Mutual recognition-相互認識-
「ポコ!」
「ラジャー!」
エルクが弾き飛ばした敵をポコがシンバルで挟み込む。
耳障りな音をたてて、最後の一体が息絶えた。
ふうと2人顔を見合わせて、どちらともなく笑いあう。
「それにしてもボク思ったんだけどさ」
スッとどうやったのか、シンバルが上着の中に消えた。
「ああ、オレも思うことがあるんだけど」
カシャンと槍と仕込みナイフをしまう。
「オレらって相性よくね?」
「ボクらって相性よくない?」
同時に言って噴き出した。
お互いにシンバルと槍という、得物のリーチが長いのにも関わらず、狭い空間での戦闘で邪魔をしないどころか、サポートあるいはコンビネーションを決めることができる。
もちろん両者とも戦闘能力は秀でている。
かたや、いやいやとはいえ軍事教育をたたきこまれ、この1年の指名手配生活で過酷な実戦を経て。
かたや、単独行動や隠密行動が基本とはいえ、炎使いの異名をもつ若きハンターである。
しかし出会って数時間。
戸惑いすら覚えてしまうほどに、相手の行動を読みあえてしまう感覚を共有している。
「この調子なら、助っ人くんが来なくても大丈夫に思えるね」
「まったくだな」
ニッと笑いあって、手の甲を素早く合わせた。
ドドドズズガラガラガラ。
ついさっき通った背後の道の、地面を震わせながら崩落する様を、2人は茫然と見守った。
「………………おい、ポコ」
「あ…はは、崩れちゃったねぇ」
若干ひきつった笑みを浮かべるポコの肩をエルクが掴んだ。
「崩れちゃったねぇ…じゃねーよ!!どうするんだよ、帰れなくなっちまったじゃねーか!!!」
おめーと心中とか嫌だからなと必死な様子に、ポコはエルクの肩を叩く。
「まあまあ、落ち着いてよエルク。とにかく先に進もう」
ね?と言って、エルクの手を肩からはずすと、くるりと背を向けて変わらない歩調で歩き出す。
呆気にとられて見送りそうになったエルクは、崩れた瓦礫を見てピンっとイヤリングを指ではじくと、茶色の帽子を追いかけた。
少しして、ポコが立ち止まり、エルクも減速してその横に立った。
「あれー?ここには確か、エレベーターがあったんだけどなぁ…」
「穴、だな」
エルクの言う通り、2人の視線の先には、たくさんの瓦礫に囲まれた、地下へ続く大穴があった。
しばし沈黙して、ポコが帽子を深くかぶりなおす。
「しょうがないね、降りようか」
その発言に、エルクは数秒固まった。一瞬何を言ったのか理解できなかった…いや、したくなかった。
「もしかしなくても、飛び降りるのか!?」
「そうだよ」
あっけらかんと言われ、エルクはもう一度穴を覗き込む。
空気の流れで手のひらの炎が揺れる。
「なあ、この下には一体何があるんだ?」
「秘密の研究所があったんだ。この前爆発しちゃったんだけどね」
ポコのさらりとした解答に、エルクは唾を飲み込む。
意を決して口を開いた。
「……それは、お前らがやったん」
「さあ、行くよ」
それ以上は許さないとエルクの発言を阻み、ポコは穴へと飛び込んだ。
「あっ、おい!」
慌ててエルクも地面を蹴った。
ズドーンと音を立てて、ポコが着地に失敗し、エルクは傍に降り立つ。
「いててて」
呻いているポコに特に怪我はないようだと確認し、エルクは先ほどの穴とは若干半径が小さいが、同じように地下に続いている穴を視界にとめる。
「見てみろよ。もっと下が、あるみたいだな」
パンパンと服についた土を払って、同じように穴を確認したポコが頷いた。
「でも、ここからは歩いていけそうだね」
「ああ、じゃあ行くか」
「うん」
「結構降りたな」
炎を灯し、上空を見上げるエルクに、ポコは頷く。
「もうちょっとで研究所だよ」
帽子を整え、ポコが歩き出そうとしたそのときだった。
周辺の崩れた瓦礫を、滑るように影が動く。
「こんなとこにもいるのかよ」
うんざりめな口調とは裏腹に、エルクの濃紫の瞳が鋭く光る。
ポコがシンバルを取り出したとほぼ同時に、モンスターが3体姿を現した。
「エルク」
「分かってる」
まずは先手必勝、1体に向かって手のひらの炎を飛ばすために振りかぶった。
そのまま投げつけ、周囲を照らしつつ攻撃していくのがこれまでの2人のパターンで、今回もそうしようとする。
が、出来なかった。
「エルク、何か落ちてくるよ!」
ポコの声に手を止めて、エルクは反射的に上空を見上げた。
新手かと、正面の3体から注意をそらさずに注目し、そしてその気配が慣れたものだと気づいた。
顔を下ろすエルクに、ポコが困惑する。そんなポコにエルクは笑いかけた。
「敵じゃない、味方だ」
エルクの発言にポコが目を輝かせた時だった。
ちょうど2人と敵3体の中間点。
ズドーンとおよそ生物が落ちてきたとは思えない重い音とともに、細かく粉砕された瓦礫の煙が舞う。
そして煙の向こう側、エルクの思っていたとおりの、茶色の三角柱がいた。
ポコはその姿を目を丸くして見つめ、そしてエルクに当惑した視線を向けた。
それにエルクが何か答える前に、
「ヂークベック様とうジョーう!」
ガチョンガチョンと音を立てて、どこかで見たことのあるヒーローの決めポーズをとりながら、三角柱が叫んだ。
非常に空気を読んでない登場シーンである。
とっさにポコは今どこかでロマリアの研究所をぶっつぶしているだろう赤髪の剣士を思い浮かべた。
「ワシ、決まったカ?」
斜め上に伸ばした右腕と、その肘を指すように折った左腕(両方の指先は見事にまっすぐだ)はそのままに、ロボットにしかできない、首を180度回すという行動をしヂークは嬉しそうにエルクに向かって尋ねる。
正直先ほどの「味方だ」発言を取り消したいエルクは、ポコとヂークの両方から視線をそらして頷いた。
それに満足げに、細い目をより細め、首を戻すと、さすがに困惑ぎみな敵3体に向き直る。
「ワシが相手ジャ!」
ポーズを解除し、犯人はお前だと言わんばかりに中央の敵をビシリと指差した。
そのことで困惑の呪縛がとけたのか、3体が同時にヂークに襲いかかる。
「あ、危ない!」
ポコの心配する声に、こいつはいいやつだとエルクが思ったのと、ヂークがサンダーストームで敵を蹴散らしたのはほぼ同時だった。
「ナント、聖母殿のお仲間であるノカ」
ポコ、ヂーク、エルクの陣形で狭い通路を歩く。
ヂークの感心した声に、ポコが首をかいた。
「なんかそう言われると照れるよー。ポコって言います、えーと、ヂークベック?」
「ヂークでいいって、こんなサラダ油で動くやつは」
エルクはそう言って、ぺしぺしぺしと、左手でヂークの頭頂部をたたく。
それにムキーっと、頭頂部から汽車よろしく煙を噴きだし、ヂークが抗議の声をあげる。
「ソンな愛称などイラン!」
「いーから、歩け、ほら」
なんだか微笑ましいやりとりをしばし見守って、ポコは首をかしげた。
「どうして2人は一緒に来なかったの?」
「ん?ああ、ダウンタウンに立ち寄ったときに、急にコイツが『充電切れジャ〜、先ニ行ってクレ』とか言ってな」
サラダ油探すのに、どんだけ時間食ってんだよとエルクがヂークの頭をぐりぐりした。
「ヌシがこんな変なトコロに居ルのが悪イ!」
こんなとは、もちろん途中崩れてしまった道を含む。
エルクとポコは顔を見合わせて苦笑した。
「御苦労さん」
「全くジャ!しかも汚イし、帰ッタラ洗ってもらうカラの」
ふんっと腕を組んでふんぞり返るヂークの背を押しつつ、エルクは笑い、ポコはあとちょっとだからと宥めた。
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ヂークベックを合流させてみた。途中テンションがおかしい;;
09/08/10