ピックアップ氷室 : EVE The Fatal Attraction


 『EVEシリーズ作品紹介』ページでは紹介できなかった氷室名シーンを各作品毎にピックアップしていく、その名も『ピックアップ氷室』。氷室バカtalkによる愛情たっぷりの解説付きで、氷室好きの人もそうでない人ももれなくうんざりすることうけあい!……な氷室バカならではのバカ企画となっております。

 シリーズ四作目、EVEエルディアシリーズ完結編たるTFAからピックアップするのはこのシーン。

・The 6th in Oct. _ あまぎ探偵事務所


■「望むところよ。私、どこまでもあなたについて行くわ」

 シーンそのものは物語後半なんですがCG自体は発売前から公開されておりまして、初見時の私は思わずガッツポーズを取ったもので御座います。発売前のTFAはPCでリリースされたADAMの焼き回し移植程度の作品だろうという予想が大半だったのですが、発売が近付くに連れて紹介されるCGも増え、その中にはADAMでは登場しなかったCGも数多く確認されて行きました。単なる焼き回し移植ではなく、ストーリーも大幅に追加される「新作」を期待させるCGの数々。そして極めつけのこの一枚。小次郎と氷室のらぶい展開も大幅に増えちゃうんじゃないの???おいおいたまんねえなああ!的な、一枚だったわけです。

 物語後半、EVEを巡る暗闘の色が濃くなるに連れ、小次郎の周囲に潜む危険の度合いも一層濃くなっていきます。そんな中で小次郎は氷室を巻き込みたくないという想いからか、幾度か氷室に「ついて来るかどうか決めるのなら今だ」という風にやんわりと翻意を促すような会話を交わしますが、最後には氷室の感情も爆発して小次郎の胸に飛び込む……という感じの一枚ですかね。この後には小次郎と氷室の熱いキスシーンなんかもあったりして、「何処までもあなたについて行くわ!」という胸熱なセリフも飛び出します。そりゃもうね、このシーンを見たときは布団の上で文字通りゴロゴロと転がりまわったものですよ。うひょー!

 ……さてこのシーン、単純に小次郎と氷室のらぶい展開ですよーという意味合い以上に、EVEとの対峙を決意する小次郎、そしてそれについて行くと決めた氷室の決意も描かれるという意味でもかなり印象的なシーンでもあります。burst事件の時にEVEやエルディアに関わる暗闘の渦中に身を置いたこともある氷室は、沈痛な表情で「あの時の再来なの……?」と呟くシーンに見られるように、小次郎に忍び寄る危険についても気付き始めます。EVEとの対峙を決意する小次郎について行くということは、自分自身にも暗闘と死の危険性が及ぶということ。「やめるなら今のうちだ」という小次郎の言葉は、自分を危険に巻き込みたくないという優しさからであることも痛いほどに理解出来る氷室でしたが、だからこそ小次郎に「ついて来て欲しい」と言って欲しかった……そんな心情を吐露する瞬間もありました。要するに氷室は氷室で、小次郎は小次郎で、何処かまだ踏み込み切れない部分があったわけです。氷室を守りきることが出来るのかどうか。小次郎の役に立てるのかどうか……そんな逡巡が互いの決断と決意を鈍らせていたのかもしれません。そんな中、暗殺者プリーチャーに殺されかけた事を意外なほどにけろりと報告する小次郎の姿を見て、氷室は緊張の糸が切れたのか、我慢していた感情が溢れ出てしまって小次郎の胸に飛び込んでしまいます。

 そう、決意なんてものは既に決まっていたのでした。安藤からのボディーガード依頼を受けた時から薄々勘付いていたものか、それとも四年前のあの事件の時から既に決められていたものか……頭とか言葉では色々と戸惑いを感じていた小次郎でしたが、身体や本能では既にそれを決めていたのでしょうか。しかしそうであるならば、氷室が決意を固めるのは簡単なことで、後はそれを互いに確認するだけでした。この四年の間で培われてきた二人の信頼はやはり揺るぎの無いものだったのです。そしておそらくは愛情も。

「EVEは記憶と記憶を結びつける」

 作中でプリーチャーは小次郎にこう語ります。暗殺者であり、死の象徴たる彼がもたらしたものは対立と衝突。そして殺意と狂気でした。しかしEVEとの記憶が小次郎にもたらしたものはまだ他にもありました。殺意や狂気と立ち向かう為に必要なもの……或いはそれは、氷室との記憶がもたらしたものなのかもしれません。

 ……と、氷室バカ的ビジョンで見るとこういう風に解釈しちゃうわけです。なんか流れ的にヨリを戻そうかな〜なんて雰囲気の漂う弥生と比べると、TFAで追加された氷室のこのシーンは何倍も劇的で、EVEストーリー的にも綺麗な意味合いを持つシーンだけに非常に印象的でした。新作の追加部分でこれをねじ込んでくる氷室の得点力も凄まじいですが、ADAMから特に変わり映えのしない弥生の得点力不足の招いた結果でもあるのがまた何とも(笑)

ピックアップ氷室 : EVE The Fatal Attraction


 TFAからもう一つピックアップ。

・ADAM特典マウスパッド用イラストより


■Wヒロインのツーショット

 EVEのWヒロインとでも呼ぶべきこの二人ですが、こんな風にツーショットでのイラストというのは実はこれ一枚だけ。しかも本編とは関係の無い販促イラストだからこそ出来たツーショットでして、EVE的にはかなり貴重なイラストと言っても良いでしょう。そのくせ氷室ってば油断しちゃったのか、白いおパンツが見えちゃってるんですけど(笑)

 さてこの二人、ドラマCD等ではサービス的に会話を交わすシーンなんかも用意されていますが、今のところ作中での面識は一切ありません。そうは言うものの、burst事件以降小次郎と弥生の行き来が全くのゼロになったという感じでもありませんから、どこかで顔を合わせた機会くらいはあったものと思われます。弥生からすれば”元”が付いているとは言え恋人であった小次郎に出来た女性の従業員が面白いはずも無いでしょうが、かと言ってそれをどうこうする権限も弥生にはありませんし、色々と思うところはあったことでしょう。一方の氷室はロストのシーンでも見られるように、かなり弥生のことを意識している節はあるようです。見方によれば弥生から男を奪った風にも取れますし、別れたとは言え小次郎の元彼女である弥生の存在はどうしても気になるんでしょうね。

 小次郎がここら辺をはっきりとしていないのも大きな原因になっていまして、そもそも小次郎と弥生は現在進行形で恋人同士の関係なのかどうかがうやむやなままになっています。burst時点では既に別れていたわけですが、その後の事件の経緯の中でヨリを戻しかけた瞬間もありました。しかし源三郎の死を弥生に打ち明けられない事情からか、その後どことなく疎遠になってしまったような記述もシリーズの中では幾つか見受けられます。かと思えばADAM・TFA作中でまたまたヨリを戻しかけるようなシーンがあったりもして、愛情的な部分よりもお互いが距離感を掴みかねているようなもどかしさを感じます。

 一方の小次郎と氷室の関係ですが、もちろんただ単に雇い主と従業員の関係で無いのは明らかなのですが、では恋人同士の関係なのかとなるとこれまたはっきりしていません。ロストでは夫婦みたいなやり取りも見られますし、ADAM作中では一度ならず肉体関係があったことを思わせる記述もありますが、「恋人同士である」とはっきりと言い切っているわけではありません。一つには、既に両者共に三十代を迎えようかという大人であることから、わざわざそれと宣言する必要性を感じていないというものもあると思いますが、はっきりとさせないことが最も居心地の良い関係で居られることに、甘えているのではないか……そういう側面もあるのかもしれません。

 恋人であるならばいずれどこかで結論を見いださなくてはなりません。そこから発展して結婚するのか、或いはいずれ別れてしまうのか。しかし恋人でないのであれば、今の日々をずっと維持することも出来るかもしれない……そんな幼稚で卑怯な見通しにこの二人は気付いた上で敢えて甘えているのではないか、と。

 TFAではこの「今のまま」についてを弥生と氷室それぞれに問われており、そこに小次郎自身がEVEとの対峙をどう決意するのかという部分と重ね合わせている意図が透けて見えてきます。

 弥生に関しては源三郎のことなども含めて「過去」との対峙を。そして氷室に関しては今とこれからも含んだ「EVE」との対峙を。過去と向き合う決意が無ければ今やこれからに立ち向かえるはずもなく、また、今とこれからに立ち向かわなければ過去を振り返ることも出来ません。その中で氷室は「どこまでもついて行く」と決意を述べ、弥生は「もう少しだけ今のままで……」と今を見つめる決意を述べます。小次郎はTFAの事件の中でそれらと向き合う決意を固めますが、実はそのもっと前からこの二人の女性は小次郎のために想いを固めており、エンディングでの弥生との会話はこういう時の女性の強さと男の情けなさも垣間見えたシーンとなりました。

 というわけで、EVEシリーズに於ける弥生と氷室二人の立ち位置というのは、作品のテイスト次第で色々と変化が見られるポイントでもあるので作品の醍醐味とも言えるわけですが、エルディア編のまとめとも言えるTFAでは他のシリーズ作品よりも少しその辺を際立たせているのかもしれませんね。