「サンマ殺人事件」

その20.
 次の日、小松由美子が帰路に就くのを見送った山木は、何度も昨晩の話を頭の中で整理しようと
していた。そして何かを思いついたかのように、隣の羽ノ浦に声をかけた。
 「タカさん、これから会って貰いたい人がいるんですが、、、」
 山木はゴルフに羽ノ浦を乗せ、空港から南へ30分ほどの郊外の料理店八方亭に車を止めた。
 「ここです。お昼ご馳走しますよ」
 暖簾をくぐると「いらっしゃいませ」と声だけは実際より10才くらい若く聞こえるシノミヤハ
ーンの妻が現れた。この声、何度聞いたことか、、山木は思った。
 「あら、山木刑事お久しぶりです」
 「い、いや奥さん、僕はもう刑事じゃないですから」
 「そうでしたわね。それで、きょうはまた何か?」
 「久しぶりにいつものが食べたくなりましてね」
 「分かりました。こちらの方もご一緒でよろしいですか?」
 「山木君にお任せします」
 「はい。あなた山木さんよ、いつもの2人前」
 「あいよっ、ラーメンとバッテラ2人前っ」
 その取り合わせを聞いて羽ノ浦は気分が悪くなった。この男どうやって食べるんだ?
                                −−以下続く−− 
その21.
 注文の品が出来るまで10分ほど待った。人の良さそうな白髪まじりの小太りの男がラーメンと
バッテラ2人前を慎重にお盆に載せてやってきた。
 「山木さん、久しぶりです」
 「シノミヤハーンさんご無沙汰しています。こちらは青森県警の羽ノ浦刑事です。実はもう一度
5年前の出来事をお聞きしたくて一緒に参りました」
 「5年前の事をですか?、、、、あれはもう、、、」
 シノミヤハーンから笑顔が消えた。山木は静かに話しかけた。
 「お話ししたくない気持ちはよく分かりますが、人の命がかかっています」
 「人の命がですか?」
 「ええ、佐倉サトという女性が殺されるかもしれないのです」
 「佐倉?あの青森の、、、」
 「そうです、佐倉戸一郎の娘です。徳島に来ています」
 「徳島に?」
 「ええ。そして、あなたはまだ隠していることがあるはずですね」
 暫くの沈黙の後、シノミヤハーンは重い口を開いた。
 「分かりました、全てをお話しいたします。少しお待ち下さい」
 そう言ったシノミヤハーンは、つい1時間前に出した暖簾を店の中に入れ、代わりに準備中の札
を吊した。
                                 −−以下続く−− 
その22.
「私は釣りが趣味で、その日もいつもと同じように朝5時頃から津田の岸壁へ出掛けました。まだ
辺りは暗くて他の釣り人も来てなかったと思います。」
 シノミヤハーンは、ゆっくりと話し始めた。
 「津田の岸壁は木材の積み降ろしのために出来たもので、20年も通っていますが木材以外のも
のが降ろされたのを見たのはその日が初めてでした」
 「5年前の12月10日ですね」
 山木はラーメンに胡椒を掛けながら念を押すように尋ねた。
 「そうです。釣り日誌をつけていますから間違いありません。」
 「その木材以外のものとは何ですか?」
 今度は羽ノ浦が尋ねた。
 「大理石です。荒削りのものですが、多分墓石の材料になるものだと思います」
 「墓石ですか?」
 「ええ、ここまでは警察に話したとおりです。しかし、問題はその数です」
 「と言いますと?」
 「私が見たときは確か20個あったんです。しかし、調書では10個と書かれました。信じて貰
えなかったんです。お前の記憶違いだと言って、、」
 「誰にですか?」
 「警察です、山木さん以外は、、、だから、それ以上のことは何も話していません」
 羽ノ浦が隣を見ると、山木はうまそうにラーメンとバッテラを頬ばっていた。
                                  −−以下続く−−
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