目が覚める。




・・・・・・・においがする。
雨の・・・・・においが。


そしてベッドからは
微かに・・・・・・隣で先ほどまで寝ていたであろう男のにおい。


甘い・・・・・・


どこか懐かしいような
頭の芯をくすぐる
何か・・・・・・・この世のものではない
花の様な・・・・・・。





「アキラ」


呼ぶと
隣の部屋でいたのかすぐにやってくる。


「・・・何?シキ。」

真っ青なシャツを着たアキラがベッドの脇に座り
目線を合わすと嬉しそうに微笑んだ。


「・・・・・・・」


ただ黙って、その肩を引き寄せる。
揺れたアキラの髪に、そのまま顔をうずめた。

「・・っ?!・・・・・っ・・・・?」


引き寄せられてぐらついたアキラが、黙ってはいるがかなりうろたえているのが解る。



(・・・・・・・・・面白い・・・・・)



しばらくすると
俺の髪をかき抱くように
首に手を伸ばしてくる。






「・・・・・・・変わったな、・・・シキ。」


しばらくそうしていた後、
ぽつりと、独り言のようにアキラが呟いた。


「何がだ?」


髪に頬を寄せたまま問いかける。



「・・・・・・何だか、優しくなった。」

そう言うと、少し恥ずかしそうに俯いた。


「・・・・・・ばかばかしい」

そのまま、アキラの髪から顔を離す。


アキラが照れたような、困ったような顔をして
俺を見上げた。


「・・・・・そうだよな。ばかばかしいよな・・・・・・。」


立ち上がる。


「変わったのは・・・・・・俺の方・・・かもしれない。」

そう言うと、泣きそうな・・・・・・それでも心底嬉しそうな顔をして

笑った。




いつだったか・・・・
夜半に目が覚めて
俺にすがるようにして眠るアキラにはっとしたことがあった。



きっといままで何度かそうして眠ってきたのだろう。
・・・・必死な表情をして。

しがみついて、眠る、アキラ。




意識も何もない
ただ暗殺者に追われ続ける俺を
庇い、車椅子に乗せて
逃げ続けていた日々は
恐ろしく過酷で・・・惨めなものであっただろうと・・・・
想像するに難くなかった。




(何故俺のそばにいる?アキラ・・・・


・・・・・何故このような辛い・・・・・・・)



そっと顔をなで
増えた傷を見やる。


静かな寝息。


肌と肌から、伝わってくる、体温。


鼓動の音。


・・・・・そして、におい。


忘れたことは無い。

俺が意識が無く、眠っていた間も決して。


俺を生の世界へと引き戻した


この男の全てを。



「俺にはもう何も無い・・・・と思っていたが・・・・・。」
ふ、と笑みが漏れた。



目を閉じると


アキラのにおいと雨音だけが・・・・・・・・


ただ静かに






シキの胸の中に残っていた。




2008.1.10UP


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