬弥に無言で蘭はコブシを振り上げる
「はい、わかりました それじゃチャットと同じで蘭姉(らんねえ)でいいですか?」
「うむ、よろしい」
パブロフの犬のごとく反射的に答える冬弥、
なぜか両足の踵も合わせている。すでに子飼い状態だ
それを見て蘭は満足そうにうなづいた
逆に雪奈はすごく複雑そうな表情だ
本人曰く「チャットを通しての教育の成果」なのだそうだ (後日談)
「それじゃ今度は私ね」
一段落着いたのを見計らって、今度は夕菜が一歩前に出る
「“麻生 夕菜”です よろしくお願いしますね」
蘭によって腫らされた手を気遣っているのか左手を差し出す夕菜
「私も“冬弥さん”って呼んでいいですか? 蘭ちゃんと話す時はいつもその呼び方だったので」
「えっと、はい。こちらこそよろしくお願いします。 えっと‥ゆ、夕菜さんでいいですか?」
先ほどの蘭の言葉が残っているのか、苗字ではなく名前で呼び返し握手を交わす
了承の意味もあるのだろう、その手を夕菜はやさしく握り返した
「雪奈も久しぶりね」
「はい、夕菜さんもお元気そうで何よりです」
ニッコリと微笑む夕菜に雪奈も笑顔で答える
「さて自己紹介も終わったし、寒空の下にいつまでもいとうないし、喫茶店にでも行こか。
パフェも奢らないかんしな」
蘭が先導をきって歩き出す
奢る〜の台詞の時にジロッと見られた冬弥だったがサッと目を逸らす
それを見て笑う雪奈と夕菜
こうして4人は公園を後にした

大通りに面している壁は大きなガラス張りになっており
室内ながらもオープンカフェの雰囲気が味わえるお洒落な造り
何より、今は期間限定イチゴビッグパフェが食べられる人気のお店
そのお店の一角に4人は腰を下す
「それにしても蘭姉も覚醒者だったなんて驚きました」
メニューを注文後、開口一番で冬弥が話しかけた
「去年の5月頃だったかな、ちょうど冬弥クンと知り合った頃やな
寒い雨の日に橋の下で行き倒れとった夕菜を拾ったのがキッカケでな」
「へえ〜 そうなんですか」
チラリと夕菜の方を見ると首を横に振りながら「ウソですよ」と目で語っている
知ってか知らずかそのまま蘭は話を続ける
「薄汚れた服を着ててな、興味半分で声をかけると
目をウルウルさせて「拾ってください」って言ってきおったん
心優しいあたしは迷わずこう答えたわ。「これからはあたしがご主人様や」ってね
それから‥」
「はいはい、もういいでしょ 話が進まないし」
いつまで続くのか分からない妄想話は夕菜の一言で打ち切られる
「え〜 これからが面白いところやったのに…」
残念そうにいう蘭を尻目に夕菜は真剣な表情で話し出した
「さて、本題に入りましょう」
瞬間、皆が真剣な表情になる。
その空気を読み取った冬弥もゴクリを唾を飲み込む。
「わた‥」
「期間限定! イチゴビッグパフェ4つ、お待たせしました〜」
夕菜の声を遮る様に明るい声と共に
ウェイトレスが巨大パフェを4つお盆に乗せて登場した
人気があるせいか注文してからホンの数分での到着だ
「ごゆっくりど〜ぞ」
テーブルにパフェを並べ終わったウェイトレスは
笑顔で会釈をして厨房の方へ戻っていった
真剣な表情の4人の前に置かれた巨大パフェ。もちろん冬弥の分もある
30cm近くはある背の高い透明なグラスの中は色とりどりのフルーツがぎっしり詰まり
一番上には大きなイチゴが乗っかっている
「ま、まずはいただきましょうか」
「「そうやな」「そうですね」」
まずは食事。甘いものの誘惑には勝てないのか、夕菜の提案に3人とも即賛成。
「ん〜 美味しい」
「そうでしょう。このお店のパフェはオススメですよ」
パフェを美味しそうに食べる冬弥に少し自慢げに答える夕菜
「ここは材料とかも本格的な物を使用し作っているらしいですから」
「へ〜 確かに今まで食べたどのパフェよりも美味しいです」
「冬弥さんってよくパフェとか食べるの?」
モクモクとアイスを頬張りながら雪奈が質問する
「機会があったら食べる程度だけどね 基本的にアイスクリームが好きなんだ」
「まだ子供っぽく見えるからパフェ食うてても全然違和感が無いな」
「“子供っぽい”なんて蘭姉には言われたくないです」
「ほほぅ〜 あたしに向かってようそんな台詞を‥」
冬弥が「しまった」という顔をした瞬間、
パフェの頂上のイチゴが冬弥の目の前から消えた
「あ〜!! 何するんですか!! 楽しみに取っておいたのに〜」
消えたイチゴは当然ながらすでに蘭の腹の中に入っている。
「もう!蘭姉さん!しょうがないな〜 冬弥さんにはボクのをあげるよ」
そう言って自分のイチゴを冬弥のグラスに移す雪奈
「お姉さん風」はさらに強く、強風状態になっているようだ
冬弥も遠慮なくイチゴを貰う辺りが子供っぽい
「うぅ‥ ありがとう雪奈」
誰が年上で誰が年下なのかわからない環境だ
子供なのに頑張って大人っぽくしようとしている雪奈
年下だけど頼りがいがありそうな落ち着いた雰囲気の夕菜
年上なのに一番子供っぽく見える蘭
終始和やかムードの中、結局話は進まなかった‥
4人全員がパフェを食べ終えたのはこれより20分も後のことだった