
−4.「鬼哭蒐啾の章」−
−「鬼哭」−
街の明りも遠くに映る山の中腹
外灯は無く、月明かりだけが頼りなほど暗い場所
「今日こそ出ますかね?」
「正直、そろそろ出て来て欲しいな」
ある霊園区画の端にある墓石の影に隠れて冬弥と蘭が周囲を監視していた
「雪奈達の方はどうなんでしょう」
「定期連絡はちゃんと来とるし、特に異常はないみたいやで」
夜な夜なこの墓地に調査で通い始めて今日で六日目
出現する可能性が高いと思われる広大な霊園
尚且つ、発見しやすいであろう灯りの少ない所を選んで張り込みをしているのだが
今日まで一向に成果が出るどころか未だ鬼火の出現すら確認できていなかった
「それにしても墓場は怖いですね」
「なんや冬弥クン お化けとか苦手なんか?」
「それなりに‥」
といいつつ持っている根(こん)を握り締める冬弥
実際にお化けは苦手らしい
「任務に参加した理由‥ 聞いてもええか?」
少し間をおいて蘭が静かに聞いた
「理由はいろいろありますが一番はやっぱり強くなりたいからです」
「‥‥」
蘭は静かに冬弥の話を聞く
「特訓の時にいくら戦えても実戦でそれが出来なくちゃ意味が無い
あの教会の戦闘跡を見て思いました 僕があの時あの場所にいても
きっと何の役にも立たなかっただろうって‥」
寂しげに俯いたまま冬弥はさらに続ける
「だから任務で経験を積みたいんです
と言ってもランクの高い任務だと危険だし
この任務なら少しは役に立てそうかなって‥」
「単なる興味本位だとぶん殴ったやろうかと思ってたけど
やっぱり そうか‥ 焦ってたんやな」
「すみません」
そう言った蘭の表情は少し安心かのようなものだったが
冬弥からは謝罪の言葉が出た
「先日、雪奈ちゃんにはそう理由じゃないかなって言っておいたよ
あれから雪奈ちゃんまた少し落ち込み気味だったし」
「すみません‥」
再び俯いたままの冬弥から謝罪の言葉が出る
「この件が終わったらちゃんと理由言ってあげなよ」
「はい」
***
さらに何時間か過ぎた頃
フッと墓場の中心辺りに青白い光が現れた
二人に緊張が走る
「蘭さん あれ…」
「鬼火だ… とうとう出たね」
光はユラユラと上下に揺れながらそれは宙に浮いている
その動きを追っているとフッとまた別の新しい光が現れた
その時、冬弥が何か見つけたように指を差した
「蘭姉… 人が居ます…」
「え?」
指差す方向は暗く、人がいるのかは蘭には確認できなかった
「ホントに?」
「はい」
この暗闇の中で人がいることを視認出来るのだろうかとも思ったが
冬弥は一点のみを見据えている それを見て蘭は信じることにした
「わかった… とにかく気付かれないように近くに行くよ」
姿勢を低くしそのまま冬弥の指差した方向へ近づいた
その後を冬弥もゆっくりと付いて行く
光はその後もすこしづつ増え続け
近づくころには光の数は十数個になっていた
その中の一つが冬弥のすぐ横を通り過ぎる
(蛍の光みたいだ…)
それを思わず目で追う冬弥
( あれ?)
その時、光の中に“何か”が見えたような気がした
冬弥はさらに近づいてジーッと見ようとする
そして、気が付いてしまった
光の中にある 人 間 の 顔 に
中に見えた者のその表情は阿鼻叫喚を訴えているようであり
まさに“死霊”と例えるのが正しいものだった
「うわああああっ!!」
それを認識した瞬間に背筋は凍り、叫び声を上げてしまった
「ど、どうしたん!?」
その叫び声に蘭が驚いて振り向く
「誰だ?」
そして、それに気が付いたのは蘭だけではなかった
向かっていた闇の中から一人の男が現れた
***
「ちっ! 見られたか!」
舌打ちを鳴らして現れたそいつは
いかにも面倒そうな表情を浮かべて言った
現れた男は20代後半、長身に後ろと横だけ伸ばした髪、鋭い目付き
Tシャツに膝より下まであるのロングコート羽織っている
「!?」
すぐさま、後ろに下がり男と距離をとる二人
時刻は真夜中の午前2時、場所は墓場
そして、周囲に浮かぶいくつもの鬼火の中
警戒するには十分すぎる理由が揃っていた
「蘭さん この人…」
「うん、警戒を怠らないようにな」
冬弥に指示をしたあと、男を見て蘭がゆっくりと口を開く
「あんた誰や? ここで何やってんの?」
「逃げないのか… これは好都合だ」
まるで聞こえてないかのように男は言った
そして、そのまま右手を男が差し出すと
その手前に一つの鬼火が近寄ってきた
「行け」
男が軽く命令するとそれはイキナリ二人に向かって
物凄い速度で飛んできた
とっさに二人は左右に分かれてかわす
かわされた光はそのまま後ろの墓石にぶつかり
叫び声のような衝撃音と共に飛散した
その衝撃で墓石の表面がボロボロと崩れる
「っ!?」
「なっ!!」
それを見て驚く蘭と冬弥
だが、男の方へ向き直った時にさらに衝撃を受けた
すでに男の周りには十数個にも及ぶ光の玉が集まっていた
「皐月!」
“ただの光じゃない”と判断した蘭はそのまま皐月を呼び出した
それと同時に光の玉が一斉に二人に向かって飛んできた
「冬弥クン あたしの後ろに!!」
そして、そのまま左腕を正面に突き出す
「百式武装! 左篭手(レフトガントレット)!!」
光となった皐月が蘭の左手に巻きつき拳強化型の篭手となる
すばやくボクシングスタイルで構えを取り
襲い来る光を全て左ジャブで打ち倒す
連続した激しい衝撃と叫声の混じった破裂音が辺りに響き渡る
「うわっ!!」
間近で発生する衝撃と巻き起こる砂煙に冬弥は目を開けることすらやっとだった
何度その衝撃があっただろうか
しばらくしてその音が止み、元の静かな状態に戻る
「ふう」
全部打ち倒し、蘭が息を付いた瞬間
煙と墓石の影に隠れて左右から光が飛び出し蘭に襲い掛かった
「しまっ‥!!」
完全に不意を突かれた蘭だったが
当たる!と思った瞬間
「蘭姉!」
冬弥は持っていた根をすばやく突出し
左右から襲った二つの光を一瞬で突き壊した
激しい衝撃が根を持つ冬弥の手に伝わる
「だ、大丈夫でしたか?」
「うん ありがと‥」
驚いた顔のままでお礼を言う蘭
体に怪我は無い それ見てホッとする冬弥
「ほう、俺の“鬼火”を打ち消すとはな…」
大して驚いた様子もなく男は言った
「先程の能力‥ お前ら、覚醒者か」
そして男は蘭の能力を見て覚醒者だと理解していた
それと同時に冬弥と蘭の二人も理解していた “この男は覚醒者だ”と
「それよりあんた、この光の媒体はまさか‥」
「見りゃわかるだろ この場所といいそれ以外に何がある?」
小馬鹿にしたように男は蘭の言葉に答える
「やっぱり 魂魄を媒体にした能力か」
「魂魄って‥ 人の‥ 魂‥?」
死人の魂を媒介にした能力 その事実に冬弥の顔が蒼白になる
先程見た光の中の顔、弾けた時の叫び声のような破裂音
それらは全て、かって人の中に宿っていた魂の姿だったのだから
「その通り」
「どうりで気配を感じないと思ったよ」
蘭は悔しそうに答えた
それを見て男はフッと鼻で笑う
その時、男の周りを白い小さなものが飛んでいるのを冬弥は見た
「その蟲‥」
「ほう、この暗さでよく俺の使い魔が見えるな」
暗闇を飛ぶそれはとても小さく
白色の身体は闇の中に溶け込んでいる
事実、蘭にはそれを視認することは出来なかった
だが、冬弥には見えていた
先程まで弾けていた光の中から飛び出たものと同じものが
男の周りを飛んでいるのを
「この一匹、一匹が捕獲した魂を具現化させることが出来る」

そして、その蟲達は青白い光に包まれ
“鬼火”と呼ばれた先程までの光へと姿を変えた
「ここには“弾”がたくさんあるからな」
***
「冬弥さん! 蘭姉さん!」
異常な事態を察したのか、別の区画にいたはずの雪奈と夕菜が現れた
「ちっ 新手か?」
「この人は…」
男が舌を打ち鳴らしたのと
それに雪奈と夕菜が気が付いたのは同時だった
「気を付けて! 覚醒者だ!」
「えっ!?」
雪奈と夕菜が驚いた表情を浮かべた時には
すでに男は行動を起こしていた
「邪魔は消えてもらおう!」
男が力強く地面を叩くと
振動と共に周囲の地面に亀裂が走る
「みんな避けて!!」
危険を察知し蘭が叫ぶ
「哭壁!!」
同時に不気味な音と共に
亀裂から青い光が噴出する
それは実態を成して数メートルの高さにまで達した
不可侵の壁の完成である
「障壁!?」
蘭が周りを確認すると男を中心に半径10数メートルの範囲が
吹き出る光の壁に囲まれていた
「これで分断されたな」
その壁に分断される冬弥達
障壁の外に冬弥と雪奈 そして
「蘭姉! 夕菜さん!」
内側には蘭と夕菜の二人が残された
もはや冬弥の声は内側の二人には届かない
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