(阿波のかたりべ 徳島婦人文化福祉ボランティアグループ より 抜粋)
(おかめせんげん)
太郎くんは、ある日曜日、おかあさんといっしょに、沖洲町高洲のていぼうを歩いていました。
「あっ、おかあさん、ずっとむこうに灯台が見えるね」
「ああ、あの灯台。ああそうそうあの灯台にはね、おもしろい話があるのよ」
「聞かせて、お母さん」
「よく見てごらん。そうれ、あんなに海の上を、かもめがたのしそうにとんでいるでしょう。
お魚も、たくさん泳いでいるのですよ。けれどね、むかしは、お亀島という島があって、家が千軒もあったのよ」
むかし、その島のまわりにはね、たくさん魚や員がいて、島に住む人たちは、
魚や員をとりながら、仲よくゆたかに、くらしていたのよ。
島の人たちの中に、とても仲のよいおじいさんとおばあさんがいたの。
その、おじいさんとおばあさんは、人の世詰もよくするし、もの知りなので、
島の人たちはふたりの話を何でもよく聞いていたのよ。
また、このおじいさんとおばあさんは、毎朝、毎朝、島にある小さなお宮に、おまいりしてはお祈りしていたのよ。
「どうぞ、島の人たちみんなが、なかよくくらせますように。
そして、島のしゅうみんなが、しあわせになりますように」
そんなある夜のこと、ふたりのゆめの中に神さまがあらわれてね、
「お前たちは、神さまによくつかえよい行いをしているので、
この島のひみつを教えてあげよう。
『あの小さなお宮にある青銅のしかの顔が赤くなったら、
この島は沈むからにげなさい』このことはみんなにも伝えなさい」
「おじいさん、恕そろしいことじゃ。あれは、きっと神さまのおつげにちがいない」
「そうとも、ばあさんや、これから島のしゅうみんなに、教えてあげよう」
そして、
「おーい。しかの顔が赤くなったら島が沈むぞう」
と、ふたりは島をかけまわって、伝えたのよ。けれども、このおつげを信じない男たちもいたの。
「そんなばかなことがあるものか。おれは信じないぞ。よーし、ひとついたずらをしてやろう」
「そうだ、そうだ。きっと、みんながびっくりするぞ」
ふたりは、日のくれるのを待って、小さなお宮に行ったのよ。
手にもった筆には、まっ赤なえのぐをたっぷりぬってね
「できた、できた。まるで、お酒をのんだように、まっ赤な顔だ」
「あはははは………。わっはっはっはは……」
「みんなびっくりするだろうな」
いつものように、おじいさんとおばぁさんが、小さなお宮におまいりに行
ってびっくりしたの。しかの顔がまっ赤だったのだものねえ。
おじいさんとおばあさんは、大急ぎで家へ帰り、すぐ島の人たちに、
「しかの顔が赤いぞー、島がしずむぞー」 と伝えたの。
人びとは、
「さあ、′ たいへんなことになるぞ。早く島をはなれよう」
「早く、早く、みんな急げ、急げ。浜にすぐこい。舟がでるぞう」
大急ぎで荷物をまとめ、津田や、沖の洲や小松島の和田島に向かって舟をこいで逃げだしたのよ。
「あはははは……。ばかだなあ。島のやつら、何もかもおいて、みんなにげていった」
「さあ、酒盛りだ。のみはうだい、とりはうだいだ」
ふたりは、逃げだした島の人たちを笑いながら、とくいまんめんだったのよ。
ところが、いく日かたったある日のことね。
「これは、どうしたのだ」
今まで、晴れあがっていた空が、急にまっくらになってしまってね。
「大変だあ。逃げろ、にげろ」 と、ふたりが、いうまもなく、
「ざぶん、めり、めり、めり。ずしーん。がばっ、がばっ……」
と島は、みるみるうちに海の中へしずんでいったのよ。
「わあー。たすけてくれ」
おつげを信じて、ぶじに島を、逃げだした人たちは、この神さまに感謝して、
津田町にお運びしておやしろをたてて、おまつりしたのだって。
いまの、お亀地蔵さんがそれだといわれているのよ。
また、おまいりにいっしょに行きましょうね。
「あの、灯台の近くの海にもぐってみるとね、小さなお宮の鳥居のあとや、
島の人びとが使っていたお茶わんなどが見つかるのだって」
「ふうん、そして、いたずらもののふたりはどうなったの。おかあさん」
「そうね、海に沈んでしまってわからないけど魚や員が知っているのかしら?
いたずらはいけないよっていいきかせているのかもしれないわね」
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