EVE ghost enemies


PS4、Nintendo Switch:2022/06/30

【小次郎編】

田舎の洋館で起きた村の有力者の不審死事件。
その死には、村の伝承になぞらえた
呪いという不穏な噂が流れていた……

【まりな編】

まりなが出くわした暴走車の爆発事件。
内調とCIAの提携を妨害するべく持ち込まれた
未知の非人道兵器""Ever3"の仕業だった……

(※公式サイト紹介文より)


【作品紹介】

 前作『EVE rebirth terror』の好評を受け、3年ぶりのEVEシリーズ完全新作として発売された作品。シナリオは前作で見事に二十数年ぶりの復活を成し遂げたさかき傘さん、そしてイラストにはシリーズの原点たる『EVE burst error』で原画を担当された田島直さんを迎え、出演声優もお馴染みのメンバーに実力派声優を加えた豪華メンツという鉄壁の布陣でリリースされました。

 今作は小次郎編・まりな編でのサイトチェンジを駆使することで主人公二人の意図せぬ共闘や不思議な交わりを楽しむといったシリーズ伝統のコンセプトから少し外れ、この二人のすれ違いがもたらす様々な不幸やアクシデントが事件のカギを握るという変化球的な展開を見せて行きます。特にサイトチェンジシステムそのものにトリックを仕込んで来た終盤の展開は、緻密に練り上げられたストーリーが収束して行く本作ならでは妙を存分に味わえる、非常にハイクオリティなシナリオでした。また『EVE burst error』、『EVE rebirth terror』で展開された内容だけでなく過去のシリーズ作品に於ける設定のオマージュやもう一つの剣乃作品『DESIRE』の設定なども組み込まれており、これまでのシリーズ経験者が思わず唸るほどのファンサービス要素も随所に練りこまれていました。これは本当に嬉しい要素で、プレイした人が「これを待ってたんだよ!」という気持ちになったことでしょう。

 本作のテーマは「親と子」。これまで生命の倫理観に直接お題を投げかけるようなクローン技術がシリーズの特徴でもありましたが、今作ではそれに加えて人類にとって普遍的な生命の代替わり、命の継承とも言える「親が子を産み、それを育む」といったシーンを随所に挟んで来ます。

 望まれぬ子として生きて来たために「母親」へのコンプレックスと憎悪を抱いた堀度、自身の任務のために堕胎を強制され、「子」への依存心でしか喪った母性を取り返せなかったイヴァンカ、「娘」の不運な死への悔恨が許されざる計画に自分を導くことになろうとも、最早引き返すことを選べなかったシェリィ。その他沢城荒原、隆二、御堂タネ、ジュリオ・フーリオにララ・フーリオ、東海林修司、山笠といったほぼ全ての登場人物にこの「親子」というテーマが見受けられます。そして小次郎とまりなに於いても疑似的ながら「親子」を感じる時間が存在し、それらを紡ぐ存在として本作のヒロイン・レイスがクローン体としての自身の生命に意義を見出します。残して行くもの、残されたもの。喪われたもの、喪われても紡がれて行くもの……クローン技術といったSF展開に頼りきることなくこれらのテーマをEVEという作品の中でとても綺麗に描き切った、なんというか「大人のEVE」といった趣の作品でした。

 反面、登場する設定や単語が非常に複雑で数も多く、シリーズ未経験者やプレイにブランクのあるユーザーが理解するにはかなりハードルが高くなっている一面もありました。特にそれらを回収して行く物語序盤〜中盤のテンポの遅さと平坦なストーリー展開は冗長に過ぎる部分も否めず、昨今のゲーム内容への規制や自制風潮からかショッキングな殺人描写やセクシャル表現はかなり抑えられており、ハラハラドキドキの展開よりは解釈違いや視点違いによる二転三転がラストに向けて収束していくストーリーをじっくり楽しむタイプの作品と言えるのかもしれません。『EVE burst error』の続編としては前作『EVE rebirth terror』で綺麗にやり切った感もあり、あの設定はもう使えないなとかコレはまだ使えるんじゃないかな的な縛りも少なくなかったはずなので、ストレートに「EVEの続編!」を押し出せた前作に比べると若干の物足りなさを感じちゃいましたね。

 その所為かこれまでヒーロー的活躍を見せていた小次郎とまりなの見せ場がやや物足りなく、前述のような「やすらぐ場所」を得て丸くなった二人が見せるちょっとしたポカや判断ミスが悪目立ちするような箇所もしばしば。弥生や氷室もサポートに徹する役割なのであまり見せ場には恵まれずにいるなど、シナリオの都合でユーザーが最も期待するものが少々後回しになっているのかなとは感じましたが、これも本作ならではの味ということなんでしょう。

 さて、EVEシリーズを語る上でどうしても切り離せない存在と言えば、皆様も御存知の通り原点ともいえる一作目の『EVE burst error』でしょう。これまでも数々のシリーズ作品がリリースされ、多くのユーザーが様々な評価と感想を抱きながら実に二十数年という長きに渡ってEVEシリーズは続いてきたわけですが、偉大過ぎる原点に対しての惜しみないリスペクトと愛があり、それに対してのアンサーも作品の中で示されて来た前作『EVE rebirth terror』に続いての今作『EVE ghost enemies』を以って、ある意味で「さかき傘EVE」の完成形が示されたのではないかと思います。

 『EVE rebirth terror』ではまさにこの『EVE burst error』が残した遺物(レガシー)を二十数年ぶりに再構築。小次郎、まりな、弥生、氷室、本部長といったEVEシリーズお馴染みの面子を復活させただけでなく、御堂真弥子のその後を美しく描くことで長きに渡って止められていたEVEの時間を再び前に進ませることに成功しました。そして本作『EVE ghost enemies』では親から子へ、子から親へといった普遍的な生命の価値観と、EVEシリーズだからこそ扱うことの出来る「クローン技術」の倫理観をテーマとすることで生命が紡がれることへの意味を問います。

 時が進み、制作側も変わり、ユーザーの目も声も二十数年前とは大きく変化して行きますが、その中で「思い出」という最も崇高にして厄介な存在と向き合いながらも、皆が望んできたEVEの姿を示してくれる……制作に携わった方々には本当に感謝の言葉しかありません。この令和の時代にこうしてまたEVEの新作が遊べるということの喜びはやはり大きいものでして、Twitter上で皆様の反響を目にしたり意見の交換を行えるのは本当に楽しいですね。今後はどのような形で小次郎とまりなの活躍に出会えるんだろうという期待に胸膨らませて、この感動をもっともっと皆様と分かち合って行きたいと思います。


【システム紹介】

 従来作品と同様のオーソドックスなサイト切り替え式の読み物系ADVゲームです。調整可能なスキップモード、読み返し機能、オートセーブ・オートロードなどストレスなく文章を読み進める基本的なシステムは前作『EVE rebirth terror』を踏襲しています。

■『DESIRE remaster ver.』収録■

 クリア後にPSvita、Switchでも販売されている『DESIRE remaster ver.』をプレイすることが出来ます。今作のカギともなる量子物理演算装置「スパイラル」は『DESIRE』に登場した「反応装置」を基に開発されたスーパーコンピューターで、ステラ基やイズミ基など同作登場人物の名を冠したキーワードが幾つか登場しています。そして物語終盤ではなんとEVE主人公の小次郎がDESIRE島へ赴くという往年ファン感動の展開も!

 その数々の元ネタとなった名作『DESIRE』を、未プレイの方も再プレイの方も是非クリア後の豪華すぎるオマケとして楽しみましょう。

■『EVE burst error』名場面集収録■

 こちらもクリア後に閲覧することが出来るオマケ要素で『EVE burst error R』の名場面シーンの幾つかを小次郎・まりな共にフルボイスで楽しむことが出来ます。『EVE burst error R』内では仕様上主人公視点の声が収録されていませんので、このために新たに収録された子安・三石ボイスを堪能できるこれまた剛かなオマケとなっております。

 それ以外の声は『EVE burst error R』に収録されているものと同じ。今は亡きプリン役の水谷優子さんや本部長役の野沢那智さんの名演を楽しめる貴重なアーカイブとしてもお楽しみいただけます。