Battle Field



−番外 1.「常茶飯」−

 

−「第 4章 鬼哭集の章」から「第 5章 比翼理の章」の間の話−


「ちょっと冬弥さんにお願いがあるんですけど」
 両手を後ろに回して少し困った表情の夕菜に
 僕ががお願いをされたのは平日のお昼前のことだった。
「何ですか?」
 聞いてみると夕菜さんは背中から手さげ袋と魔法ビンを出してきた。
「今朝、雪奈ってばお弁当忘れていったみたいなの」
「弁当ですか……」
 雪奈の通う学校には食堂があり多くの学生も利用しているらしいが
 「旨く夕飯等の材料を調整すれば弁当の方が安くなる」という家庭的な理由で
 雪奈は昼食はいつも弁当となっている。
 その弁当がここにあるという時点でお願いの内容を推理するのは容易だった。
「すみませんが届けてもらえますか?」
 幸いにも今日は特訓もない休日だ。断る理由は無い。
 何気に重い手さげ袋の中身を気にしつつ、渡された地図を確認しながら目的地を目指す。
 学校の近くに来て驚いた。平面の地図では分からなかったが校舎は小高い丘の上にあったのだ。
 緩やかではあるが全体的にはかなりの距離がある。
 やられた。思わずため息が漏れる。

 息切れしながら学校へ着いたのはお昼休みに入る時間の5分前だった。
 『成嶺学園(せいりょうがくえん)』 校門には大きくそう書いてあった。
 EGS関連の者が運営している私立の学校らしい。
 学校への入り口は閉じられていなかったのでそのまま敷地内へ足を踏み入れ
 グラウンドで汗を流している生徒達を横目に外周沿いに校舎を目指す。
 そして校舎の端にたどり着くという時にチャイムの音が鳴り響いた。
 同時に静かだった校内が少し騒がしくなる。どうやら休み時間に入ったようだ。
 ポケットから携帯電話を取り出し雪奈へ電話を入れる。
 学校内ということもあり出てくれるだろうかと不安を感じていたが
 意外にもすぐ電話は繋がりホッとした。
『はい、雪奈です』
「えっと 冬弥だけど」
『えっ? 冬弥さんどうしたの?』
「お弁当の配達を頼まれてね。学校に来たのはいいけどどこに行けばいいのか分からないんだ」
『今、どこにいるの?』
 キョロキョロと廻りを見回し目印になるものを確認する。
 今いる場所は体育館と校舎との間の緑のある広場だった。
「何処といわれても……、体育館と校舎の間。何か庭みたいなところ」
「ガーデンにいるの? すぐ行くからそこ動かないでね」
 すぐにという言葉お通り、雪奈が来たのはホンの数分後の事だった。
 だが、見つかったら摘み出されるかも……と内心ビクビクしていたので待ってる時間はとても長く感じた。
「遅かったね」
「え〜、急いで来たのに」
 二人は心境の温度差がにじみ出ている会話を交わす。
「待ってる人は時間が長く感じられるって言いますもんね」
 その声はと雪奈の背後から聞こえた。
 その声のした方に顔を向けると
 雪奈と同じ色の腕章を付けた制服姿の女の子がいた。
 カチューシャを着け、肩まで伸ばした栗色の髪。
「こんにちわ。初めまして 『卯花 桜 (うのはな さくら)』 と言います」
 少し大人しめな感じのその子は頭を下げて丁寧に自己紹介をした。
「ボクと同じクラスなの」
 桜と名乗った子は雪奈とは違って少し大人しい感じだ。
「えっと僕は……」
「睦月さんですよね? 雪奈ちゃんから聞いてます」
 自己紹介は不要のようだった。
 クラスメイトの話で自分の話でも出たことでもあるのだろうか。
 だがそういう本人のいないところでの話にこそ本音が出る。
 好印象なのか、悪い印象なのか、
 部屋は別とはいえ普通に同棲してるし悪いことは無いと思うけど、等
 ほんの数秒の間にいろんな思考が頭を巡った。
「へ〜、どんな風に?」
 頭で整理が終わる前に思わず出てしまった問いに桜は「え〜と」という風に人差し指を唇に当てて
 少し上目がちに考え込むポーズをとる。
「“背が低いから頑張れば追い越せるかも”とか
“童顔だから髪伸ばしたら女の子みたいだった”とか 他には……」
 と可愛い口からは遠まわしな悪口のオンパレードが続く。
 たしかにこちらに来てまだ一度も散髪をしていない髪はそれなりに伸びている。
 仕事をしている訳ではないので切る必要もなく、身だしなみに気を使う性格でもない。
 そんな髪は今では後ろで括られており、背も低い冬弥は女の子に間違われることもしばしばだった。
 とは言えそうハッキリと言われると少しへこむ。
「いや、もういいや」
 話途中の桜に手を出し大げさなジャスチャー付きでストップをかけた。
 ちょっとだけでも期待した自分がアホらしい。いろんな意味で少し悲しくなった。
 それを見て雪奈は「あはは」と乾いた笑みを浮かべている。
 ジロリと睨むとさっと目線を逸らした。
「とりあえず、弁当と伝言メモ」
「ありがと」
 少しぶすっとした表情で渡す弁当とメモ書きを雪奈は笑顔で受け取る。
 とは言え内容を聞く限り性格とか内面での批判はないようだ、嫌われているわけではないらしい。
 いきなり女世帯の家に転がり込んだものだから心配していたのだが……
 任務で一緒にいるだけなんだから良いも悪いもないのかもしれない。
「それにしてもすごいね、この庭……」
 今いる広場には広大な芝生に遊歩道。
 遊歩道の境はレンガなどを使って区分され、芝生の中には何本もの大きな木が植えられている。
 その真下の天然の木陰はこの季節にはとても心地よさそうた。
「ここではガーデンって呼ばれててみんなの憩いの場なの。
校長が自然と触れ合えるようにって作ったんだって」
「へ〜」
「そうだ! ここでみんなでお昼にしようよ」
「ここで?」
「そうだよ。ここで食べる人もよくいるよ。ほらあそこ」
 雪奈が指差す方を見ると数名の女子生徒達がシートを広げている。さらに遠くにも何組かいる。
「いや、それに僕は部外者だし、それに弁当だって持ってないぞ」
「メモに“お友達と一緒にどうぞ”って書いてあったから大丈夫。
沢山作ってくれたみたい、桜ちゃんも一緒に食べよう」
 先ほど受け取ったメモ紙をチラつかせながら雪奈がそう答えた。
 卯花さんチラリと見てみるがその顔に否定的なものはない。
 断る理由もなくなったので昼食をここで食べること決めた。

 その後、常に用意していたというシートを持ち出し
 ガーデンで昼食の準備を始める。用意のいいことだ。
「あれ、あそこにいるの草木君じゃない?」
「あっ ホントだ」
 卯花さんの指差す方向には校舎横のベンチに座っている男子学生がいた。
 片足を組み、片手に本を持ち読んでいる。
 ただそれだけの姿が静寂に包み込まれているかのように見え、
 その周辺がまるでこのガーデンから切り取られたいるかのようだった。
「お〜い。草木く〜ん」
 そんな中、雪奈はそれをまったく気にせずに声を掛けた。
 雪奈が持つ純粋フィルターを通せばそんな雰囲気も関係ないらしい。
 少年はその声を聞いてチラリをこっちを向いた。
 自分を呼んだ人物を確認すると読んでいた本をパタンと閉じ
 そのままゆっくりと立ち上がりこちらへ向かって来た。
「何ですか?」
 少し灰色掛かったピンと横に跳ねている髪型に少し長めの前髪から覗く色素の薄い瞳。
 そしてジャケットには雪奈と同じ色の腕章。それは雪奈と同じ学年ということを示している。
「あっ えっと‥」
 反射的に声を掛けてしまったのだろう。
 呼んでおいて質問されて返答につまる雪奈。
 特に何の考えもなしに呼んだことがバレバレの対応。
「ど、読書してたの?」
 捻り出したのはとりあえず無難な質問。
 読書かどうか? そんなことは見ればわかる。
 普通ならそんな質問の為にこちらまで呼び出されたのかと怒りそうなものだ。
「はい」
 だがその少年はそんな素振りを一切見せずに笑顔でその問いに答えた。どうも良いやつらしい。
「お昼は?」
「まだです」
「食べないの?」
 考えながらしゃべっているのか、そのまま質問を続けていく雪奈。
「昼休み時間直後は食堂が混むのでいつもここで時間を潰してから行くようにしてるんです」
「それじゃ一緒に食べない? いっぱいあるから大丈夫だよ」
 話の流れで昼食を誘うというもっともらしい理由を思いついたようだ。
 とは言え人見知りの自分が初対面の二人と一緒に昼食とは……。
「ですが……」
 と少年は遠慮がちにチラリをこちらを見た。
 心情を察したのだろうか、その視線に気付いて雪奈と桜もこちらへ振り向く。
 さすがに“嫌です”とは言えない。それが大人の対応だと思ったからだ。
 三人の少年少女に不安そうな目までを向けられると考えるまでもない。
 それより逆に君たち二人は人見知りしないんだな。
「僕も一緒でいいけど」
 そう言うと雪奈の表情がパッと明るくなった。
「だってさ。一緒に食べよ。
あっ、この人はクラスメイトの『草木 瞬(くさき しゅん)』君
で、こっちが睦月冬弥さん。ボクのお友達」
 初対面同士の二人を交互に紹介する雪奈。
 一から説明するのはさすがに面倒と思ったのか
 冬弥と雪奈の複雑な関係はたった一言に省略された。
「お邪魔してしまってすみません」
「いやいや、どちらかといえば僕が部外者のような気が……、生徒でもないし」
「学生服があれば完璧だよね」
 お互いの当たり障りの無い会話の最中に笑顔で入ってくる雪奈。
 だがその内容は笑顔で言うとところではない。
「そうだな。っておい! 違うだろ!!」
 当然それに突っ込む。蘭さんに見習ってノリ突込みだ。
「そうですよね。その髪だと校則違反で怒られますよね」
 お前らは芸人か! 絶妙なチームワークで雪奈を助ける桜。でもそこは助けるところではない。
「それも違う……」
 ガクッと力なく首を前に垂らす。KO負けだ。
 卯花さんは大人しいようだが少々毒舌気味のようだ。少々天然も混じっている気もする。
 類友か… あやうく声に出そうになるほどに冬弥は感じた。

 シートの上に冬弥の持ってきた弁当と桜の持参した弁当が並べられる。
 そこで袋が重かった理由が判明した。
 中身は重箱3段の豪華弁当。
 3段でも少し大きめの箱なのでその量はかなりのものだ。
 何人分を予想して作られたのかと考えさせられる。
「うわ! 今日はいつもに増しておいしそうですね。
これはもしかして睦月さんが作っているんですか?」
「あはは、まさか〜。冬弥さん料理全然作れないもん」
 桜の質問に雪奈が笑いながら全否定する。
 確かに料理はできないがそんなに笑うことはないだろう。
「そういう雪奈もほとんど作れないけどな」
 そう言うと雪奈はムッとした表情になった。
「ちゃんと勉強してるもん。納牧先生の本も買ったし」
 たしか納牧先生とは創作家庭料理で大人気の料理の先生の名前だ。
 長年の一人暮らしで培っという数々の低コスト創作メニューは全国の主婦間で有名らしい。
 その著書である家庭料理の本は全国の本屋に陳列されている。
 だが本を読んで誰でも料理が上手に作れる訳ではない。
 世の中にはそういう残念な人が少ないが確実に存在しているのだ。
 そういう自分もそういう残念側の人間なのだが……
「で、こないだ本見ながら作った夕食は何だった? 言ってみろ」
 そう言ってやると「うぐっ」と口をつぐむ雪奈。
 痛い所を突いたと確信してここぞと攻めてみる。
「さあ、さあ、言ってみろ」
「め、目玉焼きと、お、お味噌汁……」
 雪奈は観念したかのように小声で呟いた。
「大量の食材買ってきて、時間掛けて作った料理が目玉焼きと味噌汁ってありえんだろ。
あの山盛りの食材はどこに消えたんだよ」
 という感じで雪奈も残念な側に人間なのだ。
 共同生活していうにあたり家事はほとんどを当番制としているが
 食事の支度だけは夕菜と蘭の二人だけの構成だった。
 理由は単純、他の二名が料理が出来ないからだ。
 数日前、納牧先生著の本を買ってきた日に雪奈は「今日は自分が作る」とみんなの前で宣言した。
 手伝おうとする夕菜を台所から追い出し大量の食材と格闘すること3時間。
 出てきた料理は「ご飯」「目玉焼き」「味噌汁」の三品のみ。ちなみに味付けはかなり薄味だった。
 後で夕菜から聞いた話だと後片付けが大変だったらしい、一体何の食材と格闘してたのやら……
「ま、まずは基本からなの!」
 頬を膨らまし顔を真っ赤にして言い訳をしている。
 さすがに同級生二人の前での暴露は堪えたらしい。
 勝った。僕は変な勝利感に酔いしれた。

「でわ いただきます〜」
「いただきます〜」
「おにぎりっていいよな。何かこの手作り感が好きなんだよ」
 と言って豪快におにぎりにかぶりつく。
 一口噛んだ。時が止まった。
 「うごえわっ!!」と叫び声を上げておにぎりを噴出す。
「そう言えば追伸でおにぎりに1個だけタイ産の青唐辛子入りの激辛スペシャルがあるから
気をつけてって書いてあったよ」
 恐ろしいことをさらりと言う雪奈。
 辛さでのた打ち回る僕を横目にもくもくとおかずを摘んで食べている。
 おにぎり好きの僕が一番初めにかぶりつくと予測し
 尚且つ一番取りやすい位置にそれを配置する高度な頭脳トラップ。
 間違いなくその追伸を書いたのは蘭姉と確信。その間約0.3秒。
 さらに先ほどの件で雪奈はワザと伝えなかったと確信。ここまでで0.5秒。計0.8秒で全て理解した。
 唐辛子の半端ない辛さに「ゴホッ! ゴホッ!!」とむせ返る。涙まで出てきた。呼吸もヤバイ。
 以前の飲まされた醤油偽麦茶の騒ぎどころではなかった。
 尋常じゃない僕の反応にさすがの雪奈もちょっと焦りだした。
 このような悪戯になれていない桜はもっと焦っている。
 そしてアワアワしながら急いでお茶を入れて渡してきた。
 渡されたお茶を一気に口の中へ流し込んだ。
「熱ちいいいい!!」
 魔法ビンに入っていたお茶は当然その熱さを
 注ぎいれた時と同じ温度に保っていた。
 今度はその熱さで下を焼かれ芝生の上でゴロゴロと転がった。悲惨すぎる。
 草木君は冷静にスポーツ飲料を買ってきてくれた。やっぱり良い人だ。


 落ち着いたところで昼食会が再開された。
 さきほどと違いモソモソと少しづつ食べ
 他のみんなは弁当の中の具を確認してからソロソロと食べた。
 静かなお昼だった。
「ところで何を読んでたの?」
 さすがにその雰囲気に耐えかねたのか雪奈が草木君に話しかける。
 それに対して横に置いてあった本を差し出す。三人が同時にそれを覗き込む。
 表紙には『善悪の彼岸』と書いてある。
「なんが難じぞうな本だね」
 単純な感想を述べる。のども痛めたらしく自分でも声がおかしいのがわかった。
「読書が趣味なんです」
 それを聞いて、ふ〜んと雪奈は草木の顔をじっと見つめる。
「草木君は雰囲気がボク達より大人に見えるよね」
「うん。なんか落ち着いた感じ」
「僕もぞう思う」
 男子生徒の制服は女子の制服と違ってデザインはポピュラーなブレザー型。
 それをしっかりと着こなしている草木君はやはりどこか大人びた雰囲気があった。
「そうですかね?」
「ハシャいでるところとか見たことないし」
「高校生にもなれば少しは落ち着くものですよ」
 やはりその態度は落ち着いており笑顔で答えるために嫌味も感じさせない。
「でも、クラスの他の男子はそうじゃないし、大人になっても落ち着かない人はいるよ」
 そう言ってチラリとこちらを見つめる雪奈。
「こっぢを見るな雪奈。落ち着きがないのはどちらかといえば僕よりは蘭さんだろ」
「う〜ん。確かにそうかも……」
 この反論には納得はしたようだ。
「それにしても少し安心しました。如月さんは新学期から少し欠席が多いようなので
どこか身体が悪いのかと思ってましたが、そうでもないようですね」
 その草木の言葉に えっ と一瞬言葉に詰まる雪奈だったが
 そこにすかさず桜のサポートが入る。さすが相方だ。
「雪奈ちゃんは家のお仕事手伝ってるんだよね」
「うん」
 欠席の理由は公にはそういう理由になっているらしく
 雪奈はすぐさまそれを肯定した。
 実際に桜にも本当のことは話してないのだろう。
 その後は話題を変えて楽しく話は続けられた。

 お昼休みも半分過ぎたところで昼食会は終了した。
 空になった弁当箱とシーツを片付けゴミや忘れ物がないかを確認する。
「如月さん、今日はご馳走様でした」
「美味しかったです」
 お誘いを受けた二人は弁当の味を堪能したらしく笑顔でお礼を雪奈に言っている。
「舌が焼けて味が分からなかった……」
 そのせっかくの味を堪能できなかったのはどうも僕だけらしい。
「では僕はお先に教室に戻らせてもらいます」
 丁寧にお辞儀をして帰ろうとする草木君に思わず声をかける。
「草木君だっけ、雪奈をよろしく」
 この言葉に草木君は足を止め、目を見つめて笑顔で「はい」と言った。
「また教室でね〜」
 雪奈はその去っていく背中に声を掛けた。
「草木君とは仲良いの?」
 なんとなく聞いてみたのだが意外な答えが返ってきた。
「あまり話した事ない」
「わたしも今日初めて普通にお喋りしました」
 昼食に普通に誘ったわりにはそんな親しい間柄ではないようだ。 
「そうなの? なんか普通に会話してたじゃん」
「クラスメイトなんだし普通でしょ?」
 素で返された。やはり雪奈は他人との間に壁を作ったりはしない性格のようだ。
「普通はほとんど話さない異性にはそんな簡単に話しかけれないんじゃない?」
「そう? 冬弥さんはそうじゃなかったの?」
「僕が高校生の頃は……」
「頃は……?」
 そこで答えが数秒止まった。
「忘れた。覚えてない。でもそんなに話しかけれなかった気がする」
「確かに睦月さんは異性に対して慣れてなさそうですね」
「彼女もいなかったしね」
 桜と雪奈の毒舌が容赦なく胸に刺さる。
「そうやって一人であることに余裕が持てるのも今だけだぞ二人とも」
「つまり、冬弥さんは余裕は無いってことだよね」
 そこに雪奈の容赦ない追加攻撃。致命傷だった。
 力なくガクリと肩を落とす。
「雪奈って桜ちゃんにもこんなに毒舌なの?」
 そのまま顔を上げて桜に聞いてみる。
「えっと…… 多分、睦月さんだけだと思います……」
「そうなの?」
 どうも他の人にはそんなことは言わないらしい。
 確かに初めて会ったころはそんな毒舌ではなかった気がする。
「きっと照れ隠しですよ」
「ち、違うよ もう!!」
 桜の笑顔の答えに顔を真っ赤にして否定する雪奈。
「それならいいや」
 もちろん鵜呑みにした訳ではない。
 つねに蘭に弄られている僕を見るうちに自然にそうなってしまっただけかもしれない。
 だが立ち直るには十分だ。僕は単純なのだ。
「「いいの!?」」
 雪奈と桜は見事にハモった。

「冬弥さん、今日はありがと」
「僕も雪奈の学校生活を少し見れて楽しかったよ」
「また、来てくださいね」
「今度は制服姿で来るよ」
 笑顔で手を振り校舎へ入っていく雪奈と桜を見送ったあと、帰路についた。

 帰り道、校門では昼食の時にガーデンに私服姿の人がいると報告を受けたマッチョな体育教師が見張りに付いていた。
 聞くところによるとその私服の男は挙動不審な行動を取っていたという。
 実際は激辛おにぎりを食べたせいで悶えていたからなのだが、それを知らない生徒達から見ると
 不振な動きをする変人にしか見えなかったらしい。
 校門から出ようとした僕はもちろんその教師に不振人物として問い詰められしばらく拘束された。
 散々な一日だった。

 

 

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