EVE The Lost One


セガサターン版:1998/03/12発売
他機種:PS版

 追う者と追われる者。「THE LOST ONE」は、この対極にある主人公となって、ひとつの真実を暴き出して行くことになる。かたや内閣情報調査室勤務の新人捜査官、桐野杏子。そしてコンピュータ内に広がる架空世界、サイバースペース上からの監視を受け、犯行を続けるSNAKE。正義感あふれる杏子と、犯罪者SNAKE。そのうえSNAKEの正体は、杏子の身近に居る人物という可能性もあるのだ…

(※WIN版パッケージ裏より)


【作品紹介】

 名作burst errorの続編としてリリースされた作品。前作burstから三年後を舞台にしており、二作目にして主人公を二人とも変更するという大胆な変更を遂げた作品でもあります。前作が18禁作品からの移植作であったのに対し、続編のLOSTは最初から全年齢作品として作られているなどの事情もあり、様々な期待と共に「偉大な一作目に続く二作目のプレッシャー」に晒された作品という側面もありました。結果は…既に皆様御存知の通り。期待が大きかった分その出来や内容を痛烈に批判する声も大きい本作ですが、この作品を振り返るにあたり、個人的には「そのプレッシャーに遂に勝てなかった」という感想を強く抱いています。

 前作burstでは生体クローン技術を巡る国家の陰謀と暗躍を土台にし、一人の少女が抱いた記憶を紡ぎながら「生きる」ということへの想いや生命への倫理観をテーマにした作品であったのに対し、今作は逆にその生体クローン技術を巡る攻防をメインに据えての様々な事件とドラマを描いた作品だろうと解釈しておりまして、その為に前作で人気を博した主人公の小次郎とまりなを敢えて変更し、彼らを登場人物の一人とすることで、新主人公・桐野杏子の脇を固める役割を担わせたのだと思われます。この意図は成功していますし、新主人公の桐野杏子とそのパートナーである江国雄二の人気もかなりのものでした。また、もう一人の主人公を「追う者」SNAKEとして、杏子との対比を最初は敵対関係から描き、最終的には見城陽一という杏子の身近な人物による別視点からの事件への関与を描くという意図も、前作では協力・補完関係にあったマルチサイトシステムの在り方を固定させまいとする意図が感じられますので、少なくとも続編に於ける「設定」の部分ではじゅうぶんに前作のプレッシャーに応えることが出来ていたのではないでしょうか。

 しかしながらゲームが展開される中で、どうしても全体的に「粗さ」のようなものを常に感じる作品でもありました。前作burstに比べると状況や人物を描写する文章量が少なめですし、日本からエルディアへと舞台を変える展開の速さも少々拙速気味。加えてイルカの超音波をFAXで送信して映像化したり、パソコンのキー入力一つで突然全世界に殺人ウイルスが蔓延したりという細部設定の脇の甘さが随所で目立ち、最終的にはそのウイルスに対抗するワクチンが素人の手でいとも簡単にテントの中で自作出来たりというご都合主義的なストーリーの集束方法で終盤のワクワク感も損なわれてしまいました。

 当時”山田桜丸”名義でシナリオを担当していた人物は、現在桜庭一樹として活躍する女性作家。彼女は2008年『私の男』で日本文学の最高峰でもある直木賞を受賞しており、ライトノベル作家時代に執筆した『GOSICK』は2011年現在でもアニメ化されて好評を博している作品でもあります。つまりその実力は文句のないものであり、この当時でも数々のゲームのノベライズで頭角を現している新進気鋭の女流作家だったのですが、如何せん「ゲームのシナリオライター」としてはほろ苦い結果となってしまったようです。仮に、ですが、burstの後にリリースされた二作目ではなく、四作目あたりに外伝的な位置付けでリリースされていれば、ファンによる前作のプレッシャーとフィルターは幾分か和らいでおり、評価もまた違っていたのではないでしょうか。

【参考リンク:『桜庭一樹』wiki

 そんなわけでプレイ当時はユーザーから散々の扱いを受けてしまった「二作目」ですが、キャラ人気は今でも高いですし、何と言っても「直木賞作家が手掛けたゲームなんだぜ!」という味わい深い一面を持ち合わせていますので、シリーズが出揃った今、改めてEVEという作品を見つめ直す上ではなかなかに面白い作品となっております。

 桜庭一樹はわしが育てた。


【システム紹介】

 インターフェイスこそ変更されていますが、基本的に前作burstのシステムを踏襲していますのでプレイ感覚はほぼ同じになります。

■移動マップ表示■

 場所移動時は今作からマップ表示上から行き先を選択する方式に変更。前作は、例えば小次郎の事務所からエルディア大使館に移動する際は、移動コマンドでいったん事務所からエール外国人学校に移動し、そこからもう一度大使館を選ぶという二度手間な場面が幾つかありましたが、今作からはマップ上の地名を選択すれば一度で移動出来るようになりました。おそらくburstの大元であるPC98版時代は、容量の問題やインターフェイス概念では搭載出来なかったであろうシステムでしょうね。今では読み物系ADV作品ではあって当然の機能ですので、以降の続編とburstのリファイン・リメイク作品全てで採用されています。

THE LOST ONE 〜Last chapter of EVE〜


WIN版(R指定):1999/07/15発売
他機種:ダウンロード販売版(R指定)


【作品紹介】

 LOST本編に幾つかの加筆を加えた追加版で、いわゆる「完全版」的位置付けの作品としてPC版で発売されました。やはりいきなり主人公を変更しちゃったのはマズイと感じたのか、本作では補完として「まりな編」シナリオを追加。小次郎、まりな、氷室による捜査を通じてLOST主人公たちの行動と思惑を追い掛けるという展開になっています。

 本作では舞台が日本からエルディアへと移った際、説明と言及が不十分なままで放置されてしまった箇所が幾つか存在していましたので、前作主人公たちを登場させるシナリオでその部分を補足説明させるのが主な内容ですが、BGMに前作burstの曲を使用したり、二階堂を彷彿とさせるいじられキャラを登場させたりと、前作ユーザーには嬉しい要素が満載で、家庭用機種版の低評価と相まって今でも評価の高い作品となっています。特にburst事件から三年後、小次郎と氷室の関係がただのパートナーに留まらず夫婦レベルにまで発展していたというシナリオは氷室好きの私を狂喜させ…って、これは関係ないですね(笑)。ま、そういう部分も含めて、家庭用機種版で色々と不満や物足りなさを感じていた前作ユーザーに相当配慮した痕跡が見受けられるのが何よりの特徴。結局このLOST以外は小次郎とまりなのダブル主人公の構図が一切変わらずに続編がリリースされていますので、ある意味ではこの作品が出たことで「EVE」という作品の基本スタイルが再確認されたと言えるのかもしれません。

 また、家庭用機種版では容量的な問題でBGMやCGに物足りなさがありましたが、こちらのPC版はその辺もしっかり作り直されていますので、当時は「何で最初からこれを出してくれなかったの…」という意見もちらほら。以降のEVEシリーズは「家庭用機種版を先にリリース→数ヶ月後にPC版を完全版としてリリース」という方式が続きますが、諸々の事情に振り回されながら結局その両方を購入するのが当時のEVEファンにとってのあるあるネタです。


【システム変更】

 インターフェイスの向上やCG・BGMの大幅追加などはありますが、基本システムはほぼ家庭用機種版と同じです。

■「まりな編」の追加■

 というわけで大きな変更点は上で触れている通り、「まりな編」の追加になります。おまけシナリオのようなボーナス的位置付けではなく、あくまで本編内容の補完という意味合いが強いシナリオになりますので、作中の中盤〜終盤付近で本編の「杏子編」、「SNAKE編」と並行しながら読み進めていきます。