Together-2人なら-

「ここから城の地下に行けるんだけど…」
 そう言ったものの、やはりそこには石がそのままの姿であった。
「上手いこと塞がってるな」
「うん、でもさ、」
 そう弾んだ声で、ポコは手を離すとターンしてエルクに向き合うと。
「キミに期待してるっ」
 ぐっと親指をたてた。
「…………………あ、そう」
 ノリにまったく付いて行けなかったエルクは、それでも元来の人のよさで苦笑してみせると、ポンチョの中に折って収納していた槍を、一瞬にして組み立てながら取り出した。
 わぁ!と手を軽くたたくポコを横目に、先端に指をそえて構えると、勢いよく岩に向かって突き出す。
 弾けるように岩が飛び散って、舞った砂埃の中から地下へと続く階段が現れた。
「……予想以上かも」
 それを見て顎に手を当てると、ポコは小さく呟いた。
 シュンッと軽く振って、槍をたたんで収納し、よく聞こえなかったのか首を傾げるエルクに、首をふって微笑む。
 それに眉をよせて、しかし何も口にせず、エルクは階段を見下ろした。
「大丈夫なのか?崩れかかっているぞ」
「んー、大丈夫だって。でも、足元には気をつけてね」
 ひょこっと横から覗きこみ、エルクに言葉をかけながらタンタンとテンポ良くポコは下りていく。
 その慣れた動きに、そういえば元・城兵士だったなと納得しつつ、しかしなんだか転びそうだと思いながら、城門を一度振りかえり、誰もいないことを確認してからポコに続いた。

「ってか、やっぱお前さー」
「ポコだよ、ハンター君」
 入口から射す光でうっすらとした視界の中、予想以上に凛とした声に阻まれてエルクは目を丸くした。
 振り向かずポコは小さく笑う。
「敵いないし、そう呼んで?」
 そうして、続きを待っていたら、後ろの気配が静かに立ち止まった。
 振りかえると、5段上、困ったように視線をそらす姿が見えた。
「ハンター君?」
 呼びかければ、腕を組んでいる少年は、見間違いじゃなければ少し頬を赤くして。
「……………エルク」
「え?」
「オレの名だ。エルク。…そのハンター君っていうのやめろ」
 ぼそっと拗ねたようにそう呟くから、ポコは大きな目をパチパチと瞬かせ、そして。
「りょーかい、エルク」
 エルクが少しはやまったかもと思うほど、にっこりと笑った。
「で、なーに?」
「…や、さっきめっちゃ頭ぶつけてたけど…大丈夫なのか?」
 そうエルクが尋ねると、ポコは「え?」と小さく口を開き、きょとんとして。
 そして間をあけて、ようやくその言葉を理解したと狼狽えだした。
「え、ええええ、う、うん。うん、大丈夫。ボク、石頭が自慢なんだ」
「…大丈夫か?」
「うん、ありがと、だいじょ、わぁ!!!」
「!」
 ズデーン。
 たたみかけるように喋りながら歩くから、あっさりと足下の岩に足を掬われ、エルクの伸ばした手も間に合わず、ポコはしりもちをついた。
「いてて…っ」
「おいおい、気をつけろって言ったのはおめーだろ?」
 苦笑いをたずさえて、仕方ないなとエルクが手を改めて伸ばし、ポコはその手を見上げた。
 その時だった。
 ピクリとエルクが何かを感知したように、奥の空間に目をやる。
 一瞬遅れて、ポコが顔を険しくさせた。
 2人の進行方向、光が届かない暗闇にうっすらと光が現れる。伴って、モンスター独特の呻き声とニオイが2人に届いた。
「どうしよ、エルク」
「そりゃ、戦うしかねーだろ」
 光から目をそらさず、ポコの手をつかみ、引き上げる。
「やっぱり〜?」
 困ったように眉を寄せて、ポコは小さく感謝の言葉を述べると光にむかって身構える。
 エルクがまた槍を出したのを取り出したのを合図に、モンスターが1体飛び出してきた。
 ポコがシンバルを出す前に、エルクが槍で受け止め、そのまま勢いよく蹴り飛ばす。
「お前戦闘員だよな!?」
「え?う、うん、一応」
「なら、自分の身は自分で守れよ!」
 そう言うやいなや、立ち上がったモンスターに斬りかかる。
 後ろに控えていた2体のモンスターにも、返す手で斬りつけた。
 向かってくる1体の攻撃を小手で受けて、他のモンスターの元に吹き飛ばす。
 その無駄のない動きに、ポコは目を白黒させる。
「すっご…」
 先ほどもそうだったが、正直、甘く見ていたのだと思う。このハンターと名乗った少年に。
 指名手配をされて1年弱の間、自分たちと遭遇したハンターは、言っちゃ悪いが戦うには相手にならなかった。
 取り柄なのは、しつこさと、卑怯な手段を喜んでするわりに自尊心が高いところで。だからと言って自分たちの敵は彼らではないから、相手をしないように逃げつづけて、自分も仲間も精神的疲労を負ったから、いい印象がなくて。
 城を前に仲間が増えて嬉しかったのは事実だけど、拭い切れないものが確かにあった。くすぶっていた。
 けれど。
 岩を粉砕してみせた集中力と技量。
 今見ている、無駄を排除した戦闘の仕方と、それを可能にする身体能力、経験値の高さ。
 なによりも、会ったときから自分に見せる姿勢だとか、空気だとか、かけられる言葉だとか…それにすごく好感がもてて。

 アーク達から感じている、優しさに似たそれ。

 今この瞬間も、自分の方に攻撃の影響がこないように配慮しているのが分かる。
 攻撃を受けても、避けても、仕掛けても…全てそう遠くない位置に立つ自分に余波のないように、間合いと角度を計算して…。
 つかまれた手を見おろす。軽く握ってひらいた。
 ポコはしっかりと顔をあげ、エルクを見つめた。

 ザシュ。
 中心を射ぬかれた最後の1体が音もなく崩れ落ちた。
 傷を負うどころか血を浴びることなく汗をかくことなく戦闘を終えたエルクは、ピッと槍をふって血を飛ばした。
「おつかれさま」
 ポコの声に、すっとエルクの瞳に感情がともった。小さく苦笑をこぼす。
「ん、他にも居るっぽいけどな」
「うげっ」
 嫌そうに顔を歪めるポコに、エルクは一度瞳を閉じると、頭の後ろで腕を組んで。
「でもま、2人なら安心なんだろ?ポコ」
 悪戯っ子のようにニヤリと笑った。
 それに鈍色の瞳を瞬かせると、ポコは小さく頷き、ふわっと笑った。
「もちろん」
 キミとならきっと大丈夫。口にすることなく、ポコは答える。
 鼻の上を人差し指でこすって、エルクは視線をそらした。
「それに、もうすぐ1人…いや1体…んー、1匹でもいいか?とにかく、来るから」
「なにそれー?」
 どんどん評価の下がっている助っ人に、ポコはくすくす笑った。
「会えば分かる。ほら、行くぞ」
「うん!」

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 出会って変化する 。
その様子を書いてみたかったんだけど…書けたかなぁ?


09/04/10