Battle Field

 

−4.「鬼哭啾の章」−

 

−「03.百鬼」−

「蘭姉!! 夕菜さん!!」
 冬弥の叫ぶ声は中にいる二人に届く事はなかった
 壁から発生するその地の底から聞こえてくるような“音”
 いや“声”に全て掻き消された
 青白い光の壁の中に時折見える人達の阿鼻叫喚の声
「ぐっ!」
「うっ!」
 二人はその“声”を聞いているだけで
 込み上げてくる嘔吐感を必死に押えた

 

     ***

 

 障壁の中では距離を保ったまま蘭と夕菜は男と対峙している
「この死霊の声の中で平気で立っていられるとは大したものだな」
 男は薄ら笑いを浮かべたままそう言った
「あなたはアナザーの人間ですか?」
「そういうお前等はEGSか?」
 夕菜の質問に男は質問で返す
 だが、その言葉には肯定の意味が込められていた
「はい、 EGS所属の麻生夕菜です
EGSとしてあなたに命令します 直ちに能力を解除し
私達の指示に従って下さい 」
 夕菜は表情を変えずあくまで冷静に要求を伝える
「言う事を聞くと思うか?
どっちにしろ上から“目撃者は消せ”って言われてるんだ」
 そう言った男から放たれる殺気に
 説得は無理だと蘭と夕菜は理解した
「あんた名前は?」
「“御堂 琢磨(みどう たくま)”」
「御堂‥ね」
 蘭が確認するように名前を口にする
「くっくっく 名前を聞くってことは殺る気があると思っていいんだよな」
 EGS所属の覚醒者にとってのルール
 それは“戦闘行為の前に相手の名前を知る”こと
「野蛮な推理だけど‥ 今回は当たりだよ」
 武装をガントレットのまま蘭が構えをとる

 

     ***

 

「加奈!」
 夕菜が加奈を呼び出す
 その小さな手にはすでに符が何枚も握られている
「行くよ夕菜」
「ええ」
 蘭、夕菜、加奈人が同時に動いた
「“火”よ 眼前の敵を焼き討ちなさい!」
 夕菜が念じると加奈の持っている符に“火”の文字が現れる
『火弾』
 放った符が燃え出し幾つもの火玉となって御堂に向かう
「ふん」
 御堂は数個の“鬼火”を火玉に向かって放つ
 叫喚の声と共に火玉を鬼火が打ち消した
「甘いな」
 数の少なくなった火玉は御堂に難なくかわされる
「あんたもね」
 その隙をついて蘭が背後を取った
 皐月はすでにその形状を斬馬刀へと変えている
「はあっ!!」
 必殺の間合いとも呼べる距離で、巨大な刃が御堂を捕らえた
 が当たるかと思われた瞬間、刃の側面に鬼火が命中する
 その衝撃で軌道がずれ、刃は御堂の横をすり抜けた
「誰が甘いって?」
 その言葉と共に御堂は一瞬にして蘭との距離を取り
 鬼火を蘭と夕菜(加奈)に向かって放つ
『火弾!』
 今度は逆に加奈の放った火玉がの鬼火を打ち消す 
 蘭もその巨大な刀で一気に切り落としす
 二人共“正面”から向かってきた鬼火の攻撃を全て防いだ、が
「あっ!!」
「ぐあっ!!」
 二人が“全弾防いだ”と思った瞬間に鬼火が“背中”に直撃した
「後ろから!?」
 痛みを堪え、すばやく二人が後ろを振り向くがもちろん誰も居ない
 だが次の瞬間、障壁から鬼火が放たれた
「障壁から!?」
 その攻撃を二人はとっさにかわす
 さらにその瞬間を狙って今度は御堂が正面から鬼火を放つ
「うおおおおおっ!!」
 蘭は雄たけびを上げて斬馬刀を渾身の力で振り回した
 前後から迫る鬼火を周りの墓石ごと撃ち倒す
 辺りに墓石が崩れる音と鬼火の叫喚が響きわたる
「夕菜!」
 そして、攻撃の一瞬の間をついて
 蘭は夕菜の傍に駆け寄る
「ごめん… 避け切れなかった」
 先ほどの挟み撃ちを避け切れず跪く夕菜の左足からは血が流れている
 蘭はあわてて加奈の方を見るが『火弾』を直接放てる加奈の方はどうやら無傷のようだ
「大丈夫、加奈が無事ならまだなんとかやれるわ」
 背中と左足の痛みを堪えゆっくりと夕菜は立ち上がる
 蘭はすばやく夕菜に背中を合わし障壁からの鬼火を警戒する
「強いわね… まさか障壁からも打ち出せるとは思いもしなかった」
「多対一の戦闘が得意な遠距離タイプか
近距離型のあたしが一番苦手なタイプやな」
 夕菜と蘭の表情にはすでに余裕はなかった
 二人で戦う場合は夕菜が遠距離で相手の隙を作り
 蘭が近距離で仕留めるというのが基本のスタイルだった
 だがこれは相手が夕菜を上回る遠距離タイプだった場合には効果が薄い
 夕菜がすでに傷を負い動けない状況の今は時間を稼ぐことすら意味はない
「消耗戦になるとやばい 一気に決めよう」
 夕菜の傷具合を見て蘭はそう提案した
「でも、どうやって…」

 おおおおおおおあああああああ

 夕菜の最後の方の声は急に激しくなった
 霊達の叫び声に掻き消された
 障壁内の空気ねっとりと重くなり身体に絡みつく
 吐き気を催す程の不快感が二人を襲う
「な、なに…?」
「夕菜!! 前を見て!」
 辺りを見回す夕菜に
 横目で御堂を確認した蘭が驚愕の声で叫ぶ
「な、なに… あの数…」
 夕菜の驚愕の表情を見て御堂は唇の端を上げてニヤリと笑う

『百・鬼・夜・行  最大顕現!』

 

     ***

 

 御堂は恐ろしいまでの数の鬼火に囲まれていた
 鬼火と鬼火との間から向こう側が見得ないほど密集しており
 その列が障壁の中を塞ぐようにに並んでいる
「まだ障壁外に二人残っているからな お前らに時間をかける訳にはいかない」
 その言葉が合図かのように全ての鬼火が一斉に輝きを増す
「俺はお前らを過小評価したりはしない 最大の技で一気に仕留める」
 とても全弾防げるレベルではなく、障壁で逃げることも出来ない
 だがこの絶望的な状況で蘭と夕菜から目の光は失われない
 腹を決めたという事だろうか先ほどより強い意思の篭った目に変わる
 蘭も御堂の方へ向きなおし構えをとる
「夕菜、聞いて」
「なに?」 
 不安げに聞く夕菜に蘭が小声で話しをする
「それしかないわね」
 それを聞いて夕菜は苦笑いをする
「ごめんね キツイよ」
 それに対し蘭も苦笑いで答える
 どちらにしろ策を考えれる時間はない
 思いついたらそれを実行するしかなかった
 スゥーと大きく深呼吸をして夕菜は御堂をキッと睨む
「行くわよ 加奈」
 それを聞いてコクリと加奈が頷く
 そして、手持ちの符を1枚だけにして
 それにありったけの力を込めるように念じ始める
「死ねえ!!!」
 力を込めて御堂が両手を前に突き出す
 鬼火の群れは一つの塊と化し
 巨大な津波のように蘭と夕菜に襲い掛かった
「夕菜、加奈 伏せててよ!」
 蘭が巨大な斬馬刀を振り回す
 周囲の墓石を横一文字に切り裂いた
「はあああっ!!」
 さらに力を込めてその場で一回転
 野球のバットを振るように刀の側面で切断した墓石を撃ち飛ばした
 断末の叫び声と共に墓石の巨大な礫は鬼火の津波を僅かながら弱める
「“地”よ その力で我が身を守護せよ!!」
 符に“地”の文字が現れ、加奈がそれを前方の地面へ向かって投げつける
『大地の盾』
 符が張り付いた場所から地響きと共に周りの墓ごと地面が盛り上がる
 一瞬にして盛り上がった土は小山と化し夕菜達を護る巨大な盾となった
 鬼火の津波と盾が衝突する
 山全体の空気を震わすほどの衝撃と
 激しい爆発音と叫喚の声が辺りに響き渡る
「きゃあああ!!」
 盾はその衝撃で粉々に砕け散り
 受け止め切れなかったエネルギーは
 その背後にいた夕菜と加奈を吹っ飛ばす
 視界の悪い中でそれを確認した御堂はニヤリと唇を歪めるが
 すぐに辺りに蘭がいないことに気がつく
「もう一人… 上か!!」
 真っ暗な闇夜の中、自分に向かって上空から迫ってくる何かを
 御堂はハッキリと感じ取った
「これで終わりだ!!」
 手元に残しておいた鬼火を一斉を空へ向かって撃ちだす
 
  ドオオオオン
 
 空中で起こる爆発音
「終わったな…」
 勝利を確信した御堂の周りにパラパラと
 空中で破壊された“墓石の破片”が降り注ぐ
「なっ!?」
 “破壊したもの”が墓石だったことに御堂が気がついた時はすでに遅かった
 空中で墓石の裏に隠れ難なく間合いを詰めた蘭の斬撃はすでに御堂を切り裂いていた
「がはぁ!」
 御堂は苦痛の声と共に吐血しその場に倒れる
「ゴホッ! き、きさま…」
「はぁはぁ 動かない方がいいよ… 峰打ちとは言え、肋骨が何本か逝っただろうからね」
 武装を日本刀に変えた蘭の斬撃 落下のエネルギーを加えて放った一撃は峰打ちといえども
 十分に殺傷力があるほどのものだった
「死にはしないけどもう動けないはずだ 悪いけど拘束させてもらうよ」
 その言葉に不敵な笑みで御堂が答える
「悪いが無理だ… アナザーとしての… 始末が…ある…」
 その言葉と共に御堂の体が光に包まれる
「なっ!? まさか!」
 目も眩むほどの発光が収まった後には青く光るエレメントだけが残されていた
「自害!? くそっ!!」
 力いっぱい拳を地面に叩きつけた
 そして、廻りの障壁はゆっくりと消えていき霊園は元の静かな時間を取り戻した
「蘭姉!! 夕菜さん!!」
 障壁が消えたことで冬弥と雪奈がこちらに駆け寄ってくる
「あたしはいいから夕菜を!」
 蘭はすぐさま夕菜と加奈の元に駆け寄る
「大丈夫?」
「なんとかね… 二人がかりでやっととはね… 一対一だとやばかったね…」
「うん、かなりの強さだったよ」
「夕菜さん! 左足が!」
 怪我をし、土塗れの夕菜を見て雪奈が悲鳴に近い声で叫ぶ
「大丈夫 もう止血処理はしたから後は安静にしてれば問題ないわ」
 出来るだけ安心させるような口調で夕菜は答える
「加奈ちゃんもボロボロじゃないですか…」
 冬弥の心配に対し笑顔で答える加奈 大丈夫と言いたいらしい
「あの… あの男の人は…」
 冬弥の質問に蘭はチラリと目線だけでエレメントを差す
「あっ…」
 “覚醒者の死” それ見て冬弥と雪奈は言葉を失う
「自害したよ 自分の始末を付けるってさ」
「そう…」
 予想がついていたのか夕菜は驚きはしなかった

 

     ***

 

「ご、御免なさい」
「全然… 役に立ちませんでした」
 二人に誤る冬弥と雪奈の服はいつのまにかボロボロになっており
 所々少量だが出血もしている 冬弥に至っては持っていた根は真ん中の方で割れている
 障壁を破ろうと外側から無茶をしたのだろう
「そんなことないよ 二人が外にいたからこそ勝てたんだよ」
「ホントですか…」
「相手も勝負を急いでたからね 長期戦になってたらもっとヤバかったね」
 それを聞いてゴシゴシと潤んでいた涙をふき取る雪奈
「さぁ 帰りましょう」
 そして、笑顔でそう言った

(それにしてもDランク任務にアナザーの覚醒者が関与していたなんて…
これじゃ最低でもBランク以上の任務になる EGSの調査ミス?)
(それとも予想以上にアナザーのメンバーが増えてきているのかしら?)
 蘭と夕菜は二人とも今回の件を不審に感じた
 冬弥と雪奈は己の力はまだ未熟だと実感させられた
 今回の戦いを得て、それぞれ現状に対して危機感を持つことになった
 それが今後、吉とでるか凶とでるか… それはまだ誰にもわからない
 鬼の哭いた夜はこうして終わりを告げた

 「任務 :墓地に出現する鬼火を調査確認せよ」 −任務終了− ランク “D” “B”

 

 

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