「サンマ殺人事件」

その32.
その夜、山木は自宅で眠い目をこすりながらノート型パソコンをいじっていた。
 「確かこうやれば接続できるばずだが、、」
 以前、元山育代に教わったとおりに電話コードを繋ぐとやっと立ち上がった。
 「なるほど、こういうことか。分かったぞ」
 一息ついて、缶ビールと一升瓶を横に置き激辛チリビーンを頬ばりながらテレビをつけた。チャ
ンネルを変えていくと引田天功のマジックショーが放映されていた。瞬時にしてスポーツカーが消
され、それを見た観客が驚いている。3ヶ所に設置されたテレビカメラが写した場面を何度も繰り
返し再現しているが、一向にトリックは分からない。それにしてもマジックの背景は必ずと言って
いいほど暗くされているのは何故だろうか。人の死角と錯覚を利用するためには暗い背景でなけれ
ばならないのではないだろうか。大掛かりなマジックほどそれが言える。
 「5年前も12月10日といえば朝5時過ぎは真っ暗だよな」
 山木は当時の津田岸壁の見取り図を描き始めた。大理石や木材の配置はシノミヤハーンの供述書
を参考にした。
 「捜査陣はこことここ、シノミヤハーンはこの位置で釣りをしていた。そして20個の大理石を
見た。捜査陣の位置からは、、、10個、、、しか見えない、、、」
 テレビでは引田天功の顔が大きく映し出されていた。
 「この人の素顔はどんななだろう?これこそ謎だな、、」
                              −−以下続く−−
その33.
 いよいよ今年もあと9日となった。電話の一つも鳴らないため、元山育代はかれこれ1時間近く
事務所を掃除している。急きょ青森へ帰っていた羽ノ浦がとんぼ返りでやって来たのは10時を過
ぎた頃だった。ポチがワンと吠えた。
 「やっと分かりましたよ。今は退職している当時の担当者が詳細を話してくれました。法廷での
証言も約束してくれました。その人はたたき上げの刑事でして、当時本庁から回ってきた署長の広
田基志のやり方をよく思っていませんでした。しかし、現役時代はじっと我慢してたそうです。
 全ては署長の広田基志が大外虎之助と組んで握りつぶしていました。彼は警察庁時代に当時の長
官の大外虎之助と知り合っています。青森の署長の後、徳島へも署長として異動して来ています。
ちょうど箱入り娘作戦の時期と一致します。私なんかと違い、キャリア組ですからどれも1年から
1年半の期間ですね」
  「大外虎之助の方はどうでしたか?」
 「すこぶる評判は良くないですね。地位と名誉のためなら何でもする男です。選挙の時は金が舞
いますし、警察庁長官の椅子も金で買ったとの噂です。土木工事を巡っては暴力団がらみも多い」
 「暴力団と関係のある政治家が警察庁長官ですか?」
 「だからこそ余計に長官の椅子が欲しかったのかもしれません」
 「広田基志も金で操っていた?」
 「いえ、互いに持ちつ持たれつですよ。女子高生に手を出したのを大外に助けて貰った経緯があ
ります」
 「女子高生?キャリアが陥りやすい、、、」
 「その通りです。お互いが利用してた訳です」
 「佐倉戸一郎の事件は?」
 羽ノ浦は少し考えた後、山木に言った。
 「山木さん外へ出ましょう」
                 −−以下続く−−
その34
  山木と羽ノ浦は近くにある純喫茶「うさぎ」へ入った。店のママさんは、若いときに見た日活ロ
マンポルノ「桃尻部屋」の女優がそのまま年を取ったような顔である。純喫茶の純とは何を意味す
るのか不思議であったが、目的は話をすることにあった。
 「コーヒーならうちでも、、、」
 「いえ、マッタリしてますから」
 タカがにやっと笑った。
 「それで、佐倉戸一郎の事件はどうでしたか?」
 「完全な殺しですよ。佐倉は大外が麻薬密輸の黒幕だということを知っていました。そして自首
と議員辞職を勧めたんです。だから、、殺された。サンマの内蔵に注射器で青酸カリを注入して、
やったのはニワトリです。くず子が話してくれました」
 「くず子が、、、ど、どういうことですか?」
 「くず子は大外との関係が嫌になってたんですよ。それで箱入り娘作戦の後、志願して青森から
徳島へ監視役としてやってきたんです。そうすれば毎日大外と会わなくてもいい」
 「監視役?」
 「そう、発見されなかった10個の大理石のですよ。多分あの岸壁の近くにあるはずです」
 「でも、なぜオカマバー紫に?」
 「大外の指示です、あそこは港湾関係の客も多いですから、情報を得るのには丁度いい」
 「情報ですか?」
 「ええ、あそこは近々岸壁の拡張工事が計画されています」
 「それで、ニワトリが動き出したのか」
 「でも、まだ見つかっていない」
 「何故ですか?」
 「くず子が別の場所に隠したからです。その場所を知っているのはくず子の相談相手だった佐倉
戸一郎だったのですが、、、もしかしたら、娘のサトが知っているかもしれない」
 だから、サトは徳島に来たのか、、、山木は思った。
                                    −−以下続く−−