「サンマ殺人事件」
その38.
食事が終わるとデザートが運ばれた。見るからに高そうなデザート皿に桃のシロップ漬けが載っ
ているが、中身は多分缶詰だろう。僅かにシナモンとラム酒が効いているのはシノミヤハーンのア
ドバイスかもしれない。
最後はコーヒーを入れることになり、元山育子が持参したモカマタリを自らが入れてくると言っ
て台所へ消えた。その間におしゃれなクリスマスケーキを仲良く8等分した。タカがピザを食べた
いと言ったが他の者は無視した。タカは酒を飲むとどうも素行が良くないみたいである。ホントに
特捜部の刑事なのか。
やがて元山育子がコーヒーを運んできた。8つのそれぞれのカップには可愛らしいイラストが描
いてある。元山はシノミヤハーンから順にコーヒーを置いていった。
「それでは改めていただきまーす」
優香が声を掛けた。
「いただきまーす」
「待ちたまえっ」
突然タカが立ち上がった。
「サトさん、そのコーヒー飲んではいけないっ」
今度は、山木が叫んだ。サトはピンクの子豚のイラストが描かれたカップを手にしたまま硬直し
ている。
「元山育子、君を殺人容疑で逮捕するっ」
酔っぱらいの祈とう師とは思えない速さでタカが元山育子に手錠を掛けた。元山の顔は一瞬蒼白
になったが、観念したのか無言のまま首を一つ縦に振った。
−−以下続く−−
その39.
東署からパトカーで駆けつけた警官によって元山育子が連行された後、菜仁尾優香の家は、つい
今までパーティをしていたとは思えないほどの重い空気が漂っていた。
海野月子は今にも泣き出さんばかりである。佐倉サトはやっとの思いで受け皿に戻したコーヒー
カップをじっと見つめている。
「何故っ、何故なの。どうしてこんな事が起こるのっ」
優香が叫んだ。他の者は黙ったままだ。
山木はサトのカップからティースプーンでコーヒーをすくい取り、近くの金魚鉢の上から数滴垂
らした。すると、それまで元気そうに泳いでいた金魚が瞬時にして死んでしまった。全員の目がそ
の水槽に釘付けにされた。沈黙の後、山木が静かに言った。
「青酸カリですよ。佐倉戸一郎さんもこれで殺されました」
「パパが、、、やっぱり」
「お父さんは、くず子から相談を受けて全てを知ってしまったのです。そして、政治家としてど
うしても大外を許せなかった。大外は金で片づけようとしたが正義感の強いお父さんは逆に自首を
勧めた」
「元山育子は?山木さんの事務員なのに、、、」
海野月子が尋ねた。
「彼女は大外の女ですよ、青森出身です。4年前私が探偵事務所を興すときにタダでもいいから
と言ってやって来ました。先行き不安だった私は即採用しました。地元出身と言ってましたがポチ
がいたのですぐ嘘と分かりました」
「もう少し、詳しくお話下さい」
シノミヤハーンが全員を促してテーブルに座らせた。
−−以下続く−−
その40.
「ポチは箱入り娘事件以来麻薬捜査は出来なくなりましたが、その代わり特定のものにだけ嗅覚
が働くようになっていました」
「その特定のものとは?」
「どういう訳か青森県人にだけ吠えるのです。だから元山育子はポチに近づかなかった」
「だから、私にもよく吠えた訳だ」
タカが笑いながら言った。
「大外は私が刑事を辞めた理由を知って、元山を送り込んできたのです。コンピューターの得意
な元山は、私とサトさんのメールの内容を全部盗み見して大外に報告していました。偶然にも彼女
が半休した日にパソコンを誤って操作してしまい、そのお陰で彼女が大外に宛てたメールが現れま
した」
「なぜ消さなかったのでしょう?」
「多分、私がパソコン音痴なのを知って油断してたのでしょう。ただ、サトさんのメールは青森
にいるときから時々暗号で送られてましたから助かりました」
「私は元山育子が大外の女だって事は知ってました」
今度はサトが話し出した。
「会議の時もコンパニオンとして来ていました。そして、食事の時に父の前にだけ青酸カリの注
射されたサンマを運んだのです。くず子、いえ小松縞夫さんが話してくれました」
「貴方はこちらへ来てからも、くず子と連絡を取っていましたね?」
腕を組んで聴いていたタカが尋ねた
−−以下続く−−

