Battle Field

 

3.「屍山牙の章」−

 

−「01.教会」−

 神はいます そして私たち一人一人を見守ってくれているのです。
 世の人々は唯一人の例外もなく神の愛に包まれ
 私達はその神の寵愛を皆に伝えるのを天命としています。
 救われない人はいない、正しき心無き人はいない。
 私は信じています 神が御作りになったこの世の全てを。

 神様の事は正直深く考えたことはない。
 良い事があった時には感謝するし、困ったときは助けを求める。
 そんな時以外には神様の事はあんまり考えたりしない。
 神様って信心深く無い人も助けてくれるのかな。

 神は居ても居なくても俺には関係がない。
 何故なら俺の行動は神ではなく俺自身が決めるからだ。
 欲望と本能のままに行動し快楽を求め彷徨う。
 もし、俺にとって神という存在があるのだとしたらそれは俺自身だ。

 神は居ない 世の中は不条理な事で満ち溢れている。
 心正しき者が鬼面獣心の鬼畜どもに未来を奪われる。
 そんな事が起こる世の中を野放しにする神などいるものか。
 もし、神がいるのだとしたらそんな俺達の苦悩を喜んで見ているのかもしれない。
 虫カゴの中の生き物を観察する子供のように……



     ***




「今日の特訓ここまでや」
「あ、ありがとうございました〜」
 冬弥と蘭の特訓が始まって一ヶ月が経過した。
「この一ヶ月で大分良くなってきたで」
「スタート地点が低かったですからね」
 特訓が始まった当初は4時間程度で体力は限界に達し
 蘭に部屋まで運んでもらっていた冬弥だったが

 今では8時間以上を特訓時間に割り当てれる程になっていた。
「お疲れ様」
 特訓が終わったのを確認した雪奈が二人にタオルとドリンクを渡す。
「髪、大分伸びたね」
 冬弥の汗で湿り垂れている髪を見て雪奈が言った。
「あぁ ここに来てからは髪や爪とかが伸びるのが早いんだよね」
 冬弥は長さを確かめるように前髪を自分で引っ張っている。
「それは冬弥クンがエッチやからや。
 エッチだと伸びるのが早いって言うしな 」
「え?」
 蘭の答えにビックリした顔で冬弥を見る雪奈。
「蘭さん な、何を根拠にそんなことをいうんですか!?」
 ホンの少し頬を赤らめた雪奈のその表情を見て慌てて冬弥が否定する。
「冗談やって」
 本当に信じてそうだった雪奈を見てさすがにヤバイと思ったのか
 すぐさま蘭も冗談だと伝える。
 その後のホッとした表情の雪奈を見て
 本当に危なかったと二人は感じた。
「真面目な話、それは夕菜の“符”の所為やろ。
肉体を強制的に回復させてるからな。
その影響で身体の成長が促進されたんだと思うで」
 蘭の説明に「へえ〜」という表情を見せる二人。
「お〜 という事はもしかして背も伸びたのかな?」
 そう言ってパアッと明るい笑顔になる冬弥。
「成長期なら伸びてるんだろうけどね」
 アッサリと苦い現実を突きつける蘭。
 ガクッとうなだれる冬弥。つらい。
「さすがにもう‥」
 さらに雪奈が追い討ちをかける。
「はぁ〜 期待したのに‥」
 冬弥は男性の平均身長よりかなり低い。
 その分気にしているのだろう。
 かなり本気で落ち込んでいる。
 しかし、背は伸びてこそいないが
 体つきは間違いなく逞しくなり、何より強くなっていた。
 格闘術に慣れている蘭が相手なのでその成長の度合いは
 目立ちこそしなかったがすでに一般平均能力は軽く超えている。
「確かに冬弥クンは強うなった‥ 反射神経とかは常人以上のレベルやし。
どうも覚醒者としての身体能力の向上も拍車をかけてるみたいやね。
特に“降魔”系の人は向上率が高いしな」
 蘭は成長について落ち込んでいる(と言っても背についてではあるが)冬弥に
 おそらく自覚していないであろう事実を伝え気分をほぐそうとする。
「へえ〜 そうなんですか」
 そう答える冬弥の表情からはやはり自覚していなかった事が読み取れる。
「あと一ヶ月くらい続けたら別の特訓に変えるから」
「はい」

 




 翌日
「さあ 今日も一日特訓や

「オ〜」
 ここ一ヶ月の毎朝の光景だ。
 いつも元気いっぱいの蘭の掛け声に力無く冬弥が答える。
「冬弥クンはいつも朝は元気ないな」
「朝は弱いんですよ〜」
 目を擦りながら答える冬弥は半寝状態だ。
「シャキっと起しえたげよか?」
「いえ、もうその一言で目が覚めました」
 握り拳を構えながら言われると誰でもそう答えるだろう。
 直に会ってからはまだ短い付き合いだが蘭が本気でやろうとしているのを知っている。
「何かムカツク〜」
 これもまたいつもの会話。
 が、たまに異様な叫び声が部屋に響く時もある。
 当然、拳を使っての起こされ方を実践されたからだ。すでに冬弥は何度か経験済だ。
「じゃあ ボクも行って来ます 今日もちょっと遅くなるので」
 冬弥と蘭が家を出ようとする時に制服姿の雪奈も一緒に玄関へ向かった。
 清潔感のある青をメインとしたジャケットタイプのセーラー服。
 腕は腕章、胸にはチャームポイントらしき大きな黄色いリボンが結ばれている。
 学校の制服にしては少し奇抜なのは若者に有名な新進デザイナー「ヤヨイ ハルコト」がデザインしたからだ。
 そのおかげで学校は例年、特に女生徒の方は結構倍率が高いものになっているらしい。
 制服というのは不思議と学生時は普通だが卒業すると何故かフィルターがかかり魅力的に見えてくる。とくに男性。
 もちろん女性免疫のない冬弥も例外ではなく未だに見るとドキッとしている。
「何、雪奈ちゃんをジロジロ見てるの?」
「ジ、ジロジロなんて見てませんよ」
 実際、そんな風に見てはいないのだがこうやって冬弥が蘭にからかわれるのもまた日常となっていた。
 雪奈はこっちに来て二日後からは復学し学校に通っている。
 EGSの一員とはいえ、学生なので学業にも専念している これは機関の方針でもあるらしい。
 冬弥と蘭は特訓、夕菜は部屋で任務情報の整理や報告書の作成、雪奈は学校。
 これが現在の4人の一日のサイクルとなっている ちなみに家事は当番制だ。
「「いってらっしゃい」」
「行ってきま〜す」
 朝から元気よく出かける雪奈を見送る二人。
「雪奈は放課後いつも何処へ行ってるんでしょうかね」
 見送った後に冬弥の口にした質問に蘭はキョトンとした顔で答える。
「あれ?  知らなかったっけ‥ 教会や」
「教会って神父とかのいるあの教会ですか?」
「そう、学校の近くに教会があってな、そこへ通っとるみたいやで」
「へえ〜 雪奈ってキリスト信者だったんですね」
「そういう訳じゃないみたいやけど‥ 何か神様に言いたいことでもあるやろか?」
「文句なら僕はありますけどね」
 と冬弥がポツリと本音を出す。
 無意識に出た他愛無い言葉ではあったがやはり自分の生活が悪い状況だと思っているのだろう。
 そんな思わず出た冬弥の言葉を蘭は少し悲しげに聞いていた。
「頻繁に行くということはよっぽど大事なことなんでしょうね」
「実は男に会いに行ってたんだったりしてな」
 ニヤニヤしながら言う蘭に
「まさか〜 それは無さそうですが」
 と冬弥も冗談半分に返答する。
「どうやろ〜 一度あたしも行った事があるけど神父がけっこう美形だったで」
 蘭はチラリと冬弥の様子を伺いながら話す。
「へえ〜 そうなんですか それじゃそうかもしれませんね」
「ちぇ リアクションがツマラン‥」
 サラリと返事をする冬弥の態度に
 ガッカリと俯く蘭 何か別のリアクションを期待していたらしい。
 そのまま二人は屋上へと向かった。
「冬弥クンは神様って信じとる?」
「あいにく僕は無宗教でして‥」
「ふ〜ん あたしと一緒だ」
「“信じる者しか救わないセコイ神様拝むよりは‥”っていうでしょ」
「はは なるほどね、それじゃ自分の力で何のとか出来るようにならなくちゃね」
「はい」
 屋上に着いた二人はそう言って構えをとった。



   ***

 

 陽も傾きかけた時刻。
 学校での授業を終えた雪奈は一直線に教会へ向かっていた。
「こんにちわ 神父様」
「こんにちわ 毎日熱心ですね」
 教会敷地の入り口で神父が迎えてくれる。
 一般の神父とのイメージは違い年齢は20代と若いが
 終始落ち着いた言動や雰囲気、十字架を首に掲げた黒づくめの服装からは
 確かに神父の気品が感じられるように思える。
 神父が若いせいかどうかは分からないがこの教会には普段は立ち寄る人は少なく
 故に神父がこの数週間の間、頻繁にしかもほぼ同じ時刻に来る少女の事を覚えるのは時間は掛からなかった。
 今では雪奈を心配してかこの時間はいつも入り口近くに立っている。
 にこやかな表情はそのままに神父は雪奈に話しかける。
「今日は何か良いことありましたか?」
「いつもと一緒です 周りの人もみんな元気でした」
「それはよかった 平穏にこそ幸せは溢れているものです」
「そうですね ボクもそう思います 」
 二人とも笑顔で会話をする。
 そして、少し間を置いて神父は雪奈に質問をした。
「いつも礼拝にいらっしゃいますが
あなたはクリスチャンではないですよね?」
「あ、はい‥ すみません」
「いえいえ、謝ることはないんですよ
何となくそう思っただけですから
こちらもそんな質問をして申し訳ありませんでした」
 神父は少し困った顔をしながら謝る。
「神様にお願いしたいことがあるんです
 ここなら一番神様に近いかなって‥」
「そうですか‥ 大丈夫、きっと神はあなたの事を想ってくれていますよ
大事な事なら尚更ね さぁ今日もいつものように神に祈ってください」
「はい」

 教会・教壇

 教会に入り、会衆席を抜け教壇の前に立つ。
 教壇後方に設置してある大きな十字架に向かって両手を合わせた。
 礼拝が終わり、振り向くと神父は雪奈の後ろに立っていた。
 終わるのを待っていたのだろうか、見守っていたのだろうか。
 その顔は静かな笑顔をしている。
「終わりましたか?」
「はい。 神父様、お聞きしたいことがあるんですが」
 そんな神父に雪奈は問いかけた。
「はい、なんでしょう?」
 神父は笑顔のままで答える。
「祈ることで本当に願いが叶うんでしょうか」
 我ながら場違いな質問だと思ったのだろう。
 罰の悪そうな表情で問いかけた。
「そうですね、祈る“だけ”では難しいでしょうね。
何かを成す為にはそれ相応の努力が必要です。
神はその努力に対してホンの少し力を貸してくれているのに過ぎません」
今、あなたの願いが叶うのだとしたら
その“努力”と“あなたの想い”が結果として現れただけの話ですよ。
神に感謝すると共にその為に行った努力を評価してあげればいいと思いますよ」
「はい ありがとうございます」
 感謝の気持ちを込めて頭を下げる。
 自分のしていることは無駄ではないと言ってくれた事に。
「それでは、今日はもう帰ります 今日は夕飯の当番なので」
「若いのに家の手伝いとは感心ですね 気をつけてお帰りなさい」
「はい」
 雪奈は教壇を降り会衆席を抜け出口に向かう。
「そうだ、一つだけお話しておきましょう」
 そこで神父が話しかけた。
「神は居ますよ 一人一人の心の中に
人間は魂という根源を神自身に似せて作られました。
故に神は皆の全ての行動を見通しています。
あなたのその懺悔の心も慈愛の心も当然知っています。
きっと良い結果を与えてくれることでしょう」
 静かに眼をつぶり、自分の胸に手を当て
 優しく諭すように話す神父に
「はい、ありがとうございます」
 雪奈は訪れた時と同じ笑顔で答えた。


  ***


「ねえ 蘭ちゃん 雪奈って教会に行ってるんだよね」
「うん そのはずだけど どうかした?」
「ちょっと気になる資料があって‥」
 特訓が終わって部屋で休んでいる冬弥と蘭に
 パソコンを見ながら夕菜が話しかける。
「え? どうしてですか?」
「ちょっとEGS専用事件の一覧を見てたんですけどこんな事項が‥」
 蘭と冬弥は夕菜が指差したパソコンの画面を覗き込んでみた。

 

 

−連続教会襲撃事件−
 2001年から発生している連続襲撃事件
 現場の現状、傷跡から推測する凶器等全て同一
 犯人不明 現場の異常性、痕跡等の調査により異常覚醒者の可能性大
 襲撃予想地区の確定が不可能な為各自警戒
 任務ランク A  犯人呼称コード “ジューダス”
 イレイザー専属任務の為、行動(アタック)部隊含め全部隊は情報提供以外の行動の禁止


「イレイザー専属任務ってどういうことですか?」
「“Eraser”(イレイザー)は“EGS”の特務隊の名称
13人の覚醒者によって構成される戦闘専属部隊
この部隊専門ということは非常に危険な為、他の部隊は戦闘行為等は厳禁ってことですね」
 ゴクリと唾を飲む冬弥。
「一番新しい被害現場は隣の県やな」
 さらりとさらに緊張感を煽る事実を蘭が見つける。
「教会の数も多いから全部は警備しようがないしな」
「一応、雪奈にも話した上で警戒をしておきましょう
 目撃しても決して一人で戦ったりしないようにね」
「そうですね」

 

 

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