「サンマ殺人事件」
その41.
「私は父の関係で小松さんが青年団にいるときからの知り合いでした。小松さんは父に憧れて政
治家を志すようになりました。父はどうせなら町議会ではなくもっと上を目指すようアドバイスし
ました。そして、町おこしの時に知り合った大外の秘書になったのです」
「しかし、それは政治を夢見る若者にとっては最悪の代議士だった」
山木はサトの次の言葉を促すようにポツンと言った。サトは続けた。
「大外のことで悩んでいた小松さんから相談を受けた父は、思い切って秘書を辞めるよう言いま
した」
「しかし、余りにも裏の世界を知りすぎていたために、くず子は簡単には辞められない状態にま
でなっていたんだ」
「また、正義感の強い父は大外代議士に対しても議員辞職を促していましたが逆に、、、」
そこまで話すと、サトの目からは大粒の涙があふれ出した。
「分かりました。それで貴方は大理石のことをくず子から聴き、いつか大外が動き出すだろうと
考えて徳島へ来たんですね」
タカが尋ねるとサトは大きく頷いた。それを見た海野月子は驚いたように言った。
「そんな無謀なこと、女一人で出来る訳ないじゃないの」
「いいえ、でも私には小松さんや羽ノ浦刑事、そして山木さんがいましたから」
少し落ち着いたのか、サトはまた話し始めた
「小松さんは羽ノ浦刑事が徳島へ来ていることを知らせてくれました。それに山木さんとは青森
にいるときからメールで知っていましたから何かあればきっと助けてくれると思っていました」
サトに見つめられて目をそらした山木にタカが尋ねた。
「山木さん、くず子が隠した大理石の場所を知っていると言いましたね?」
−−以下続く−−
その42.
山木は鞄の中から1枚の地図を取りだした。
「これは?」
「海図です。県の港湾関係者から入手しました。岸壁の拡張計画のため地質調査したものです。
両枠の外にAAからTTまで碁盤の目みたいに記号が振ってあります。上は鳴門海峡から下は小松
島までです。サトさんもくず子から同じものを見せて貰いましたね?」
「はい」
「このCHとANの地点、すなわち吉野川の南岸河口部分に隠されているはずです」
「どうして、それを?」
これまで、ずっと話を聴いていた稲田光浩が尋ねた。
「サトさんの暗号、歳は取っても箱入り娘ちゃんちゃんのちゃん(CHAN)で分かりました。
何年も海底で眠っていた箱入り娘つまり麻薬の詰め込まれた大理石が吉野川の南岸に移されたとい
うことです」
「私は山木さんには元山育子に分からないよう暗号で送っていました」
「元山は大外達にとって都合の悪い内容のメールを時々削除していたんです。私は自宅のノート
型パソコンでも同じアドレスで同じ内容のものが繋がるようにしていました。それを見ると事務所
で消されたものが自宅の方には残っていました。サトさんからはメールを送ったのに返事が来ない
という怒りのものもいくつかありました」
「元山育子はふざけた内容のものだけを残し、それを山木さんに伝えていたんです。暗号を使っ
たメールは消されなかったみたいで助かりました」
サトは潤んだ目で山木を見た。山木はどうも見つめられると弱い。また目をそらし、そして続け
た。
「自分の病気を知っていたくず子は、サトさんにだけ話していたんです。サトさんはそれを私に
伝えていた」
そのとき、タカの携帯電話が鳴った。
−−以下続く−−
その43.
携帯電話を切ったタカがみんなの前で言った。
「鳥吉と松鳥の2人が逮捕されました。場所は吉野川の南岸河口です」
「どうして2人に場所が分かったんですか?」
優香の疑問に山木が答えた。
「昨夜遅く私とサトさんはわざと元山育子に隠し場所が分かるようにメールをやり取りしました。
ニワトリが必ず動くと踏んでね。ずっと岸壁を探していた2人は焦っていたから」
「それで、大理石の在処さえ分かればサトさんには用がなくなる。むしろ、生きていることの方
が彼らにとっては危険だった」
シノミヤハーンが悔しそうに言った。
「それにしても、当時の警察は私が20個だと言った数を信用しなかったのでしょうか?」
「目の錯覚を利用したんですよ、自分の部下達にも怪しまれないようにね。捜査陣の配置は署長
の広田基志が指揮した」
「それは分かりますが、、、」
「木材の陰に隠れて捜査陣の場所からは積み上げてある10個しか見えなかったんです。それに
暗闇の中では黒い大理石は一列に低く並べると全く分からない。低く並べた10個はすぐ横の点検
口から海中へ沈めた。丁度その日は大潮の満潮時で海面がせり上がっていたため抵抗も少なかった。
捜査陣が来たのはそれが終わってかなりの時間が経ってからです。岸壁の周辺も一応は調べたが何
も出なかった。たった一つの誤算はシノミヤハーンさんの釣り場所からは全てが見えていたという
ことです」
−−以下続く−−

