ADAM the double factor


WIN版(18禁):1999/06/18
他機種:ダウンロード販売版

【小次郎編】
 小次郎の事務所に、ある会社社長の秘書だと名乗る女が仕事を依頼に現れる。女の依頼は、命を狙われているという社長のボディーガードだった。依頼を請けた小次郎は社長である安藤と、安藤の娘の美佳と美紀に会いに行く。安藤に命を狙われている理由を問い詰めるが、頑として話そうとはせず、理由が聞けないまま事件に巻き込まれて行く…

【まりな編】
 内調に復帰したまりなは、ある連続殺人事件の調査を依頼される。事件を調べていくうちに、被害者の一人の娘が生き残っている事がわかる。娘の名前は藤井ユカ。彼女が殺人犯に襲われそうになったため、内調で保護する事になるが、ユカは犯人を見つけ出すのに協力したいと言い出す。まりなは断るが、頑なユカにまりなは折れる。そして、ユカを保護しつつ調査を進めて行くが…

(※WIN版パッケージ裏より)


【作品紹介】

 ロストワンの続編ながら、"EVE"をメインタイトルから外して"ADAM"と名付けられた新作。作品は再び18禁となり、キャラデザや衣装もほぼフルモデルチェンジされ、音楽のテイストも一新、コマンド総当たりシステムもオブジェクト選択方式に変更…と、とにかく積極的に「次のEVE」の姿を呈示した、「変えてきたぞ!」というインパクトの強かった作品です。しかし当時の評価は散々で、今になれば後述するTFAのプロトタイプ作としての評価も出来るのですが、この意欲的なモデルチェンジはユーザーになかなか受け容れて貰えませんでした。

 設定はロストワンの一年後、つまり第一作目のburstからは四年が経過しています。主要四人の言動は年相応に落ち着いており、特に小次郎、弥生、氷室の恋愛観は「結婚」を強く意識したものが描写されているという非常にアダルティな雰囲気が漂っているのがとても印象的でした。しかしこれは流石に当時のユーザーにも相当不評だったらしく、「あんなにうだうだと煮え切らない小次郎なんて小次郎じゃない!」という感想も多く見かけましたね。また、最初から続編ありきで作られたからか、この作品内で全ての謎や事件が解決するわけではなく、幾つかの気になる設定や伏線を残したまま今から盛り上がるぞ!というところで「to be continued someday...」で終わってしまうという終わり方とボリュームの少なさもかなり批判の的になりました。

 しかし個人的には、実はburst以降の続編の中では最も好きな作品でして、18禁ゲーム独特の強引さは多少あれど『EVE』から派生する続編ストーリーの一つを、短い中でとても綺麗に描いている点を高く評価しています。

 その象徴でもある本作のヒロイン・来栖野亜美は国家のエゴと愛する者との約束の狭間で揺れ動き、しかしそれらを守れないまま、手にすることが出来ないままに暗殺者の手に倒れてしまいます。ロストワンでは"EVE"を巡る攻防が描かれ、また後に出たZEROでは"EVE"のルーツたる人物を巡る事件が描かれますが、このADAMでは"EVE"を巡る国家の思惑に翻弄される人物にスポットが当てられ、その女性と小次郎との出逢いが描かれました。EVEシリーズの新作として新しい設定や世界観を描くという点ではボリューム不足でしたが、「EVEに関連する一エピソード」として考えればこのADAMくらいのボリュームが一番良い感じなんですよね。

 この"EVE"にまつわるエピソードの展開とちょっと変化球的に主要人物の四年後を描いた姿が、当時から私の中に「こういうのもアリか〜」という想いと感想を残してくれていて、個人的な二次創作活動に強い影響を与えてくれた良作として凄く好きな作品です。しかしやっぱり純粋に続編を望むユーザーからはあまり評価されておらず、そもそも家庭用への移植がされていないのと、ロストとZEROの合間にひっそりとリリースされたこともあって、とにかく知名度が低かったのが最大の弱点でした。ZEROくらいからのファンの中にはプレイされていない御方も少なくないでしょうし、売り上げの方も人気に比例してあまり芳しくはなかったようです。まさに「知る人ぞ知る」という、シリーズでも独特のポジションにある異色作です。


【システム紹介】

 前述の通り、大幅なモデルチェンジを遂げてシステムやインターフェイスなどはがらりと変わっているのが今作の特徴。細かいところまで挙げていくときりが無いくらいなのですが、ここではその中でも特に特徴的な変更点を紹介致します。

■タッチャブル・ビュー・システム■

 これまでは、例えば作品内で机を調べたい場合、あらかじめ用意されている選択肢から「見る」→「机」を選んでいましたが、今作は部屋の全景CGの中から机という対象物を選んでクリックするという方式に変更されました。対象物をマウスを操作して選択することで室内の物色や犯行現場の調査といったシーンの臨場感が増し、コマンド総当たり方式ではどうしても避けることの出来なかった「単調な作業」というマイナス面を払拭することに成功しています。一方で、ゲームを進める上で必要な行動や対象物を選ぶまでの煩雑さが増すという側面もあり、「一通り選んだはずなのになかなか進まないぞー」というイライラに関してはこっちの方が上かもしれません。結局コマンド選択でストーリーを進めるシーンが全て削除されたわけでもありませんので、特定の捜査シーンなどで臨場感を出すために取り入れられた演出というところでしょうか。他のシリーズでは一切出てこないADAM・TFAの特徴的なシステムですので印象に残っている御方も多いと思います。

EVE The Fatal Attraction


PS版:2001/09/27
他機種:WIN版(R指定)

 天城小次郎と法条まりな。そしてEVEを取り巻く、数多くの人々。

 彼らの運命を綴ったPC用ソフト「ADAM The Double Factor」が今、「EVE Tha Fatal Attraction」として帰ってきた…

 複数のキャラクターの視点で進行するストーリーを、状況に応じて切り替えながら謎を紐解いていく「マルチサイトシステム」、ふたりの主人公、小次郎とまりなを始めとする個性豊かなキャラクター。そしてリアルな世界観の元に繰り広げられる、ユーザーを魅了するシナリオ。

全てを語られなかった「ADAM」の謎が今、天城小次郎と法条まりなの最新のストーリーとして楽しめます。

(※WIN版パッケージ裏より)


【作品紹介】

 EVE ZEROの好評を受け、シーズウェアがプレイステーションで出した二作目のEVEは、なんと18禁作品だったADAMをベースにして完全版として作り上げた新作でした。当初はADAMを全年齢版に焼き直しただけのものかと思っていましたが、共通するのはキャラデザと序盤の導入部分のみであり、中盤以降からはADAMとは全く中身の異なった完全新作のEVEストーリーが展開されるという意欲作でした。このTFAという作品は販促展開やPVなどから「ハードボイルドなアクション作品」という色を全面に押し出しており、「どうせエロゲーだろ?どうせギャルゲーだろ?」という、当時どうしても無縁では居られなかったこの手の批判に真っ向勝負を挑む姿勢が印象的で、ADAMの流れを汲んだ新作と言う部分も相まって個人的にはかなり好きな作品…なのですが、残念なことにユーザーからの評価は決して高くなく、結果的にはこれがシーズウェアが手掛けた最後のシリーズ最新作になってしまいました(※後発のPLUSはリファイン作なので)。

 しかし私もただ単にあまのじゃくな姿勢でこの評価の低い作品が好きというわけではありません。TFAという作品はグラフィックやサウンドのテイストもハイクオリティで、ストーリーもやや複雑に過ぎるきらいがあるものの、重厚で奥深いテーマを描いた作品でした。仮に、TFAという作品がゲームとしてきちんと完成されており、ストーリーの全てがきちんと収録されていたならば、おそらく評価はまた違ったものになっていたはずです。

 しかしTFAという作品はそれが出来ませんでした。 

 ストーリーの後半からはピックアップされたブツ切りのシーン展開が続き、中盤までに用意された伏線や設定の幾つかは全く無視されたままで、強引にストーリーの終盤まで進めてしまうというお粗末な内容に、多くのファンは失望というより「( ゚Д゚)ポカーン」状態を余儀なくされたことでしょう。なぜ、数多く用意されていたであろうストーリーが収録されなかったのか?なぜ、こういうゲームとして不完全なままで製品をリリースすることにOKが出てしまったのか?…今となってはそれらを知る術は残されていません。PSの容量的な都合で泣く泣くカットということもあったのかもしれませんが、おそらくは納期とか経営的なその他の事情が絡んでいたものと思われます。

 ストーリー的には「ADAMの完全版がTFA」というわけではなく、プロトタイプ作品であったADAMにZEROで追加された世界観や設定を組み込んでもう一度作り直した作品、ということになるでしょうか。その結果ADAMでヒロイン役を担った亜美のポジションが大きく変更されたりと言った相違点も数多く出て来ましたし、短いながらも比較的話のまとまっていたADAMに比べるとどうしても複雑で冗長な作品になってしまったという印象は拭えません。おまけに追加されたそれら全てが語られること無くラストまで強引にストーリーを飛ばしてしまう作りになっているものですから、プレイする側が断片的な情報を拾い集めて本来語られていたであろうストーリーを補完しなければならず、不完全で未完成なこの作品をプレイし終えて後、そこまで付き合ってくれたユーザーが果たしてどれくらいいてくれただろうか…と考えると、かなり厳しいと言わざるを得ません。ま、だからこそ「他には無いEVE愛を試されているのではないか!?」という酔狂な想いがこのサイトの原動力になったわけですが(笑)

 要するに、良いものは色々と揃っていたはずなんですが、それを作りきることが出来なかった――TFAとはそういった「惜しさ」が未だに付きまとう作品でもあります。「もしそういった懸念が解消されて完成されていれば…」という同情的な評価がある一方で、「それを解消して完成させてくるのがプロってもんだろう」という、厳しいながらも至極ごもっともな評価もありまして、勿論当時から後者の意見の方が圧倒的に多かったですね。「EVEの続編、EVEの新作」というハードルとプレッシャーは相当大きいものだという分厚いカベは当時から既にあったわけですが、実はそれを一番最初に取っ払おうとしたのがADAMであり、そのカベを決定的にしてしまったのがTFAというのも、意図したものであったのかどうかはわかりませんが皮肉でもあり面白くもあるなあ…と今更ながらに感じております。


【システム変更】

 基本システムとインターフェイスはADAMと同じですが、二年後に家庭用機種でリリースされたこともあって色々と追加要素も多いです。

■ストーリーのチャプター制■

 ストーリー全体が幾つかのチャプターに区切られており、分かりづらかった設定を確認し直したり、お気に入りシーンをもう一度見たいというような既読シーンのプレイバックという点ではかなり優秀な作りになっています。基本的にこういう作りは選択肢の総当たりなどが要求されるマルチエンド方式のゲームでよく見かけるのですが、一本道ストーリーのEVEではかなり思い切った仕様変更でして、後にも先にもこのTFAのみでの仕様となっています。セーブ可能領域の問題と、飛び飛びになってしまうゲーム後半の作りを考慮しての変更といったところでしょうか。

■「暗殺者編」の追加■

 クリア後の追加要素として「暗殺者編」ストーリーを読むことが出来ます。前半は"EVE"の殺害を命じられながらも、六條夕子という"EVE"のサポートを受けることになった暗殺者・プリーチャーの心情の変遷が描かれており、後半は物語の結末に自らが暗殺者となった美村貴史視点でのエピソードが描かれています。本編以上に断片的なシーンと文章で構成されており色々と想像の幅は拡がるのですが、本編をじゅうぶんに補完できるようなボリュームあるストーリーが用意されているとは言い難く、残念ながら本編で描き切れなかった部分を隠し設定としてチラつかせるような作りになってしまいました。

■小次郎、まりなボイスの大幅追加■

 これまでの作品ではユーザーのイメージ助長ということで小次郎編で小次郎自身の声は収録されない仕様で、折角の子安ボイスもあまり堪能出来なかったのですが、TFAではファンの要望に応えたのか、子安&三石ボイスをそれぞれのサイドに特盛り収録!「独り言」という呈を取って小次郎編でも小次郎が思う存分に喋ってくれるという、子安好き・三石好きにはニヤニヤが止まらない仕様となっております。

 「イメージ助長」と言えば聞こえは良いですが、要するに主人公ボイスまで収録する余裕があまりなかったという容量的な問題をクリアするための苦肉の策だったこの仕様も、この時期の家庭用ゲーム機の性能から言えばじゅうぶんにクリア出来る段階になっていたわけです。もっとも、2012年になった今でも読み物系ゲームでは主人公ボイスを収録していない作品は多く、このスタイルに関しては未だに賛否の分かれる話題でもありますね。