「サンマ殺人事件」
その29.
カレンダーはあと12日で終わろうとしている。山木は穴が開くように預金通帳を見ていた。依
頼者から振り込みがあったからである。報酬は青森銀行弘前支店から送金されていた。
「これで何とか年が越せる」
しかし、滞納している家賃3ヶ月分と未払いの元山育代の給料6ヶ月分それに「佳奈」と「亜紀」のスナック2軒分のツケと30Kmの速度違反キップ、、これらを払うと山木の手元にはいくらも
残らない。どうせならと八戸市に住むくず子の妻小松由美子へねぎらいと共にちゃっかりと地酒の
「壷八仙」とイカの一夜干し「しんちゃん」を送ってくれるよう手紙を書いた。
「これでお前と一緒に寝正月だな、、、」
ポチにエサをやりながら一人呟いた。ポチの世話は山木の日課である。事務員の元山育代が近づ
くとポチが吠えるからだ。
元山育代はまだ来ていない。10時頃に寝過ごしてしまいましたと電話があった。化粧に2時間
くらいかかるから来るのは昼過ぎだな、そう思いながら自分でパソコンのスイッチを入れた。メー
ルのやり方はパソコンの得意な元山育代から教わった。
「シノミヤハーンから来てる、、」
そこには、いつも釣りに行く津田の岸壁にここ数日見かけない男が2人うろついていると書かれ
ていた。山木は、明日朝5時半にそちらへ行きますと返信した。しかし、その後の操作がうまくい
かない。あちこち、マウスをクリックすると別の画面が現れた。
「あれっ、変だぞ。何だこれは、、、?」
−−以下続く−−
その30.
年の瀬まで後11日、山木とポチはシノミヤハーンと共に津田の岸壁にいた。山木も以前はよく
この岸壁に釣りに来たが最近は遠ざかっている。原木の独特の匂いが海水によって一面に漂ってい
る。風が強い日には樹皮の粒子が舞い、髪の毛や衣服に付着して帰ってもこの匂いが取れないこと
がある。
シノミヤハーンに道具を貸して貰い久々の釣りを1時間ばかり楽しんでいると、ポチがワンワン
と吠えた方向から2人の男が現れた。釣りをするような様子でもない。
「釣れていますか?」
「まあまあですね、アジがポツポツってとこですかね」
「サンマは釣れないんですか?」
「サンマは無理ですよ、海流の関係で」
「そうですか、頑張ってください」
そう言い残して2人の男は去って行った。
「あの男達ですよ。、ああやって何をするでもなく、かれこれ1週間近くになります」
「目つきが違いますね、普通の人とは」
「ニワトリみたいな目ですね」
山木は2人が歩いた軌跡を目で辿った。あれっ?あんな所に、、、、。
「シノミヤハーンさん、ちょっと一緒に来てください」
−−以下続く−−
その31.
山木とシノミヤハーンは釣り場から50mほど北の所に立っていた。そこには1m四方の鉄板が
置かれていた。
「これは何ですか?」
「点検用の蓋ですよ。この下を漁師の小舟が通ったりしますからね」
「じゃ、この岸壁は全部コンクリートで出来ているんじゃないのですね」
「そうです、一部トンネルみたいに空洞になっていています」
「シノミヤハーンさん、貴方が見たという大理石はこの辺りに置かれてたんですよね」
「ええ、この辺りに一列に10個ともう10個は4,3,2,1とピラミッドみたいに積み上げ
られていました」
「摘発されたのは?」
「南側のピラミッド型の方です」
当時、何時間も前から箱入り娘作戦の捜査陣は張り込みを続けていた。暗闇と所々に積まれてい
る木材の陰になって個数は分からなかったが、大理石を降ろした船が去った後は一隻の船も着岸し
なかった。また、それまで陸からも一般のクレーン車やトラックの出入りはなかった。通ったのは
逮捕された下川組のユニック車2台だけである。
下川組の一味が通行禁止の門を破りユニックで大理石を積み込んだとき、捜査陣が現れ一斉逮捕
となった。しらを切る組員達の前でポチが中に埋め込まれている麻薬を発見したのである。芋づる
式に組長の下川守一も逮捕された。また、積み卸しのフィリピン船籍の貨物船も2時間後に紀伊水
道沖で検挙された。
次の日の朝刊にも大々的に報じられ、ポチの活躍は特別枠扱いさえされていた。これで下川組は
壊滅し、全てが終わったはずだったのだが、、、、、。
−−以下続く−−

