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                            〜少しずつですが更新していきます〜





・・・最終更新日2014/11/9・・・


仲間

のら

無題

酔いどれザマぁ

の・ほうがいい

カスやで

うつくしかったのだ



無題

青い空

僕は

稲妻のゆくえ

月のある浜辺夜の海

ひとりのシアワセのために

宇宙犬

A海岸にて

街路樹

2004・8・26

2008・X・X

坂道

かなしみ

気持ち

炎天

夏草

カミサマ

2008・11・07 ( 「2008・X・X」改題 )



てのひらの月

雨降り



かなしみ(2)

仲間





生きるとか 死ぬとか

どう生きてるとか 悲惨だとか

大きな時間のなかの

ただの一瞬で

小さな場所の

ただのひと隅で

大それたことなんかなくて

目をつぶってれば

すぐさま過ぎて

目を開けていても

すぐさま過ぎて

はじまりもおわりも

輪のようなもので

よろこびとかなくて

かなしみでもなくて きっと

同時代に存在した

仲間

みたいなもの。











のら





行き。

対向車の車が

通るたび

びくりとする

大きなトラックとすれ違えば

バックミラーに目が泳ぐ

猛スピードの車とすれ違うと

間に合わない とおもう

背後の遠い車が

大きくハンドルを

切ったりしてないか

バックミラーをみながら。



帰り。

背後から車がくるのが

いやだ

何かの時に

とまれないから

急にハンドルをきって路肩に

とまるのを

躊躇してやしまわないかなどと。

前方の遠い車が

大きくハンドルを

切ったりしてないか

前をみたり

うつむいたり。



いなくなっていれば、とおもう

このあたりから

みえなくなっていれば、とおもう

その犬の ためではなく

自分のために

こんな車の多い通りに

迷い込んだ のら。



いなくなって

かくれて

どうにか

生きていってくれないものか

とおもって

ふるえながら
 
しにたくなる。











無題





コトバで救われることはないのだ
しかし現実では救えないのだ
想像したって救えないのだ
解釈したってだめなのだ


片っ端から世界を狭めていけば
生きていけるのだ
片っ端から世界を狭めるのは卑怯だと
いう人がいるのだ
その通りなのだ
その通りではないのだ


コトバなど不要なのだ
コトバで救われることはないのだ


コトバと現実の
間にあるものってなんだろう
などと考える自分は
最悪の死に方をしたいのだ


「死ね」と言うことは容易いのだ
「死ね」というコトバで
救えることはないのだ


コトバなんて不要なのだ
コトバで救われることはないのだ
分かりたいのだ
  それができないのだ


生きてなんぼで達観したくないのだ
それは達観ではないのだ
無関心でいたくないのだ
無関心でいたいのだ
逃げ出したいのだ
卑怯者と言われながら
振り切ってでも逃げ出したいのだ
そして最悪の死に方をしたいのだ


コトバと現実の間にあるものって
なんだろう
胸なんか張れないのだ
うつむいてばかりなのだ


コトバなど不要なのだ
コトバで救われることはないのだ
解釈したってだめなのだ
コトバと現実の
間にあるものってなんだろう
分かりたいのだ
  それができないのだ











酔いどれザマぁ





酔いどれが 気を吐く

世情は いつもかわらぬが

酔いどれザマぁが 気を吐くよ



よこしまな小舟は

川をくだり

海に出たかった

小舟は波にもまれちまったって




世情は いつもかわらぬが

かわることすら ゆるされず

大破した小舟は

どっかの砂浜に漂着したって



ねえ、おしえておくれよ

その場所を

酔いどれザマぁが 気を吐くよ










の・ほうがいい





旅をするなら目的をもたないほうがいい

人と会うなら期待しないほうがいい

大きな夢よりささやかな夢がいい

宇宙の広さより蟻の視点のほうがいい

かわいがられる運より拾われる運のほうがいい

愛するより愛でたい

ウェッジウッドのカップで向き合うより

車の中で紙コップの珈琲を分け合うほうがいい

シアワセだから生きていけるより

フシアワセだから生きていけるほうがいい

希薄なつながりのなかで

小さな優しさに泣いてしまう夜あれば

またくる朝の光よりその夜にみた虹のほうがいい

ひとりよりもふたりがいい

ふたりよりもひとりがいい

投げかける言葉よりも受け入れる沈黙がいい

批判は少ないほうがいい

想像力は大きいほうがいい

食事をしていて

何で自分が食わねばならないのかと思えるほうがいい

手に入れるよりも寄り道しただけのほうがいい

また出会えるちいさな希望のほうがいい

それがあまりに遠すぎて見えないなら

その遠さに僕は少し安心できる









カスやで





なんで

同じほう 見るねん

なんで 同じほう見て

走るねんよ

謎は 多いほうがええ

んで 謎は

分からんでええわ

蜘蛛の巣のように

生きて

謎かけの羽虫のように

その罠に

みずからもはまればええ

確かめ合うように

生きるのは

もやめよ・・・

もう やめたいねん




「もうわたしら、確かめ合うのやめよ・・
 生きとったらあかんとか、生きなあかんとか、
 そんなん確かめんの、もうやめよ
 確かめ合おうとするさかい
 みんな、わやになってしまうんやんか・・」
  (buy a suit より)









うつくしかったのだ





何かと対峙して

怖くなって 逃げる
   
あるいはすべてに
 
降参して 腹をみせ

服従する これは

恥ずかしいことなのだけれども

なんか

うつくしくもあるな

と 思ったのである



何かに負けて

強がりもいえず

おいおい泣いて

相手にもされず

はじきだされて

ただひとり

なんか

うつくしいな と

思ったのである



何かに恐れおののいて

死をも覚悟し

でも生も覚悟して

それでも からだは

動かなくて

声も出ず
 
逃げ出すことすらできず

ただひたすらに

ふるえて たちつくすのを

これをまわりは

恥とさけんで 笑いものにしたが

それは

なんか うつくしかったのだ



おれもそうでなければと

思うくらいに

うつくしかったのだ


( 2011.9.21 )













昨日のシアワセが

今日のカナシミを削り

そしてとがらせていく

杭になったカナシミは

できるだけまわりを傷つけないようにして

やわらかな土に打ち込まれる

明日からの朝日で

杭はしずかな影をのばすだろう

そしていつか溶け込むだろう


2011.9.17(土)









 

無題



自分は

かわいいものが死んでいくことよりも

そうでないものが 汚れたものが 醜いものが

とことんまで傷めけられ

あえなく殺されていくことのほうが

かなしい。

人には役割がある

自分はそう思う役なのだから

仕方がない。










青い空



どんっと大きな青い空
真下に白き鋭利な横断歩道。
地平はわずかに傾いている。
背骨が中央軸からずれているのは後ろ脚がびっこだからだ。
びっこの黒い犬はひょこひょこと傾いて 照りあがった広い灰色を渡る。
口を少しあけてその中に赤い舌が浮かんでいた。

信号待ちの車が列をなしている。どこまで続いてるんだろう。
偶然僕の車は先頭だ。どこまで空は青いんだろう。
僕にはどうでもいい行く場所があった。
そこしか行けない場所ではなかった。むなしくなった。
あの黒い犬はどこまで歩いただろう。

バイパスからすぐそばは田園地帯。
犬はなかなか見つからなかった。
ものの数分の間に犬はどこかへ行ってしまった。
何をあきらめるのか分からないようなあきらめと、少しの徒労を感じたとき
なんのことはない、犬は草陰にいたのだ。
タイヤとか捨ててある整地されてないただの草原に。
草原で 横になって
  やはり赤い舌を浮かべてバイパスのほうに顔を向けていた。
近寄るとひょこひょこと逃げた。正しい選択だ。

離れた場所に横になって犬はやっぱり横を向いている。
黒い頭と青い空と。
風が気持ちいい。
青い空は生と死の境に実在する。
どこまで空は青いんだろう
おまえはどこまで歩いてきてるんだ?
パンとミルクにはもう虫たちが群がってきていた
空もどこかで泣くはずだ
ある時急に訪れるはずだ
生きてる怖さを空が吸い上げている

(2010.5.2)









僕は



もうすぐ 僕は
木の枝が色づいた葉を
そっと手放すように
いつの間にか過ぎた季節を
忘れるのかな

てのひらに握りしめていた石ころは
砂になって指先からこぼれおちる
そして それらを踏みつけて僕は
またべつの場所へ向かうかな

いつも僕は
時刻の狂った電車にのり
昨日と今日をまたいだ駅で
同じことを考える

もうすぐ僕は
不確かなものこそが
確かなものだと吹きつけてくる風に
ふるえながらも
向き合えるのかな

もうすぐ 僕は
今日でも昨日でもない
ほんの少しの明日の向こうまで
行けるかな

もうすぐ 僕も
そこまで 逝くかな
変わってしまうかな
変われるかな










稲妻のゆくえ



町の往来に明かりはなかった
雨の上がった夜半に
僕は土砂のように沈殿し
夢ばかりが上澄んでくる

のしかかってくる黒い家並み
通りは空にのみひらかれていた
そして音の無い稲光が
何かを探すように
ときどき空を白く光らせていた










月のある浜辺の夜の海



月のある浜辺の夜の海では
たゆとう沖のほうにある憎悪と悔恨は
その表面を月明かりに撫でられている
ひとつひとつの波のうえに
光の粒子が無数におりてきて
そうじゃないだろうちがうだろうと言ってくる
そうして近くまできた波は
光も闇も巻き込んで崩れ落ちる










ひとりのシアワセのために



大きな雲が一本の大きな立ち木と会話していました
「君はいいよな、雨がこようと嵐がこようと何が起ころうと立っていられる」
立ち木はこたえました
「君こそいいさ、雄大に影を落としながらどこまでだって流れていける」
そこで雲は言いました
「とんでもない、いつ消えてやしまわないかの不安でいっぱいだよ」
立ち木は言いました
「こっちこそ世界で何が起ころうとも一歩たりとも動き出せやしないんだ」
「お互い様だね」
「そうとも」

そこへ地上に影も落とせないうすい雲が流れてきました
そして立ち木のすぐそばには一本のほそい草がありました
うすい雲はほそい草に言いました
「何か言ってるね」
草はこたえました
「そうみたいだね」
「聞き取れないよ」
「いいよ、それで」

そんなみんなの話にお日様は耳をかたむけ照っていました










宇宙犬



絶望と口にするほど嘘くさくなく
希望というには目はうつろだ

口笛をふくとその薄汚れた犬は
ひょいと振り返ったのだ
夕暮れの時

でも 僕を見ているのではない気もしてくる
運命の奥から結末のどんづまりへと
希薄な日常を突き抜く 力無きものの
もっとも力強いまなざしで
憂いもない 怒りもない
もっとも黒いまなざしで

僕を見ているのではないだろう

もういちど口笛を短く吹いて
一歩あゆみ寄ったら
その犬は逃げていった、時々後ろをふりかえりながら
でも僕を 見ているのではないだろう

逃げていく先は 僕らの知らない世界
仮に逃げずにこっちに近づいたとて、それも
僕らの知らない世界
知らない世界の向こう側 と
知らない世界のこちら側 とを
行き来する、しているなら
どうしたら僕は その犬と出会えるのだろう

まあるい夕日の往来で
すれ違っていく世界のなかで
僕の地球は浮かんで消えた










A海岸にて



この海岸には石ころが
じつにごろごろとあふれている
空っぽのなかに空っぽが
ぎしりと詰まって
ごろごろと安らいでいる

大きな空っぽも
小さな空っぽも
ときどき人に踏まれて
ごろりと位置をかえてみたり
あるいは誰かに拾われて
  海のほうに放られたりして
それもどうぞご自由に といった顔で
じっと黙っている

僕の空っぽのうちに
空っぽはぎっしり詰まっているだろうか
僕の沈黙のうちには 沈黙は
ぎしりと詰まっていただろうか

石ころはなんだかもう
無限でいっぱいだ
僕の足はぐらぐらしながら
しばらくのあいだ
空っぽのボリュウムを歩いた











街路樹



街路樹であたらしく植樹されてきたまだ幼い木が
古顔の樹に話しかけました
滅多に口を開かぬ樹木こそが樹木なのであって
まだその幼い木は自分が樹木としてうまれてきたことに
気づいていないのかもしれません

「いろんなものが動いていますね、色もあって」
古顔は答えました
「だからどうしたというんだい?」
「毎日がこうだと楽しいですね」
「楽しい?」
と、古顔はあきれたように幼木を見下ろして言いました
すると幼木はこう言いました
「だってぼくらは動けないじゃないですか、自由に
 動き回れないぶん、目の前で動くものを見ていたいじゃないですか」
ほう・・!と古顔はいくぶん安心したような顔をしました
その幼木も、自分が樹木としてうまれてきた運命であることを
きちんと知っていると思えたからです

そのとき
「ははは・・」と別の樹木が静かに笑いました
それにつられてまた他の樹木らも少し笑いました
街路樹のあいだにしばし笑いがおこりました
幼木と古顔は黙り込んでしまいました

広まった笑いがおさまると、また全体が
静かな街路樹にもどりました

往来では今日も色んなものが大きな音をたて
めまぐるしく街路樹の脇を走り抜けていきます











2004・8・26



影も音もなかった
まぶしくて逃れられない陽射しが
動かない足や胴の内側に入り込み
地面と肉のあいだに 熱という熱はたまっていった
そして腐るところは腐っていった

ここ数日雨と日照りが交互に続いた
そのあいだ この、事故で前足を切り飛ばされた犬は
吹き出るだけの血を枯れるまで噴き出し
どしゃぶりの雨で意識を戻し
つづく日照りで意識はうすれ
昼もなく 夜もなく
ぬかるんだ道端に放り出されていたのか

それでも生きていた
腹がわずかに呼吸していた
口ではない。
乾ききった鼻に水を弾くと舌をだした
蟻は傷口を這っていた
コバエは渦巻いて飛んでいた
顔をあげることもできず うすく目をひらいて
地平は斜めに傾いていたか
おそろしいこわい連中がやってきて
「ありのままを受け入れること」などと
生命論をぶちまけて
一瞥のあと「ワタシ」のページに目を落として
ぶつぶつ言いながら去っていったか

関係ないだろう
連中の声などきみには。
だが
今出くわしたぼくも 関係ないだろう

おぼえていろ
太陽がのぼり 風が吹き 星があがってくるなかで
その時間のなかで
(孤独を感じるなんて言うな
 孤独を愛するなんて言うな)
その軌道からはじき出され
放り出された

貴様らおぼえていろ
ぼくらの充たされた解釈ほど
かなしいものはないということを











2008・X・X




思案中
 
 



 
 


坂道



ひろい 広い その見晴らしのよい丘陵地には
一本のか細い小道が さまようように そして
行くあてもないように すぅーとのびていました
右も左も 前も後ろも
のびのびとした緑の草原が ゆるやかな起伏のなかに
毎日の出来事を記憶していて
その起伏にそって
小道はずっとのびているのです

その小道の先の ずっと先の、
地平線にふれるあたりの
  ひとつの長い坂道は 思いました
さて、ここまで道はつづいてきた
後悔も希望もみんな道になってきた
もしこの道を登りきったところからなら
今度はどんな景色が見えるのだろう
海があるのか それとも大きな山がそびえてるのか
あるいはにぎやかな町があるかもしれない
断崖絶壁になってるかもしれない

ぐっと背伸びをして坂道は
自分の向こうをのぞきみようとしましたが
とてもできたものじゃありません

雨の日もあり
嵐の日もあり
日照りの日も 地響きのする日も
あります
道はあるときは水浸しになり
あるときは干からびてひび割れます
そういう年月の繰り返しのなかで
道も少しずつ 老いていきます

あるとき どんな偶然か
  一羽の鳥が坂道の頭上をかすめました
近くに鳥の止まる木もないような場所だから
まして地上すれすれを低空飛行する鳥など
めったにいなかったのです
坂道は思わず叫びました

「いずれこの道もなくなるのだから
よかったら、せめてこの坂道の向こうが
どんな景色になっているのか教えてくれないか」

「いいとも。おやすい御用だ」 鳥は答えました

その鳥はぐぅっと高度をあげ
坂道の終わりまで飛んでいきました
坂道は鳥を見守りました
見守りながら、わくわくしました
ドキドキもしてきました
でも不安にもなってきました
そして
不思議と 落ち着いてもきました
鳥はしばらく旋回したあと 
坂道に降り立って言いました

「なんのことはない、この先もずっと同じような景色さ、
どこまでも丘は続きどこまでも道はある」

それを聞いた坂道は
しばらく考えているふうでしたが
微笑の小石を浮かべてこう言いました

「ありがとう、それをきいて、なんだか・・・安心しているよ」

鳥は飛び立ち 坂道に映った鳥の影も
すぐに小さくなって消えていきました
やがて、あるとき
充分にひび割れた地面に種子がはまり
雨が降り 芽が出て草が生え
それが繰り返されて 少しずつ
丘陵地から道は消えてゆきました











かなしみ



足のうらに 怒りがある
腹ばいになったときには
腹の下に 怒りがある

怒りは大地につづいている
地球の奥底に つづいている

その大地のうえで
けものが えものを 狙っている
怒りのうえで
かなしみが えものを
狙っている
遠い 黄金色に映えたササ原で

なぜか恨みはないのだが
そうして希望もないのだが

走り出すと かなしみも
黄金色だ
怒りのうえに 黄金色のかなしみだ
黄金色のササ原を
黄金色になって走る
夕暮れ

かなしみが走る
走る











気持ち



波の音が聞こえてくる
つま先のむこうから
寄せてくる音、引いていく音

宝もののように
浜辺に会話が 埋まっている

月はない
風がでてきた

打ちつける音、引きずり込む音
波の高さをくらやみに思い浮かべる

お互いなにもしゃべらなかった

夜の先へと歩き出した
松林の向こうで
ぼくの心臓が
あかあかとふくらんでいる











炎天



山間は濃い葉をむくむくと抱え
眼下に谷はいっそう深い
秘めごとのような若い水流が谷底で
小さくうねってささやいている
小さい子供らが水遊びをしているのが見えた
そこは 地獄のように深くあり
楽園のように明るくもある

どこから下りたのだろう

見渡すと
赤い吊り橋が
  何の気なく谷をまたいでいる
渡った対岸の山の斜面に 道が
白い糸のように引かれてある

この場所から
引き返すことができるように思う
この場所からもう
二度と戻れない とも思う
アスファルトに沈んだ自分の
底の見えない影をみながら
ぼくは指を折っている

炎天は谷底までも落下する
ところどころ
山腹から突き出した
むくむくとした緑に跳ね返されながら
谷底まで落下する

ぼくの緑に炎天が突き刺さる
僕の過去まで落下する

ぼくは過ぎた夏を数えている










夏草



遠くに草刈り機の音が
ぎぃんぎぃんと聞こえる
目の前には 刈り取られた草が積まれてある

刈られたものの上に
刈られたものが合わさって 今となれば
どっしりとした体積で
日照りの道端に むっとした息を吐いている
しっとりとしなれて 積まれて 待たされている
待たされている

すごそばには 夏の大木が
ぎらぎら葉を光らせている
ちょっとした風に ざざっと揺れてみたり
未来に向かって 梢を振ってみたりしながら
この木も 待たされている
ずっと前から待たされている

待たされながら 生長して
あるいは刈り取られ
それでも、ずっと待たされる
枯れてしまっても 燃やされてしまっても
この世に育っても
この世からいなくなっても
待たされる

待っていることで、存在している
忘れられても そこにいる











カミサマ



カミサマが食われている

カミサマは野ウサギのカタチをしている
首根っこを一気に暗闇にやられ
草むらに血と乳を垂らし
胴体を震わせながら
声になったいのちの在り処を
悲鳴にして
カミサマがいま 食われている

骨は砕かれ、耳は飛び、足はちぎれ
首も飛んで、目ん玉も
丸ごと食われている
  臓物は舐められ 体液は土に沁み入り
一部始終、一切合財、
カミサマは瞬く間に
無くなってしまった

無くなってしまうことのあっけなさ
無くなってしまうことの鋭さ、だ
鋭き葉を立て
刀のように夜風を切っている

夜風を受けて獣がいる
カミサマを食ったカミサマが
真っ黒な陰になって立っている
自分を闇に消しこんで立っている
食われることを忘れちゃいない
いま食われることを知らないだけだ

知らないだけに カミサマだ
知らないだけの 鋭さだ
じっとこっちを見据えている
じっとこっちは 見られている











2008・11・07 ( 「2008・X・X」改題 )




じぶんは 生きていたい。
もっと。
もっとだ。
じぶんは もっと 生きていたい。

うごけなくても
自由なんてなくても
死ぬ意味がわからぬじぶんは
もっと もっと
生きていく。

生きていたい。

なぜ そんなにまでして
生きたいのか
それはわからない。
でも そもそも
わかるような生きかたなんて
なかったのだ。
じぶんは 生きたい。
わけもわからず
ただ 生きたい。

雲がわれて
こがね色の夕日がさす。
なんてあかるい ひかりだ。
なんてひかりが おおきいんだ。
ひかりをうけて
少年は泣く。

今日嗅いだとがった草のにおいも
今日うけた鼻先をぬらす風のにおいも
なにも思い出せず
たった今の
すぐかたわらでびゅんびゅんする
この 車輪の大きな音も
目にはいる砂ぼこりも
なにも感じず ただ
くるしい
くるしい
からだが動かない
声もでない
まぶたもとじられない
くるしい、くるしい
息ができない
ただ、くるしい。
くるしい。
じぶんは 生きていたい。

生きねばならぬと
心臓は ときにつよく脈うつ
そのたび横たえたからだは
生きねばならぬとけいれんする。
生きねば生きねばと ちはかわく。
いっぱいだ。
なにもかもは もう いっぱいで
いっぱいだから
かたすみにしか いられない。

わすれものだよ、少年

わすれていけよ、少年

かたすみに立って
少年は泣く。

そもそも
わかるような生きかたなんて
なかったのだ。
わけもわからず
ただ、生きたかったのだ。
もっと
生きていたかった。
















殺される。死ぬ。
そしてそれを
受けついで 生きる。

食われる。食う。
餓えて 食って
それで生きる。

虹を
あるく。
生と死の境に
虹が かかる。

虹の上を
生きるために
殺されていった
ものたちが
歩いてわたる。

いたずらに
殺される。
いたずらに
死んでゆく。
彼らは
虹をわたれない。
虹が見えても
わたれない。

僕たちは
虹を 見ない。
ただ生きていき
ただ殺していく。

雨あがりに
光の旗は
たなびかない。

僕たちに
虹はかからない。

(2009/2/12)










てのひらの月




闇の中の川べりで

遠くにある月を指差し、二人は会話しています。

「あそこまで行こう」と。

「遠そう・・・行けるかしら」

「希望は高く、夢は大きく」ひとりは言いました。

「・・・ん・・」もうひとりも答えました。


そこへ

ふたりのそばに人が現れました。

顔は暗くてよく見えません。

「ほら」と虫の羽音のような小さな声で

夜との境がないような

暗い腕をふたりのまえに差出し

そっと指をひろげました。


てのひらには 月がありました。

月はその人の真近くに てのひらのうえで

かがやいておりました。


「こういう生き方もある・・」

そう言ってその人は

川べりに二人を残して、どこかに行ってしまいました。











雨降り




兄といもうとは 学校帰り。
雨上がりに、ふたりとも傘をもち
手をつないで 畔の小道を歩いている。

兄は、いもうとの手をひくのがめんどうくさそう。
大股で歩いて、ぐいぐいいもうとを引っ張っていく。
いもうとのほうは、もっとゆっくり歩きたいのに。

「おにいちゃん、もっとゆっくり歩いてよ」
兄はかまわず、どんどんぐいぐいと引っ張る。

兄のほうもなんでこんなに急ぐのか分からない。
いもうとがきらいなのでは、決してない。
むしろかわいくてかわいくて
心配で心配で、しかたのないくらいだ。
ぐいっと引かれたいもうとの細い白い腕は
蝶の足のようによわよわしい。

「はやく帰らないと縁日に間に合わないぞ」
「だって今日は雨じゃないの。お店もあまりないわ」

道のそばを、線路が通っている。
その畔道は、すぐ先で線路をまたぎ、
ふたりの家へと続いている。

踏み切りのない、線路と畦道の交差する、その場所に
さしかかったとき、いもうとはついに踏ん張った。
いもうとが立ち止まったので、兄も思わず
たちどまる。

「わたし、ゆっくり歩きたい」
いもうとは少し泣きそうな顔になって言った。

兄はいもうとの手をにぎったままうつむいた。
そしてゆっくりとこうべをあげた。
ユウガオが花開くように、ゆっくりと。

ちょうどそのとき線路が
雲間からもれた夕日の光に
ぴかりとひかった。
大きな音がして
ふたりの目の前に一瞬に、急行列車があらわれた。

兄は、いもうとの顔をみただろか
いもうとは、兄の顔をみただろか

はじけ飛ぶ深紅の花。
ひきちぎられた二本の傘。
夕日の赤はいよいよ赤く
その場所を染めていく。

・・・・・・・・

ぼんやりと目をあけると兄は校庭にいたのだった。
いもうとが教室から出て来るのを
軒下にすわって待っていた。
二本の傘を持って。

「どうしてあんな夢をみたのだろう」

兄は思ったが分からなかった。
そのうちにいもうとが教室から出てきた。
「おにいちゃん!」と雨にぬれて
兄のもとへ駆け寄ってきた。

















ある晴れた日の昼、あたたかな風はしずかに流れていました。
石のうえや、草のまわり、
角の塀に沿って表情をととのえたり、
水たまりの上を過ぎてみずからの姿をうつしたりしながら。

すみれやレンゲが、あちこちににぎわっているさなか
風はゆるくはあれ、ひと時もそこにとどまらず
静かに、しずかに小さな町を流れいきます。

楽しそうに会話してる人たちの口元を
ひとり苦しんでいる人の耳元を
手をつないで歩いている子らの指先を
何事でもないかのように
「それがなんだ」というように
風は この町にも春を運んできました。

彼は
満開の桜の木の下で
足をとめて
風のながれを感じていました。

花びらが数枚、舞いました。
心配事があっても
苦しいことがあっても
風はあいもかわらず花びらを揺らして
吹き抜けます。

「それがなんだ」とささやきながら。

彼は遠くに
煙突をみました。
煙突からは、煙が
風の吹く方向にたなびいていました。
その煙が悠々とたなびく先に
今から彼の向かう病院があるのです。

しあわせにも
  ふしあわせにも
同じように吹いて流れていく風におくれて
彼は今からそこにいる友達を見舞うのです。











かなしみ(2)




小高い裏山のてっぺんには
大きな観音像があるのだ。
花立の花はとっくに枯れ果ててしまっていた。
ろうそくの炎はとっくに
芯のことを忘れてしまってるらしい。
それでも足元の水鉢には
蛾がひっくり返ってぱたりぱたりと羽を動かし
鱗粉を撒きながら浮かんで回っていた。

観音像を照らす一本の白色灯に群がって
羽虫がせわしなく飛び回っている。
灯りに照らされためいめいの羽虫の存在が
真っ黒な夜空に浮かび上がっていた。

この場所から眼下には
我が田舎町の小さな明かりが ぽつりぽつりと展望される。

そういえば。
羽音を聞いているときに思いだした。
この場所で 木の柵にもたれて
  あの時あの人は小さな声で
ささやかなしあわせな時間を歌ったのだった。


今日の昼間だった。
長い廊下に閉じ込められたミツバチが
擦り硝子の窓にコツコツと当たっていた。
羽をぶんぶんさせて
何度も何度もコツコツコツと当たって
弱っていった。
それでも窓を開け放つとミツバチは
飛び立って 僕の世界から離れていった。


夕方1。
車の信号待ちで止まったとき、窓から脇に見えた、
風に揺れている名もない草だった。
車中が病室に思えた。


夕方2。
草むらに、がさり動く影を見た。
尖った葉と同じような目で
じっとこちらをうかがっている
あの茶色い野良犬の目が語りかけたもの。


そして今晩。
水鉢の蛾は 僕の手のひらのうえで 動かなくなってしまった。
明日の明るい朝には
羽虫は平たい灰色の地面に自らの死を並べるだろう。


これでもかこれでもかと
かなしみはかなしみでなくなり
  かなしみでなくなったものは
またかなしみになってゆく。



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