
−2.「鼓武激励の章」−
−「修練」−
着いて早々蘭にマンションの屋上に連れて来られた冬弥
屋上は住民が自由に出入りできるようになっており
憩いの場として使われているのか、それなりに広いスペースがあった
「なんですか? 蘭さん」
「冬弥クンにはこれから特訓を受けてもらう」
「特訓ですか?」
また突拍子も無い話に少し驚く冬弥
「そう、キミは能力を使いたくないんやろ?
だったら今のままで強くなるしかない、心も身体も」
「は、はい」
「と、言うわけで冬弥クンには実戦形式での特訓を受けてもらう」
「じ、実戦ですか」
さらに突拍子も無い話で慌てるのも無理は無い
冬弥 にはもちろん格闘術等の経験はおろか喧嘩さえしたことがないのだ
それなのにイキナリ実戦形式と言われたのだから
「基本的には回避術に重点を置く」
「なぜですか?」
「キミには相手を倒す術よりも自分を守る術が必要や
知っとるかもしれんけど、冬弥クンを襲ったのも組織として動いている人間
覚醒者となった以上はあいつらに目を付けられる可能性が極めて高い
そんなイザという時に戦うのはあたし達の役目、だからキミには自分自身を守ってもらう」
「でも…」
何かを言おうとする冬弥を蘭は右手で制す
「もしかして戦おうって思ってる? だったら甘いで」
そう言った蘭の表情は険しい
「見せてあげるよ」
そして、差し出した右手をそのままに何か念じる仕草をする
以前見た雪奈が琥珀を呼び出す時のように…
「おいで… “皐月”」
その呼びかけに答えるように右手から光の球が現れた
その光は蘭の周りをクルリと一周した後、蘭のとなりで人の形を象っていった
光が収まってくるとそこには一人の男の子がいた
その男の子は静かに眼を閉じて立っ ている
「こ…ども…?」
幼い顔立ちと身長、一見するとただ の小学生にしか見えない
そして、その言葉に反応するかのように静かに男の子は眼を開ける
「この子があたしの使い魔の“皐月”(さつき) そして…」
続けて蘭が唱える
「“具現の法”!」
皐月と呼ばれた男の子が光に包まれ、またもや一つの光球と化す
「“斬・馬・刀”」
そして、その光は蘭の右手の収束し巨大な剣の形を象り具現化される
刃の部分だけでも蘭の身の丈ほどもある刀だ
戦国時代に敵将を馬ごと斬る為に造られたと言われる巨大な刀
「そ、それは‥」
「これが皐月の能力 “百式武装”
古今東西様々な武器の形に姿を変えることが出来る」
−ブン!ブン!−
蘭はその巨大な刀を片手で振り回しながら答える
「もちろん制限はある、飛び道具にはなれないし、手元から離れると武器の形に維持できないとかね」
−ズガン!!−
振り回していた刀を地面に突き刺す
その重量も相まって刀は深く突き刺さっている
「具現化した武器は自分では重さを感じないからこんな大型武器も自由自在に扱える」
「……」
冬弥は雪奈とまるで違う蘭の能力の攻撃性に言葉も出ない
雪奈の能力には直接的な殺傷力は無い
だが蘭の能力には確実な殺傷能力が備わっているのだ
「戦闘系の覚醒者はこんな風にありえない力を扱える
キミ達を襲ってきた人もそうやったろ
そんな人が襲ってきてもキミは自分自身を守りきらなければならない
直感で判断して今のあたしと戦って勝てると思うか?」
勝てない、直感的にも常識的にも冬弥はそう感じる
見た目は自分より小柄な女性ではあるが超重武器を軽々と操る相手
その気ならば冬弥は一瞬でやられてしまうだろう
「自分自身を守ることすら出来ない人が戦う事を考えちゃダメ
まず無傷で生き残る事を考えて」
能力を使用しての説得は効果的だった
その為に蘭がワザと如何にも殺傷能力の高そうで異様な形状である斬馬刀を具現化したのだ
「‥‥」
「ハッキリ言うけど、1対1やったら雪奈ちゃんは襲ってきた相手に勝ててたで」
「っ!!」
出来るだけ考えないようにしていた事実を突きつけられる
「もうイヤ‥でしょ あんな思いは‥」
「はい‥」
突きつけられた事実に落ち込み俯いたまま返事をする冬弥
「その為にまずは自分自身を守れるようにならなくちゃ
そうすれば雪奈ちゃんも安心するから」
「そうですね‥」
事実は変わらない… 自分が居なければ勝ててたであろう戦い
あの日から冬弥はずっと考えていた何か自分に出来ることは無いのだろうかと…
そして、今日その術を知ることが出来た 迷いは無い
「覚悟はいいね‥?」
「はい!」
何かを決心したように顔を挙げ今度はハッキリと返事をした
「よし、とりあえず急に慣れない環境に変わったこともあるやろから
今日と明日はゆっくり休みな 旅の疲れもあるやろ
特訓は明後日から 明日は街でも案内するから」
***
そして、現在…
「ただいま〜」
「おかえりさなさい」
修練を終えた二人を夕菜と雪奈が出迎える
「う・・・・」
修練を終え言葉も出ないほど疲労した冬弥が蘭に担がれている
ここ毎日の光景である、体力の限界までの修練の結果だ
「よいしょっと」
そのままベッドまで連れて行く
そのでも冬弥はずっとグッタリしている
「夕菜 お願い」
「はい」
呼ばれて来た夕菜はすぐさま両手を差し出して能力(チカラ)を発動し始める
「出てきて “香奈”」
両手から発せられた光は人型を象り始め
やがてそれは一人の女の子をなって現れる
年は皐月と同じ程度で長い髪は腰の辺りまで伸びている
ちょうど夕菜をそのまま幼くした感じのその子は
横になっている冬弥にそっと手をかける
「“癒の符”」
夕菜が言葉を発すると同時に
香奈の差し出した手から光とともに1枚の符が現れる
そしてその符をそっと冬弥の胸に貼り付ける
貼り付けて数十秒で冬弥の呼吸の荒れが落ち着いていく
「いつ見てもすごいですね。みるみる顔色が良くなっていく」
雪奈はその様子を感心するように覗き込む
「これで明日には疲労はほぼ取れているはずです」
「極限まで特訓と強制的な回復そしてまた特訓、
このやり方は体に負担を掛けるからあまり多用は出来へんのやけど
時間が無いからな‥」
蘭の言葉から察するに少々荒療治と思われる対処法である
「能力のコントロールの術が今のところ分からないし
何がキッカケで発動するかわからないから
成果を早く出させる為にはしかたないですね。
いろんな事に対処出来るように冬弥さん自身が強くなっておかないと」
荒療治と知りつつ実行しなければならない歯がゆさ
自分を納得させるかのように蘭は呟く
「でも無茶じゃないですか、いくらなんでも‥」
「当然、あたしらがフォローするけど、最悪の場合は自分で身を守らないといけないからね
それに‥」
「それに‥?」
「いや、何でもないよ」
雪奈の心配に何かを言おうとする蘭 だが言葉を止める
そして冬弥との会話を思い出す
***
修行中に蘭はただひたすらに修練をする冬弥に質問をしたことがあった
「こんな無茶な修練を不満に思ったことは無いの?」と
半強制的に始めたかと思われた修練に冬弥は文句も言わず実行している
それは冬弥自身にも「強くなりたい」という願望があったからではないかと…
「僕は早く強くなりたい」
雪奈に悪いことしたから‥
僕がもっと強ければ、せめて自分の身を守ることくらいでも出来れば
あんなことにはならなかったんだ
雪奈はそれを自分のせいだってすごく悔やんでいると思うんだ だから‥」
その質問に対して冬弥はそう答えた
「それはきっと雪奈ちゃんも同じことを考えているよ」
蘭は自分を責め続ける冬弥を制す
「いい子だね 二人とも。 言葉には出さなくてもお互いを思いやっている
自分も大変な状況なのにも係らずにね」
そういって優しく微笑んだ
覚醒者となりEGSの依頼をこなす蘭は
今まで何人もの異常者を見てきた
絶望し狂ってしまった者から自分の殻に閉じこもる者までそれこそ千差万別
そんな人間も多い中で自分より他人を思う二人を見て心底嬉しくなる
「みんな大変なのは蘭姉もでしょ、人のこと言えませんよ」
「そうかもね みんな一緒…だね」
***
「信じてあげなよって事」
「??? う、うん」
蘭の言葉に素直に頷く雪奈
雪奈に重荷となるかもしれないと思い言葉を濁した蘭だが
話さなくても雪奈は理解していた
きっと自分のせいでもあるのだろうと…
お互いがお互いを心配し、重荷にならないように勤めている
そんな二人を信じて助けていこうと蘭は思った
大切な人を失った事があるからこそ… この二人をきっと…と
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