「サンマ殺人事件」

その17.
 「ただし君探偵事務所の山木さんですね?」
 少し離れたカウンターの席から声がかかった。
 「そうですが、あなたは?」
 「青森県警の羽ノ浦と申します。こちらでは祈とう師タカ」
 「ああ、あの酔っぱらいの、、、インチキ、、、い、いや失礼」
 「いいんですよ、その通りですから。少しお話しさせて貰えませんか?」
 「ええ、どうぞ」
 そう言い終わるか言い終わらないかのうちに、タカは山木の隣の席に座りワインを注文した。山
木は差し出された青森県警特捜部刑事羽ノ浦高造の名刺を見た。
「4年前まで阿波東署の刑事をしていた山木さんですよね?」
 「どうして、それを?」
 「ここへ来る前に助川さんから聞いてきました。お辞めになった理由も」
 「そうですか。しかし、あなたこそなぜ徳島まで?」
 「あなたと同じ理由で、別の角度から大外虎之助を追ってます」
 「あの代議士を?」
 「そう、あのタヌキをね」
 2人は同時にステージを見た。曲は小川知子の「初恋の人」に変わっていた。タヌキのほうがまだ可愛いなと山木は思った。
              −−以下続く−−
その18.
 2日前の金曜日夜。菜仁尾優香の家の台所。
 「甘口と辛口を足しても中辛の味にはならないみたいね、このバーモントカレー」
 菜仁尾優香と海野月子はカレーの研究に余念がなかった。料理はあまり得意ではないが、それで
もクリスマスイブくらいは楽しく過ごしたかった。
 「ねえ、八方亭のシノミヤハーンさんに教えてもらおうか?」
 「そうね、ついでにサンマの焼き方も」
 「あの人女の子にはやさしいから」
 「ミニスカートはいていこうよ」
 「私、厚化粧して行こうっと」
 「決まり!じゃメール入れておくわね」
 「じゃ、私コーヒー入れるから。今日はモカマタリよ」
 海野月子は勝手知ったる優香のパソコンのスイッチを入れた。
 「あれっ?くず子からじゃないの」
 それは、くず子からのメールであった。クリスマスイブの食事会には出席出来ないかもしれない
との内容であった。
 「くず子ったら、あんなに楽しみにしていたのに、、」
 発信時間をみると午後7時10分になっていた。  
                                 −−以下続く−−
その19.
 くず子の葬儀は慎ましやかに執り行われた。それでも、くず子の交際範囲が広かったのか各方面
から100人くらいの弔問客が訪れた。夜になって山木と羽ノ浦はくず子こと小松縞夫のマンショ
ンを訪れた。そこには、少しやつれた縞夫の妻由美子が待っていた。ドアを開けると一礼して静かに
羽ノ浦が言った。
 「由美子さん久しぶりです。ご主人お気の毒でしたね」
 「あっ、羽ノ浦警部さん。貴方が何故ここに?」
 「ちょっと訳がありましてね。それからこちらは探偵の山木さん」
 「山木と申します。本日はご愁傷様です」
 「ありがとうございます。あのう小松がなにか?」
 「ええ、その前にお線香を上げさせて下さい」
 2人は小さくなったくず子の前で手を合わせた。遺影には七三に分けたネクタイ姿の写真があった。どこからみてもくず子の面影はない。りりしい男の小松縞夫であった。
 「この写真は?」
 「五,六年前のものです。大外代議士の秘書をしていた頃のものです」
 「秘書?くず子が、、、」
 山木は驚きを隠せなかった。羽ノ浦はずっと縞夫の遺影を見つめているだけである。
 「もう少し、詳しく聞かせていただけますか?」
 由美子はそっとうなずいた。
                 −−以下続く−− 

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