「サンマ殺人事件」
その1.
四国徳島市の佐古という所に阿波25万石の歴代藩主であった蜂須賀家の墓所がある。その墓所
から200m ほど東に椎宮という神社がある。地元の人は親しみを込めてシイノミヤハンと呼んで
いる。秋祭りが終わり11月ともなると参拝の人影も急にまばらになり、辺りはひっそりと静まり
かえる。
神社のふもとは旧街道沿いになっていて民家がたくさんある。その一角に最近、通称タカという
祈とう師が引っ越してきた。出身地は不明だが表札には羽ノ浦高造と記されている。本人曰くは何
年間も高野山で修行を積んできたと言うが真偽のほどは定かではない。地元の人に言わせれば「あ
そこへ行けばクレオパトラがどうのこうの、シーザーがどうのこうのと呪文を唱え、すぐにお主は
ウサギのたたりじゃと言われるか、そなたは百舌(もず)のたたりじゃと言われる」らしく、どう
もインチキくさいと思われている。しかし、不思議と女性客が多く、何かの新興宗教ではないかと
もっぱらの評判である。
−−以下続く−−
その2.
「ねえっ、ねえっ、ここよここ。タカさんていう祈とう師のとこ。ホントよく当たるんだからァ」
大きな声で手招きしているのはオカマバー「紫」に勤めるくず子である。大きな農家の出だが百
姓が嫌で30も半ば過ぎてからオカマになった。悩みは毛深いことだが、意外にも付いている客は
政界、経済界、芸能界、スポーツ界など幅広い。
少し遅れて通りの角を曲がったのは、菜仁尾優香と海野月子の2人である。菜仁尾はタレントの
優香と名前が同じなのが自慢でしきりに「優香と呼んでね」と言っている。しかし、苗字のナニオ
とは続けては読まれたくないらしい。海野は四国ではウミノと読まずウンノと読む。彼女も苗字は
あまり気に入っていない。2人ともOLだが足腰がすこぶる弱く、特に農家出身のオカマにはなか
なか付いていけない。結局、タカの家にはくず子より5分程遅れて着いた。
−−以下続く−−
その3.
「何よタカったらっ、昼間からお酒なんか飲んで」
「うむ、これは酒ではないワインといってな、その昔クレオパトラが風呂に浸かったという、、、」
「そんなことどうでもいいわよ。お客よお客。OLが2人、もうすぐ来るわよ。それから今日の紹
介料2000円ね」
「うむ、ではこれを。それで今日のOLは何をお祈りして欲しいのじゃ?」
「それがね、あの2人ね変なのよ。色気がないっていうか、男のことじゃないの」
「何じゃな?」
「それがね、お食事会をするらしいの。それで、そのメニューを何にしたらいいか観て欲しいって」
「うむ、メニューか。それで、その2人は何が好みじゃ?」
「優香って娘はね、カレーなの。それで月子って娘はサンマ」
「なんと、月並みじゃな」
「そうなの。あっ、もう着いたみたい。怪しまれるといけないから私迎えに行ってくるわ」
−−以下続く−−
その4.
祈とう師の部屋を見渡しながら優香と月子がひそひそ話を始めた。
「ねえ、この部屋何かじめーっとしてるわね」
「うん、それにお酒くさいし。大丈夫かな?」
あわてて、くず子が止めに入った。
「何よ、あなた達。先生に変なこと言ったら、たたりがあるわよ」
「でもゥ」
「あっ、静かにして。先生が来るわよ」
「うむ、わしが祈とう師タカじゃ。よろしくな」
「菜仁尾優香です」
「海野月子と申します」
「うむ、して本日は何を観て欲しいのじゃな?」
「あのう、私達お食事会をしたいんですけどメニューを何にしたらいいか迷ってるんです」
「なに?メニューとな。何故にそのようなことを?」
「実は、6人くらいでするんですけど、皆好みが違うんです。特に佐倉サトっていう娘は青森出身
で 私達とは味覚も違うし」
「サクラ?どこかで聞いたような気がするが、春の桜か?」
「いいえ、佐古の佐に倉庫の倉ですけど、それが何か?」
「うむ、い、いや何でもない。」
タカの顔に一瞬不安がよぎった。それを見過ごしたかのようにくず子が大声で言った。
「そんなことより先生、早く観てあげてよ。私もお店があるんだから、ひげ剃りもしないといけな
いし」
「ああ、そうじゃったな。それでは始めよう。2人とも手を合わせてな、わしに続けて言うのじゃ
ぞ」
「はい」
「クーレオパットラ、クーレオパットラ」
「クーレオパットラ、クーレオパットラ」
−−以下続く−−
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