Battle Field



−2.「鼓激励の章」−




−「把握」−

「さて、今度こそ本題に入るわよ」
 本題に入ることとなったのは全員がパフェを完食してからのことだった。
 夕菜はコホンと咳払いをして真剣な表情で話し出す。
「冬弥さん、あなたのことは雪奈から聞いています、大変でしたね」
「えぇ まぁ‥」
「雪奈からは覚醒者や機関の事、どこまで聞いてますか?」
「いえ‥ ほとんど‥ 覚醒者の保護くらいとしか‥」
「そうですか、では最初から説明します」
 夕菜は一息つくと少し重そうに説明を始めた。
「機関の目的は大別して二つ、『覚醒者の保護』と『異常覚醒者の犯罪抑止』
機関名“Elementale GuardianS”(エレメンタル ガーディアンズ)、通称“EGS”(イージス)
国家と巨大財閥との共同で組織されています。私と蘭ちゃんはその行動部隊の一員です。
“Element”(エレメント)とは能力者たる要素を持ってしまった者、つまり覚醒者の証とも言えるもので
覚醒者がその能力を発動させている時に生命活動を停止した時に結晶化したものです」
 そう言って夕菜は一つの淡く黒光りする玉を取り出しテーブルの上に置いた。
「これは先ほど、雪奈から預かった物ですが」
「はい、知っています‥ 僕たちを‥襲った人‥ですよね」
 それは以前、雪奈に病室で見せてもらったエレメントだった。
 “それ”は紛れも無く人が生きていた証、そして死亡した証。
 意味的には目の前に自分が殺した者の死体を置かれるのと同じである。
 夕菜の言葉に冬弥は途切れ途切れに返事をした。
「単刀直入に言います、現在は覚醒者の能力を無くす方法はありません。
本部から言われたことは“睦月 冬弥の保護観察”
あなたの能力等を把握し、報告せよとのことでした。
よって冬弥さんには今日から常に私達と行動を共にしてもらいます」 
「この保護観察ちゅうんは覚醒者を発見・保護したら絶対に行使することや。
あたしん時も夕菜が保護監察官の役割やってん。
冬弥クンの場合は知り合いの方がエエってことで
本部に夕菜を通して無理を言うてあたしらを担当にしてもらったわけや」
 夕菜の話に補足する蘭。
「前にも言ったことがあると思うけど、覚醒者同士は無意識に引き合うの。
能力をコントロールできるまでは危険が迫っても回避できないから保護する必要があるの」
 そして、さらに雪奈が付け足す。
 義務ではあるが強制でやらされている訳ではない、
 冬弥自身を思っての対応だという気持ちが読み取れる。
「これは私達に与えられた『無期限任務』
能力を把握する為には能力発動が不可欠。
でも、能力を発動させる事は自由には出来ないし、したくない。
矛盾点があるけど期限がないのであまり深く考えなくてもいいと思います」
 元々は能力を抑えたいが為に来ていた冬弥。
 いくら任務だからと言っても素直に能力を発動するのに協力はさせたくない。
 それでも夕菜が通告した理由は自分と冬弥の現状を把握してもらう為であった。
「すみません」
「いいって冬弥クン。友達やろ。
ゆっくり、じっくりと行こや。きっと良い方法も見つかるよって。
冬弥クンさえ気にしなければやけどな」
 申し訳なさそうに誤る冬弥に気にしないように言う蘭。
 それに同意して雪奈と夕菜も首を縦に振る。
「ありがとうございます」
 正直、自分は運が良いのかもしれないと冬弥は思った。
 自分には心配してくれる人たちがいる、それがとても嬉しかった。
 もし、自分一人だったらと考えるとゾッとする。
「さて、後は家に着いてから話そうか お店も混んで来たし」
「はい」
 その返事をする冬弥にはわずかな安堵の表情が見られた。

 

     ***

 

 町の中心部から少し離れたところに24階建ての高いマンションがある。
 その建物は全面を白と緑で統一しておりその外壁は清潔さと高級感をかもし出している。
 そんなマンションの屋上では少々似つかわしくない光景があった。

 【挿絵】 マンション

 女性が振るう木刀を一人の男が長い木の棒、俗に“棍”と呼ばれる武器で攻撃を受けている。
 長時間続けているのだろう、3月の初めという少し肌寒い時期の中、薄着にもかかわらず
 二人からは動くたびに体から汗が飛び散っていた。
 カッ! カン! と木製の武器の割には激しい音が回りに木霊する。
 女性の方は蘭、男の方は冬弥である。
 特訓と言う名の手合いをしている二人だったが
 二人の表情や雰囲気,何よりその激しさは真剣そのもので
 どちらかと言えば実戦という表現の方がよさそうなものであった。

【挿絵】 特訓

「はああっ!!」
 気合の雄たけびと共に蘭が連続で打ち込む。
 必死に防ぐ冬弥だが、そのスピードに付いていけず
 何箇所も打込みを許してしまう。
 両腕に走る激痛で棍を落としそうになるが
 ギュッと握りなおし防御を続ける。
「このっ!!」
 打込が終わった瞬間を狙って反撃をする冬弥だが
 蘭はすばやくバックステップで交わす、棍はむなしく空を斬った。
「はぁ、はぁ」
 打ち込まれ続けた体はボロボロで両腕はところどころ紫色に変色している。
 だが二人は真剣な表情のまま互いに向かい合っている。
「痛っ!」
 冬弥が構えを変えようとした時、打ち込まれた両腕に激痛が走る。
 その痛みで一瞬、蘭から視線を外してしまった。
「!!」
 刹那。その瞬間を見逃さず、蘭が無拍子で間合いを詰めに入る。
 挙動の瞬間を見逃した冬弥にはそれに反応する術はなく
 完全無防備に懐に入られた。
バキッ!!
 木刀を叩き付ける音が辺りに響いた。

 カラン と冬弥が持っていた棍が地面に落ち
 続いて冬弥も前向きに崩れ落ちる。
 だが、倒れて膝を付く前に蘭が空いた手で抱きとめる。
「まだまだやな、戦いの最中に相手から視線を外しちゃアカンて」
「……はい」
「よっしゃ、今日の特訓はここまでにしよか」
「あり……がとうございま……した……」

 

     ***

 

 話は一度、1週間前に遡る。
 4人が始めて出会った日だ。

 喫茶店での会議を終え、再度電車に乗り二駅ほど移動した街。
 その街の中にある高層マンションの前に立つ4人。
「これが私達が居住しているマンション ちなみに最上階の部屋です」
「さ、最上階!?」
「あれ? 高い所は苦手ですか?」
「いえ…… そういう訳では……」
 冬弥はその豪華そうな生活に驚いたのだが
 夕菜はその事が検討もつかず少しズレた質問をする。
「ちなみに24階建て」
「分譲ですよね これ‥ 買ったんですか?」
 都会では大して目に付くような建物ではなくても
 地元ではこれほどの建物は無いに等しい。
 冬弥が驚くのも無理は無かった。当然、雪奈の方は驚いてはいない。
 都会を知らない田舎者はここでは冬弥一人だけなのだ。
「機関が建てた建物でちょうど先月完成したばっかりなの」
 そんな冬弥に普通に答える夕菜。
 いつもこのような住まいを提供してもらっていたのだろうか。
 とう考えると夕菜がお嬢様っぽく感じられる。
「新築‥ すごい所に住んでるんですね」
「何言うてん これから一緒に住むんやで」
 驚き続ける冬弥にさらりと事実を告げる蘭。
「そ、そうですね 一緒に…… って一緒に!?」
「言ったでしょ、“行動を共にしてもらう”って」
 こちらも蘭が普通に答える。
「それは聞きましたが、まさか一緒とは……」
「大丈夫、ちょうど4LDKで広いし部屋もちゃんとありますから」
「はぁ 確かに広さは問題ないですけど‥」
「雪奈ちゃんも一緒やで。よかったな」
 どういう意味が含まれているのかわからないが
 ウインクをしながら“よかったね”アピール”をする蘭。
 当然、冬弥には冷やかしているようにしか写ってはいない。
「また このパターンですか‥」
 地元での雪奈のこともあったので少しは予想してはいたものの
 実際に告げられるとは思っていなかったらしい。
 諦めたように現状を受け入れる冬弥。
「早速やけど部屋に荷物を置いたら屋上行くで」
 屋上に何かあるのだろうか。
 そう言って蘭は冬弥の腕を引っ張ってエントランスへ向かった。

 

 

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