ボートピア設置基準厳しく    論壇 朝日新聞(大阪本社) 2000.1.29

山崎千津子

 

モーターボート競走(競艇)の場外舟券売り場(ボートピア)が増えている。昨年、神戸市の新開地で、阪神大震災をきっかけに開業した。松江市では今年八月に開設予定とか。私たち「公営ギャンブル場外券売場建設反対全国連絡協議会」の調べでは、全国百二十四カ所で設置計画が生まれ、うち十四カ所はすでに設置された(一カ所はその後閉鎖)。半面、五十四カ所はPTAや住民の粘り強い反対でつぶれている。

ボートピアは、民間業者などが建設し、競艇施行自治体が営業する公営ギャンブル施設だ。業者は地元自治体に設置受け入れを働きかけ、最終的に運輸省が認可する。開業後は、受け入れ白治体に売り上げの一・五% (上限)、施行自治体に同四・五%、土地建物の所有者に同五・五%、また財団法人・日本船舶振興会の日本財団には同三・三%が入ることになっている。

一九八五年のモーターボート競走法施行規則改正により、ボートピア開設が可能になった。以来、過疎や空洞化に悩む地域がねらわれ、住民が知った時には、自治体幹部や有力者を取り込んでいる例が多い。

人口二方八千人の私の町、香川県三木町にボートピア設置計画がふってわいたのは、九六年秋だ。背景には、売り上げ低迷からの脱出をねらう競艇施行者・丸亀市の思惑がある。計画地は、香川医科大学の東九百bの高台。開発業者が百fの山林を造成、周辺住民の同意を取り付ける説得工作を始めた。

説得工作は民間業者に任されているため、買収による賛成署名獲得や傷害事件、自治体首長・幹部、議員への贈賄事件など、各地で問題が起きている。九七年には埼玉県嵐山町の女性町議が襲われる事件も起きた。にもかかわらず、開設に至る準備段階において、運輸省は傍観者の立場をとり、「地方自治体と民間業者の問題」と、ゆきすぎた誘致活動の規制には消極的だ。監督者として、あまりに無責任ではないか。

三木町でも、「未来は今しかつくれない」と業者は町内全戸にキャンペーンを展開。「町に大金が入る」「税金が安うなる」などのうわさも流れた。「一軒あたり毎年一万円支払う」という条件で賛成署名が集められた。「部落が割れる」ことを避けるのが農村地帯の慣例。農業用水を管理する水利組合の役員や集落の世話役に言われると、断れない人も多い。「反対しても無駄。有力者には逆らえない」という雰囲気ができた。

年間三百日近い開催日には、一月数千台の車が田舎町に押し寄せる見込みだ。予定地周辺には大学病院や幼稚園、小学校など文教施設が集中し、影響は必至だ。子どもをもつ親たちは、ボートピア周辺の環境悪化を心配する。ごみ処理や犯罪対策も難題になるだろう。隣接の高松市東部の住氏にとっても、同様だ。

設置基準には「文教施設及び医療施設から適当な距離を有し、文教上又は衛年上著しい支障をきたすおそれがないこと」とある。だが、解釈はあいまいで、私たちの訴えに運輸省は「本省のかかわる段階ではない」と答えた。

交通渋滞や青少年への悪影響と引き換えに、町が得るのはたかだか一億円(三木町の一般会計九十四億円の約一%)の見込みだという。果たして真に町を活性化させるのかといった議論もいっさいなく、権力と金が地元氏に圧力をかけ、自由な発言を封じていく。「地元同意」を強弁する町当局に加え、町議会も一切の審議なく設置決議案を強行採決した。恩恵を受けるのは業者と一部の住民だけ。「住民投票で決着を」と反対の声は強い。

いまなにより、設置手続きにいう「地元同意」について、明確な基準つくりが急がれる。住民の安全と自由な話し合いを確保したうえで、「影響を受けるすべての住民の同意が必要」としてはどうか。さらに、病院や学校など公共性の高い施設周辺について設置基準を具体的かつ厳しくし、住環境を損ねることのないように基準見直しと法改正を望む。さらに誘致活動の透明性を確保し、地元を混乱させるような不公止な誘致活動は規制するよう、運輸省に提言したい。

公営ギャンブル場外券売場建設反対全国連絡協議会関西支部事務局担当