「サンマ殺人事件」
その35.
純喫茶「うさぎ」のママがやっとコーヒーを運んできた。去って行く後ろ姿をタカがじっと見て
いる。いや、姿ではなく桃尻を想像しているのだろう。彼はこういう女性がタイプなのか?
「タカさん、くず子と佐倉サトの関係は?」
「本人同士の関係は分かりませんが、サトの父親佐倉戸一郎とくず子は同じ木造町の出身です」
「それは知っています」
「佐倉戸一郎は人望も厚く、町議会議長の時には町おこし運動で西奔東走しました。その当時の
青年団の中心人物が副団長がくず子です。一緒に運動しているうちに佐倉を見て政治家に憧れるよ
うになりました」
「町おこしですか」
「ええ、観光客の少ない木造町では農産物や海産物を全国にPRしようとしてました。特に、西
津軽方面でとれるサンマは一番美味しいんですよ。しかし、全国に出荷されるほとんどは太平洋側
のものです。そこで、ここに食い込むためには代議士の力が必要になってきた訳です」
「それが、大外虎之助ですね。そして秘書になった、、、」
「くず子は大外の好みだったんです。そして、秘書になる交換条件として大外に抱かれた。住所
も大外が便利な場所へいくつも変えていった」
「女房子供もいるのに、、、」
「早道と考えたんでしょう。ところが大外は佐倉とは全く違うタイプの政治家だった。汚職、賄
賂、暴力団、、気が付けば、くず子は闇の世界にどっぷりと浸かっていた。抜け出そうとすると命
さえ危ない世界に」
「そうでしたか、ところでこのコーヒーはキリマン?」
「じゃろ」
−−以下続く−−
その36.
純喫茶「うさぎ」のママはタカが頼んだ水のお代わりを入れると奥へと消えていった。タカはそ
の桃尻を美味しそうにじっと見つめている、刑事とて男である。
「タカさんはなぜ祈とう師に変装しているのですか?」
「くず子と連絡を取るためです。出入りしてても怪しまれない」
「くず子はタカさんに自分が隠した大理石の場所を教えなかったのですか?」
「そればかりは一番最後に教えると言ってね、100%信頼はして貰えなかったみたいです。何
しろ広田基志が署長をしていた青森の特捜部ですからね、何があるか分からない」
「そうでしたか」
「山木さん、今度は貴方の番です。なぜ刑事を辞めたのか話してください」
「当時の広田基志署長の一言で箱入り娘事件が打ち切られたからです。私は特捜部でもないし、
あのまま刑事を続けていたのでは黒幕を逮捕出来ないですから」
「佐倉サトとは?」
「徳島へ来る前からインターネットでメールのやり取りをしてました。こちらへ来るときに住む
場所と就職先を頼まれて世話をしました。こちらに身寄りがいないので保証人もしてます」
「こちらへ来た理由は話してましたか?」
「いいえ、本人は話しませんが私は分かってました。それと彼女とは暗号でメールのやり取りを
していました」
「暗号?何か訳でも?」
「ええ、少し。私にしか解読出来ないと思います。それから、彼女はくず子とも会ってました」
「くず子と?くず子は私にはサトは何も知らないと話していたのに、、、」
「わざと隠していたんでしょう。それに私にはサトの暗号から大理石のある場所のおおよその見
当はついています」
「それは?もし彼女が知っていたら命が危ない、、」
「大丈夫です、12月24日までは。その日に全てが解決します」
−−以下続く−−
その37.
街にはあちこちでジングルベルが今日を最後と流れている。若いカップルが腕を組み、肩を寄せ
合いながら消えて行く。いつものクリスマスイブの光景である。
菜仁尾優香の家ではパーティが開かれようとしていた。女性陣は菜仁尾優香、海野月子、佐倉サ
ト、元山育美の4人。男性陣はシノミヤハーン、稲田光浩、羽ノ浦高造、山木正一の合計8人であ
る。
菜仁尾優香と海野月子は祈とう師タカが出席しているのをみて驚いている。まさか刑事とは思わ
なかった。稲田光浩はメールのお姉さんである実物の佐倉サトと会って照れくさそうに下を向いて
いる。山木とタカは優香の眉毛が気になっている。
知っている者も知らない者もそれぞれが自己紹介をしてやっと和んできた。シャンパンとで乾杯
の後、菜仁尾優香と海野月子が食事を運んできた。今日のメニューを知らなかった佐倉サト、元山
育美、山木正一の3人は出されたサンマを見て目を丸くしている。まさか、クリスマスイブのパー
ティに、、、。いや3人だけではなかった。祈とう師としてサンマとカレーを奨めたタカも恐縮し
ている。
しかし、出されたサンマはこれまでにない美味だった。シノミヤハーンが西津軽から取り寄せた
特上品に天然塩を振り備長炭でゆっくりと焼き上げてあった。菜仁尾優香と海野月子の2人を除け
た全員が内臓まで食べた。徳島の女性はいくら新鮮であってもサンマの内臓を食べない習慣がある
ようだ。
続けて、カレーライスが出された。これもすこぶる美味だった。家庭的でありながらプロの味が
隠されている。シノミヤハーンの指導のもと、2人は何種類かのカレー粉とワイン、トマト、ナツ
メグなどを長時間煮込み、水と米も慎重に選んでいた。
パーティは成功だった。優香はみんなから貰ったプレゼントを手にし感激していた。これも、く
ず子がタカさんを紹介してくれたからだわ、くず子ありがとう、、、。
−−以下続く−−

