私の庭のばら物語 「バラの原点 」 Nonohana-garden |
**--** 庭に咲くバラの名前を調べていると、疑問に思うことが次々と出てきます。ここでは、今までに分ったことを紹介しています。**--**
第1話 「バラの原点」 ノイバラ 野薔薇Rosa multiflora Thunberbarg |
![]() 吉野川の川原のノイバラ |
|
Rosa multiflora Thunb. 英名 Multiflora Japonica 和名 シロイバラ、サカヤニンドウ、コモチイバラ、シロイゲ、サクライバラ、 果実の乾燥させたものを漢方では〈えいじつ〉と呼び、日本でも、便秘、浮腫の 治療に用いる |
|
バラはトゲ |
|
|
|||
私の田舎では、(バラ)という言葉は、棘のことでした。 サルトリイバラは、この葉で包んだ(かしわもち)を作るために、やわらかい春の新葉を採ったものでした。 |
|||||
イバラの語源 |
|||||
バラの語源についてよく引用されるのは、『万葉集』(770年代成立)の、うばら、うまらですね。 また、最初の文献は『常陸(ひたちの)国風土記』の、うばら、うばらきとされていて、それが、イバラ→バラと変わったとされています。他にも語源に関しては古代日本語、アイヌ語、梵語説などいろいろあるそうです。 |
(びやら)(ばいら)古代日本語 (ばらき)古いアイヌ語 (マラ)サンスクリット語(梵語) とげのある植物を指していると考えられる |
||||
その万葉集に出てくるという歌は、このようなものです。 枳棘原苅除曽気 倉将立 |
これは頭音や、末音を揃えて物の クラ、クソ、クシの頭音を揃え ています。 |
||||
これは、「カラタチの針のある木を、刈り退けて倉を建てようと思うので、用足しはどこか遠くでしてください」と詠まれている歌です。おおらかですね。 このカラタチには、サルトリイバラの説もあって、とにかく、棘のある植物の意味で使われていることは間違いありませんが、ノイバラのことではありませんね。 続いて、巻20に出てくるものが、バラの語源としてよく引用される歌です。宇万良がノイバラとされています。 美知乃倍乃 宇万良能宇礼尓 波保麻米乃 意味は「道ばたのイバラの先にはいまつわる豆のように まつわりつくあなたに別れていくことか」と、別れを詠んでいるのですが、 「はほまめ」は、つる豆のことと言われています。 |
|||||
この歌のように、枝先まで伸びてからみついているとしたら、その季節は秋でしょうか。 天羽郡(あまはのこほり)とは、現在の千葉県君津郡、の南部一帯を指す古称だそうです。 現在でもノイバラが多く野生しているのでしょうか。 |
![]() つるまめの花 2004/09/11 |
||||
宇万良は東国のノイバラ |
|||||
万葉集に詠まれた宇万良が、東国のノイバラだったということは、私には興味ぶかいことでした。 ノイバラの分布は、ほぼ日本全国で、川原から高い山まで、どこにでも普通に見られる、と本に出ています。 でも、私の子供の頃を思い出してみると、ノイバラの茂る道は、たった一箇所でした。 今でこそ休耕田や道路際、川原などに見かけるようになりましたが、ノイバラの茂る場所というのは、人の手の届かない、荒れた土地です。 |
|||||
ムバラの実 営実 |
|||||
|
そんな棘だらけで迷惑な植物が、重宝されることはあるのでしょうか。 中国では、ノイバラは「多花薔薇(たかしょうび)」と呼ばれ、花も実も、葉も根も利用すると聞きます。 日本でも、新芽を山菜として食用にする地方があるようですね。 これは、中国の本草書を和訳して、日本のノイバラの実(ムバラノミ)に当てたもので、実際薬用に利用され、その効果が確かめられていたようです。 |
|
イバラの城 |
|
|
|||
|
さて次は、イバラで作った城の話です。 茨城県の、県の花はバラですが、名前の由来には本当にバラが関係しているようです。 『常陸(ひたちの)国風土記』という、当時の地誌、物産などを集めた記録に、イバラのことが出てきます。 それには、その昔、国巣(くず)という種族の中に、山の佐伯、野の佐伯という人々がいて、 その手段として〈茨刺(うばら)・茨城(うばらき)が登場します。 また、 |
*風土記は713年に元明天皇の詔で、 (717-724)に成立 |
|
野バラ姫 |
|
|
|||
「イバラの城」と聞いて、連想するのは、グリム童話の「野バラ姫」です。 「ねむっている美しい野バラ姫の伝説が、お国じゅうにひろがり」聞き伝えた王子たちが、力ずくでお城に入ろうとするのですが、 つまり、イバラの城に入った人は、身動きができなくなって出られなくり、傷だらけになってそのまま死んでしまうという話です。 これは、日本の茨城県の昔話の(茨)で城を築いたこと、よく似た発想かもしれません。洋の東西で、バラの刺のタイプは違っても、棘に対するイメージは、同じのようです |
※「完訳グリム童話」岩波書店
西洋の野バラ〈ロサ・エグランテリア〉の棘 野バラ姫のお城を囲んでいたばらの棘は、こんな感じだったのでしょうか。 |
|
漢字の薔(しょう) |
|
|
|||
ここに、とても気になる記述があります。 花を観賞したのかどうかは不明ですが、『文華秀麗集』の淳和天皇の詩に、 薔(しょう)という文字は、漢和辞典には、 うばら、うまらではなく、漢字を当てているところに中国文化の影響が見られ、日本のノイバラとは考えにくいのですが、もし、ノイバラを庭に植えていたのだとしたら、とても楽しくなります。 当時は、遣唐使などによったもたらされた文化が、非常にハイカラだった時代です。この〈薔〉が、中国から伝来の野生のバラか、もしかして園芸種のものであったか、 日本の野バラを植えて、薔の字を用いたのか、たいへん気になるところです。 |
「日本庭園の植栽史」飛田範夫著 |
2006/02/27 「野の花ガーデン」のんのん