ケイスケが俺に触れなくなって一ヶ月が過ぎた。


突然・・・・
そう突然に

あれほど毎晩俺に触れたがり
まるで一緒に肌を合わさないと眠れないとでもいうように
必死に俺を求めてきたケイスケが。

最初は
疲れているんだと思っていた。
確かにここ最近仕事が立て込んで
俺もケイスケも残業続きだったから
さすがにケイスケも疲れているんだろうと、
そう思っていた。
一週間もすれば、きっとまた同じように
俺を求めてくるのだろうと・・・・・。


「ケイスケ」
美味しそうにご飯を食べているケイスケに声を掛ける。
「何?アキラ」
いつもと変わりなく、屈託無くケイスケが笑う。
すこしでも落ち込んだ顔をすれば、何があったのかを聞けるけれど
こういつもと変わらない顔をされると・・・・・
さて俺は何を聞こうとしているのかと・・・羞恥で思わず言葉を呑み込んだ。

「・・・・なんでもない。」

ふてくされたように、思わず横を向く。
ケイスケが少し不思議そうに食べかけの箸を置いた。

「・・・どうしたの?アキラ。顔が赤い・・・。」
俺の手を握り、ケイスケが俺の額に自分の額を押し当てる。

鼓動が高鳴った。
「熱は無いみたいだけど。」
ケイスケの熱を額に感じ、顔が赤くなる。
思わず、ケイスケの身体を押し返した。
「そんなに・・・寄ってくるな。」
少し寂しそうに、ケイスケが笑う。
「・・・・・ごめん・・・・。」
そしてそのまま、ケイスケは黙って残りのご飯をかきこんだ。


触れた肌の場所が、まだ熱を帯びているのが分かる。



「・・・お前こそ・・・大丈夫なのかよ。」
しばらく考えてから・・・切り出した。

「・・・って何が?」
ケイスケが顔を上げる。
「その・・・身体の、調子、とか。」


しばらく俺を眺めていて、やがて恥ずかしそうに笑って俯いた。
「俺?・・・俺は・・・元気だよ。・・・元気すぎて困るくらい・・・。」
そう言ってまた笑った。
「そうか、ならいいんだ。」
俺も黙って箸を持つ。
それ以上の言葉浮かばなくて、仕方なく茶碗に手を伸ばした。


「・・・アキラ」
急に名を呼ばれて、どきりと胸が鳴る。
「・・・・なんだよ。」
「その・・・・。」


ケイスケがかなり考えた様子で口ごもっている。
さっきより胸の鼓動が高鳴っているのが分かった。

「・・・・・その・・・アキラは・・・もう大丈夫なの?」

「?」
ケイスケの言葉の意味が良く解らない。
「・・・なにがだよ。」

ケイスケの顔が少し曇った。
「・・・傷。」
「傷?」


「・・・・・・うん・・・。」
ケイスケが真剣な表情で俺の瞳を見つめた。

「・・・アキラ・・・ひどく・・・血が出てたから・・・・。」


はっとする。
ケイスケが俺を求めてきた一ヶ月前の夜。
いつもより激しいケイスケの求めに
押し入れられた場所はひどく切れ、血が出ていた。
これまで少しくらいならそういうこともあったし
別に気にしていなかったが
・・・確かにあの時は出血が酷くて、・・・なかなか治らなかった。
確かあの晩、夢うつつの頭の中で
ケイスケが何度も何度も謝っていたように思う。
それを、おぼろげに思い出した。


「・・・・俺・・・・自分のことばかり考えて・・・・アキラの体のこととか、少しも思ってあげることが出来なくて。
ごめん・・・本当に、・・本当にごめん。だから・・・俺・・・アキラの傷が治るのを待つのもあったけれど
自分で・・・我慢してた。必死に普通を装っていたけど・・・・アキラに触れたくて・・・死んでしまいそうになりながら。
アキラが、俺が求めるの、痛いだろうし、余り好きじゃないって解ってるけど・・・。」
ケイスケが俺を強く抱きしめる。
「・・・・・少しだけ・・・触れても・・・いいかな?触れるだけ、だから。」
抱きしめて、頬を寄せてくる。ケイスケの匂いがした。


「・・・・・ばか・・・やろう。」
顔が赤くなるのが分かる。
身体が・・・・・
触れ合う肌の温度に
過剰に反応して火照る。
気がつくと・・・・・
どちらともなく、甘く唇を重ねていた。
一ヶ月間の空白を埋めるように・・・。
身体が・・・・・
理性を押し出そうとする。
羞恥で・・・どうにかなってしまいそうだった。


「・・・もう。」
少し、ケイスケの身体を押しとどめる。
ケイスケが重ねた唇を離した。
じっと俺を見ているのが分かる・・・・。
それでも目線をあわすことが出来ない。
「・・・ごめん。もうここでやめるから。」
ケイスケが名残惜しそうに手を離した。

「違うっ・・・!」
思わず叫んではっとする、けれど・・・止まらない。
「違う・・・やめろといってるんじゃ・・・無い。」

首筋に腕を回した。
がっしりした首周り。
広いケイスケの、背中。

トシマを出たときよりもずっと逞しくなった
ケイスケの身体。

小麦色の・・・・ケイスケの、肌の色。
・・・・久しぶりに感じる、ケイスケの匂い。


「・・・え・・・ア・・・アキラ・・・?!」


ケイスケがうろたえているのが分かる。
この感情をどうしたらいいのか・・・?
お互いに、迷いながら・・・交錯する・・・想い。

ためらいながらも、
まわした手を離そうとは思わなかった。


「・・・だから・・・・・もう、今日は大丈夫だって・・・って言わせるなそんなこと。」


「・・・?・・・・!・・・・・・・アキ・・・・ッラ・・・!」


しばらくぽかんと見ていたケイスケが・・・
やがて飛び上がるようにがむしゃらにしがみついてくる。
嬉しくてたまらないというように・・・
抱きしめ、俺の首筋や頬に何度も何度もキスをした。


「・・・・・・俺も・・・・・もう・・・・我慢・・・・・できない・・っつ・・・!」
着ていたシャツを脱ぎ捨てる。
俺のシャツもたくし上げ、激しく胸の突起を吸い上げてきた。

「・・・・・好きだ。」
泣くように何度も囁く。


「おっい・・・・あっ・・ケイスケ・・・・まだ・・昼だぞ。」

たまらずに、声を上げる。

「・・・・アキラ・・・アキラ・・・・アキラ!」
子犬のように求めてくる・・・純粋に。
一途に。
まっすぐな瞳で。
少しも変わらない・・・・・ケイスケの姿。
「・・・俺・・・・アキラでないと、駄目だ。
アキラの匂いが無いと・・・・・息が出来ない・・・・・・。好きだよ、世界で一番・・・一番、アキラが好きだ。」


恥ずかしげも無く、ケイスケが囁く。

そうして念入りに・・・・
優しく・・・
高ぶった俺自身をそっと包み、なで上げた。

「・・・・・・・んっぁっつ・・・・!」
達しようと火照るのが分かる。
恐ろしい恍惚感に、一瞬我を忘れた。
「・・・・ああ・・・・・だ・・・め・・・だケイスケ!」


そうしてそのまま・・・・
ケイスケが今にも溢れそうなおれ自身を口に含んだ。
「・・・な・・・に?はっっ・・・・ああ」

少し笑んで・・・ケイスケが吸い上げる。

「あああっつ!はぁ・・・・っく!」

ケイスケの口の中で達するのに、時間はそうかからなかった。

気がつくとケイスケの髪を荒く掴み、揺さぶる。達した幸福感で息を吐いた。
溢れた俺自身を手にたっぷりと塗りこんだケイスケが・・・
ゆるりと・・・俺の内へ
指を押し入れ、さらに奥を押し広げる。
一瞬、幸福感で脱力していた身体が強張る。


何度も何度も・・・
念入りに
そして優しく
広げては、刺激する。

甘い刺激。
けれど思考は、これから予測される痛みでケイスケの指を締め付けるのが分かる。

静かに押し倒され
抱きしめあい、言葉を語るように交わすキス。

やがて
ゆっくりと・・押し入れられる。



「・・・・・っ・・・っ!」


一ヶ月ぶりのそれは、改めてひどい痛みで。
思わず、眉間にしわがよった。
声が出ない。
息をするのも、忘れそうになる。


ケイスケはそれを知っているのか
何度も俺の身体にキスをしながら
俺自身をまた優しく愛撫する。


怖がらなくてもいい・・というように。


「アキ・・・ラ・・・駄目なら・・言って。・・もう・・・やめ・・・たほうがいい?」
ケイスケが耳元でささやく。
苦しい・・・けれど。
首を振った。
見てはいないが・・・ケイスケが嬉しそうに笑ったような気がした。



「・・・アキラ・・・力・・・抜いて・・・・・・・。」
ケイスケが優しく愛撫する。


もう少しで、泣いてしまいそうだった。
優しくて、優しくて、優しくて・・・・。
ケイスケの、しぐさが。



突き上げられるたび、声が上がる。
最初はただのひどい痛みと苦しみだったのが・・・
しだいに・・・
身もだえする・・・・・
波のように訪れる
痺れるような幸福感に。


溢れる
人肌の、温かさに
苦しみよりももっと愛おしい
確かなケイスケの想いを感じて。



食べかけの昼食と
窓から聴こえる小鳥のさえずりと・・・・
幸福そうに俺を抱きしめるケイスケと。


初めて知る
幸福というものの形。


無くしたくない
俺の、日常がそこにあって・・・・・・。


この初めて知った世界が逃げてしまわないように・・・・・

ケイスケをいっそう強く・・優しく
抱きしめていた。







2007.12.28 UP
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