『赤飯の日』



その日は特別な日だった。


シキは覚えていないだろうけれど
俺はどうしても忘れられない・・・



日々の生活で忘れかけていても
その日が近づくと、必ず思い出してしまうのだ。




その日は終わりと始まりの日。

俺と、シキの・・・・。






・・・・・・・・・・・・・






「・・・・・・何のまねだ。」





俺の料理を見て、シキが呟いた。




「・・・・・何って・・・なんだよ。」




「料理がいつもより高価だ。・・・・・それになんだこの赤飯は。」





「おかしいか?・・・大切な日はこれを食べるんだと、隣のおばさんが教えてくれたんだ。」



「・・・赤飯を炊くようなことがあったのか。」



「・・・・・・・これがどれくらい喜びをあらわす食べ物か知らないけど・・・俺にとっては、そうだな。
たぶん一生で一番、・・・・大切な日だ。」







ふん、とシキが鼻で笑う。





「・・・・・・この時勢に赤飯を売っていたとは・・・珍しいな。」




「いや、無かったんだ。仕方ないから、・・・俺が作った。おばさんに大体の作り方を聞いて。
食べたこと無いからこれでいいのか解らないけど、なかなか美味く出来ただろ。」



見た目はほかほかと美味しそうで。

赤い小豆が美味しそうに見え隠れしている。


「・・・・ふん・・・・・」


シキがそれ以上何も言わず、赤飯を口にした瞬間・・・・




がりりっと妙な音が響いた。








「・・・・・・・・・。」




「・・・・・・・・・・・・・。」




無言の時間が続く。

やがて激しく眉根を寄せたシキが呟いた。





「・・・・・小豆は先に茹でたのか。」




「え・・・ゆで・・・?」






「・・・・・・もういい。今度から作るときは先に俺に聞け。」





不機嫌そうだったが・・・それでもシキは少しも残さず食べた。
・・・・おかわりをすることは無かったが。




「・・・・何の記念日だ。」

先に食べ終えたシキが突然聞いてきた。


「え?」



「自分の生まれた日など知らないと言っていただろう。
一体何を祝う?」





「あるんだ。俺にとっては・・・・。」





「言え。」




「・・・・・・・・言わない。」





聞かれると妙に照れくさくなって。




じろりとシキがにらんだ。

シキの赤い瞳に見つめられると・・・
いつもそれだけでどきりと胸が鳴る。


「・・・・まさか俺が目覚めた日だとかいうつもりでは無いだろうな。」



「え・・・・っ?どうして・・・知ってたのか!?」




思わず椅子から立ち上がった。

俺の姿をじっとみて・・・シキが大きくため息をつく。


「・・・・くだらん。」



本当につまらなそうに、シキが横を向いた。




「・・・・・・・。」



恥ずかしくなって椅子に座りなおす。


何を言えばいいのか解らなくなって、俯いて無言のまま、
がりごりと・・・・赤飯(というもの)を食べた。

硬い塊が歯にあたる。

・・・・それにしてもなんという不味い料理なんだ・・・・・・・。

豆が硬くて食べられたものではない。
これをお祝いに食べるのは・・・こういう料理で苦しいことも我慢しろということなのか・・・・。




シキが目覚めた日を、いつまでも覚えていることが妙に恥ずかしく感じられ、
少しも飲み込めない口の中のそれは、余計にまずく感じられた。



沈黙が続く。



やがて・・・・シキが
やっと食べ終わって箸を置いた俺の顔をじっと見た。




「・・・・なんだよっ・・・・?」


照れながらも、その瞳を見つめ返す。





「これがお前なりの祝いだというのなら・・・・俺もお返しをしてやろう。」



ぐっと腕を掴まれて、立ち上がらされると、
壁に身体を押し付けられ、頬を重ねてきた。





突然のことに真っ白になったあと・・・・・・・


すぐに顔が恐ろしい勢いで熱を帯びていくのが解った。




「え、・・・・・ちょっ・・・・・シキ?!」




うろたえてシキのシャツを強く掴む。



「お返しなんかいらないっ・・・これは俺が・・・ただ覚えていたいだけだ。」




「ほう・・・だが俺がこんなことを考えるのは・・・もう金輪際、無いかもしれないぞ。」





「考える・・・・?」




「今日だけお前の望みを聞いてやる。
お前がして欲しいこと・・・それを一つだけ。
あるいはお前が俺に何か聞きたいことがあるのなら、
一つだけ答えてやってもいい。・・・・・どうだ?」


「!?」



はっとしてシキの表情を見ようとするが
強く掴まれた腕を振りほどくことが出来ない。



「・・・急にそんなこと言われたって・・・・!!!」


うろたえる。

頭がついていかない。

考えようとすればするほど、触れたシキの頬を妙に意識して
ますます顔が熱くなる。



俺が、シキにして欲しいこと。

俺が、シキに言って欲しいこと・・・・?







「そんなこと・・・解らない・・・・。」




ふ、と頬に触れた感触からシキが微笑んだのが解った。




「・・・・では何もいらない、ということだな。」


「え・・・それは・・・」



そう言われると、何か言わないと勿体無い気がして。


「じゃ・・・じゃぁ、あんたにして欲しいこと・・・。」


「なんだ」




「・・・・・・今日だけは・・・・・・・・本を読むのをやめて欲しい。
ここで生活するようになってから・・・暇さえあれば小難しい本ばかり読んでるだろ。
たまにはあんたと、外に行きたい。」




「・・・・なんだ、そんなことでいいのか。」

面白がる声が響く。


「そ・・・それから、言って欲しいことは・・・・。」



「・・・まだあるのか。」

呆れたようなシキの声がすぐ傍で聴こえた。
耳に掛かる息が・・・・・・さらに顔を熱くさせた。





「あんたが・・・俺と一緒で良かったのか・・・
これで・・・本当に良かったのか、あんたの正直な気持ちを教えて欲しい。
ののしっても、何でもいいから、あんたの素直な気持ちを知りたいんだ。
俺は・・・・・あんたは本当は目覚めなければ良かったんじゃないかって、
俺とのこんな生活なんて、望んでいなかったんじゃないかって
違う違うと思っても・・・やはり気になるんだ。
言っておくが、俺は楽しいと思ってる。
信じられないくらいだ・・・・。だけど・・・あんたを見ていると、どうしても不安になってしまう。
俺があんたを・・無理やり起こしたんじゃないのかって
だから・・・・」




シキの答えを待つ。



シキは無言だ。

触れた感触から、笑みが消えているのが解る。


俺の心臓はばくばくと強く音を立てる。



長い長い沈黙・・・・・・・・・・・・。






シキは・・・・・・・・・・・

本当は・・・・・あのまま眠っていたかったんじゃないか、
あのまま全てを忘れていたときのほうが
シキにとっては幸せだったんじゃないかって・・・・・・・・。
俺はどうしても・・・・・・・。










やがてシキが


囁くように呟く。







初めてその声を聞いたときから


忘れられない

低い・・・綺麗な声で。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


その言葉を聞いたとき俺は


・・・・・・・


来年もまたその次もきっと

シキと生きていく限り


この記念日には必ず・・・・・


この不味い不味い赤飯を




・・・・・・作り続けようと思った。




















「・・・解らないのか。」




「言わないと解らないだろ・・・。」




「・・・どうしても聴きたいのか?」




「聴きたい」





「・・・・・・・」


ふ、と・・・・再びシキが微笑んだのが解る。


さらにぐっと唇を耳に押し付けるように


短い言葉が、



信じられない熱をもって



その奥へと響いた。




俺の問いに対する、シキの返事。



名前を呼んだ後、




・・・・・・たった一言だけ。






アキラ・・・・・・・



























・・・・・・・・・・・・・・・・愛している・・・・・・・・







































おしまい^^


普段は口が裂けてもそんなこと絶対言いそうにないシキ様が
というか自分の気持ちがなんなのか不器用な二人は気付いて無い気がしつつ、
実はすこぶる機嫌が良いときにふと、
口を滑らせてしまったという感じで(llllll´▽`llllll)

・・・とかなんとかよりも!
そういう台詞をただシキ様に言って欲しかったのですよ〜〜〜
わははーーー(*´▽`*)!

もうシキ様ばんざぁーーーい!

これってアキラたんの質問に答えて無いようですが・・
答えているということで・・・(llllll´▽`llllll)♪



よく解らないラブ甘SSで失礼しましたぁ(;´▽`lllA``!