「サンマ殺人事件」

その5.
「あの先生、見かけによらず凄いわねえ。私の好物はカレーだって一発で当てたわ」
「私だって、普通私の顔から好きなのはサンマなんて思わないもの」
「くず子って、いろんな人知ってるのね」
「まあね」
「それに祈祷料もずいぶんと負けて貰ったし」
「1人5万円のところ、くず子の紹介だから3000円づつでいいって」
「くず子にもお礼しなくっちゃ」
「あっ、い、いいのよ私は、お店もあるし。それよりメニューは決まった?」
「うん、先生のお告げの通りカレーとサンマにするわ」
「サトだってカレーとサンマなら大丈夫よ、きっと」
「そう、良かったわね。、、、、、佐倉か」
「えっ?今何か言った?」
「う、ううん何でもないの。じゃ、私お店があるからここで」
「ありがとう。あっ、それからくず子も食事会おいでよ」
「そうよ、美味しいカレー作るから、ぜひ来てよ」
「えっ、わ、私?行ってもいいの?ホントに?」
「ホントよ。日が決まったらメールで連絡するからね」
「うん、おめかしして絶対に行くわ。じゃ、タクシー来たから乗るわね、バイバイ」
「バイバイ、またね」
              −−以下続く−−
その6.
 不況とはいいながら、またウィークデーとはいいながら、ここオカマバー「紫」は今日も賑わっ
ている。どこが魅力なのか、くず子の指名は多い。やっと8番テーブルに座ったのは祈とう師タカ
が店に入って30分も過ぎてからだった。
「タカ、きょうはありがと。2000円儲かっちゃった」
「うむ、少し気になることがあってな」
「なあに?あっ、もしかして、、、」
「うむ、佐倉のことだが、名前はサトとかいったな」
「うん、私はよく知らないんだけど、青森出身だって」
「佐倉戸一郎の娘かもしれんな」
「私も思ったの。あの町議会議員の娘かも、、、」
「しかし、なぜ今頃になって」
「四国まで、、、大丈夫なはずなのに」
「娘は何も知らないはずだ」
 その時、ボーイがくず子へ近寄ってきて10番テーブルの客から指名がかかったと伝えた。
「じゃ、私指名だから行くね」
「あの10番テーブルの客は?」
「あの人?最近ちょくちょく来てくれるの。私立探偵だって」
「私立探偵?」
「ただし君探偵事務所とか言ってた。本名は山木正一」
「ヤマキショウイチ?」
「だしの素みたいね、じゃ」
 くず子が向かった10番テーブルの客は既に出来上がっていてカラオケを唄っていた。それもか
なり前の曲、伊藤ゆかりの「小指の想い出」だった。
「あなぁたぁがぁー 噛んだぁー こゆびぃがぁ とれたぁ」
 お世辞にも上手とは言えない。他の客も迷惑顔だった。
                  --以下続く−−
その7.
「もう雪か、四国はこんなに暖かいのに、、、。みんな元気かな?」
 ビール片手に液晶画面を眺めながらサトはつぶやいた。四国へ来て、もうすぐ3回目の冬を迎え
る。故郷の青森へは一度も帰っていない。いつしかこうやって、勤めを終えてからのインターネッ
トを楽しむのが日課になっていた。故郷の情報はこれで得ている。
 電源を入れると、いくつかのメールが届いていた。
「12月24日にお食事会をします。メニューはヒミツ。ぜひ来てね」
 菜仁尾優香と海野月子からのメールだった。わざわざクリスマスイブにしなくても、と思ったが
人のことは言えなかった。青森では婚約者もいたが28才の時、ある事件がきっかけで別れてしま
った。皮肉なことに、それが徳島へ来る決心にもなったのだが、、、。それ以来、浮いた話はない。
 サトは次のメールを開けた。
「また負け越したんだ稲光君、、、」
 それは幕下31枚目の相撲取りイナビカリからのメールだった。出身地の四国では稲妻のことを
イナビカリという。親方が強そうな名前をとの願いで付けてくれた四股名だった。しかし、29才
になった今も一向に芽が出ないでいる。身長もあり人一倍稽古熱心ではあるが、体重が増えない。
彼は胃下垂だったのだ。今では70sを切っていた。そんな彼から、今場所も負け越したと悔しそ
うなメールが書き込まれていた。
「私より2つ年下か、そろそろ引退かな。でも、そんなこと書けないし」
 稲光からのメールには、ほかに次のようなことが記されていた。
「お姉さん、僕は故郷の徳島へ帰って料理の勉強をしようと思っています」
「あっ、そうか。彼の故郷は徳島なんだ。不思議なものね、、、」
 いつの間にかビールのロング缶は4つ目になっていた。
                --以下続く−−
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