「サンマ殺人事件」

その44.
 山木はみんなの前で続けた。
 「大外は署長の広田と組んで10個を囮(おとり)にしたんです。本庁からは密輸船が徳島に来
るとの情報が来てましたから敢えてこれを逆に利用したんです」
  「それで私の調書を何としても10個にして、事件を片づけたかったんだ」
 「そうです。そして大外から監視役として派遣されたくず子は、岸壁の拡張計画を知った大外が
事前に動き出すことを知っていたため、狭い通路を小舟を利用しながら少しずつ大理石を吉野川河
口まで移動させたんです」
 「先生はそのこと知ってたんだ、、」
 サトが言った。いつの間にか山木のことを先生と呼んでいることに誰も気づかなかった。
 「君の暗号が来た日に、くず子と吉野川の提敷ですれ違ったよ」
  山木が続けた。いつの間にかサトのことを君と呼んでいることに誰も気づかなかった。
  「サングラスを掛けていたけど、服にでも付いていたのか津田岸壁の木材の粉独特の匂いがした
のとポチが吠えたのでね。今、ポチは青森県人にしか吠えない」
 「その日の夜、殺されたんだ、、、」
 「磯料理屋で食事の後、最後の大理石を移動し終えたくず子は大外に自首と別れ話を持ち出した。自分の病気を知っていたくず子は命がけでも大外に大理石を渡してはならないと考えたんだろう。
しかし、大外から連絡を受けた鳥吉と松鳥によって殺害されてしまった。多分、別の場所で大量の
酒とともに青酸カリを飲まされたのだろう。そして吉野川に運び、事故死に見せかけた」
 「これも、署長の広田が噛んでいますね」
 全てを知ったシノミヤハーンは穏やかな口調になっている。
  「思えば元山育子も犠牲者だよな」
 それを聴いたみんなは黙って頷いた。
                          −−以下続く−−
その45.
明けて12月25日。マスコミは昨日の出来事を大々的に報じていた。予想通り大外虎之助は関与
を全面否定しているが、いずれ司直と国民の審判が下されることは間違いはないだろう。
 山木はサトにクリスマスプレゼントをしたいので会いたいと連絡を入れた。待ち合わせの場所は
徳島空港だった。夕方、サトが空港に着くと昨夜の全員が揃っていて手招きをしている。違うとい
えば元山育子の代わりにポチがいることくらいだった。不思議なことにポチはタカを見ても、サト
を見ても尻尾を振るだけで吠えないでいる。
 そこは空港ビルの屋上にある送迎用デッキだった。故郷の青森には比べようもないが、さすがに
四国も12月は夕暮れ時の風も冷たく、それを彩るかのように少し粉雪が舞い冬の風情を醸し出し
ている。デッキに立つと北の空からA−300が点滅しながらこちらへ向かってくる。やがて、そ
れは大きな姿を現し着陸態勢に入った。
 「見ててごらん、天使が空から降りてくるから」
 山木は白い恋人達を口ずさみながら言った。
 「天使?」
 言われるがままにサトは、じっと機体を追った。キッという車輪と滑走路の擦れる音がして飛行
機は着陸し、そのままゆっくりとデッキの前で停止した。ハッチが開けられ、乗客が襟を立てなが
ら次々と降りてくる。
「あっ、、、、裕之さん、、、」
 一番最後にがっちりした体格の男が現れた。その男はタラップを下りながらデッキに向かって大
きく手を振っている。それを見たサトの目からはみるみる涙があふれ、千切れんばかりに夢中で手
を振り返した。
 「あの人は?」
 稲田光浩が山木に尋ねた。
 「江藤裕之さん、彼女の婚約者だった人、、、いや今でも婚約者だよ」
             −−以下続く−−
その46.
 「江藤裕之さんはただし君探偵事務所のたった一人の依頼者でもあるんだ。その内容はサトさん
の命を守ることだった。実はサトさんが3年前徳島へ来た時から江藤さんに頼まれていたんだ。彼
は事件が解決するまでずっとサトさんを待ち続けていたんだよ」
 山木のその話はもうサトの耳には入らなかったのだろう。デッキを駆け下り、出迎え客をかき分
け、搭乗者出口に立つ男の胸の中に飛び込んでいった。江藤裕之はサトを受けとめた。しっかりと
抱き合う2人を周りの客達がじっと見ている。
 「先生が呼んだんですね」
 「いいなあ、あのカップル。お似合いだわ」
 優香と月子が口々に言った。2人は3年前酒販店でレジを打つ寂しげなサトに声を掛けて以来の
友達だった。どこか憂いのあるサトに対して同じ女性としてそれなりの心遣いもしてきた。お洒落
やコンサートのことなど話題は多かったが、サトの寂しげな想いについては聞き質そうとしなかっ
た。
 「良かったわね、サト」
 肩を寄せ合い、こちらへ向かってくるサトに2人が声を掛けた。サトは優香と月子に軽く会釈を
し、山木の前に立った。
 「先生、最高のクリスマスプレゼントをありがとう」
 「いいえ、どういたしまして」
 山木は潤んだ目で見られるとこれくらいしか適当な言葉が出なかった。そして、江藤裕之に向か
って言った。
 「江藤さん、これで私の仕事は完了しましたね。後は貴方が守ってください」
 「山木さん、ありがとう。本当にお世話になりました。一生離しませんよ」
 「サトさん、君には四国より青森の桜の里が似合ってるよ」
 「もう、じょっぱりもお仕舞いだね」
 「幸せに」
 誰からともなく湧き起こった拍手は、いつまでも館内にこだましていた。
                  −−以下続く−−