Touch of Truth-真実への証明-
先頭を歩いていたポコが何かに気付き走り出す。
慌てたヂークとエルクが追いかけると、狭い通路を抜けて、やけに広く、そして今までに比べると異質な空気の部屋に出た。
ガラスが散らばり、土に汚れた書物が散乱している。
「ここは何ジャ?」
「…研究所跡か」
書物を一枚めくると、どうもバイオ関係を研究してたようだ。エルクは顔をしかめ、手を離した。
「うーん…絶対、この辺りが怪しいんだけどなぁ…」
ガラガラと物を蹴散らしながら、先に行ったポコが奥で探してものに没頭している。
「ポコ?」
「あ、君も自分の仕事をしてていいよ。僕の用事が済んだら、手伝ってあげるからね」
ひょこりと顔をあげて笑いかけると、ポコは体をかがめまた作業に戻った。
それを見送り、エルクは頭をかく。
「自分の仕事と言われてもな…」
ヂークを見れば、興味深そうに書物をめくっている。情報を蓄積しているようだ。
仕方なく一歩奥へと足を踏み入れた。
途端だった。
周囲がゆらっと歪む。
その突然の変化に動揺し、それが炎を通して見る景色のようだと気付けば、熱を含んだ風が正面から吹いてきた。
「!?な、なんだ!?」
「エルク!?」
尋常ではないエルクの様子にポコとヂークが近づこうとした時だった。
圧倒的な熱量と存在感を共に巨大な姿が現れた。
「あ、んたは…」
銅像のように見える体に、纏わりつく赤い影。
それが自分がもつものよりもはるかに強力な炎であると分かったとき、思い出した。
言葉を続ける前に、たしかな重量の声が厳かに響く。
「よくぞ来てくれた、我が力を受け継ぎし者よ」
その言葉に確信した。
父が、一族が必死に守ろうと我が身を盾にした、存在であると。
「炎の精霊…」
口に出した言葉に込められた想いは、憧憬か、もしかしたら怒りなのか自分でも分からなかった。
ただ、エルクを見下ろす炎の精霊の優しい眼差しは、何もかも受け入れているようで。
「邪悪なる者により我は連れ去られここで力を奪われてしまった。そして、その邪悪な者の手にかかり、我が郷、ピュルカの民も殺された」
ピュルカの単語に、エルクは唇を噛んだ。瞼を伏せる。
「エルクよ……お前は、炎を受け継ぎしピュルカの最後の一人」
ピクリと、背後にやってきたポコの気配が揺れたのを感じ、エルクは拳をギュッと握る。
そして少し勢いをつけて炎の精霊を見上げた。
「…邪悪な者ってのは、一体誰の事なんだ?」
嘘偽りを言う意味も義理ももたない純粋な精霊。
何よりも一族が守り続けていた精霊だ。
その言葉、それが真実だとずっと受け継がれてきた血がそう告げている。
「この国に取り入り、今や支配せんとするロマリア国の大臣アンデルであろう。しかし、その背後には更に、この世界を魔の世界に貶めんとする力がある。エルクよ、ピュルカの最後の少年よ、今こそ勇者アークを助け、世界を守るのだ」
その返事に、ストンと肩の荷が下りた。心の隙間が埋まった。
ロマリアの大臣アンデル。
その名前を改めて心に刻みつつも、そんなことよりもずっと重要だと口を開く。
「それじゃあ…村を焼き、皆を殺した奴は……」
助けろというのだから。
エルクはポコを振り返り、その鈍色の瞳に目を合わせた。
視界が潤む。それが安堵からだと、絶対知られたくはないと思う。
「アークとは…関係ないんだな?」
ポコの瞳が一瞬ゆらいだ。それに背を向け、炎の精霊に向き合う。
「当然だ。アークは我を邪悪なる者の手から解放し、その力を示した。そして地水火風光の5大精霊より認められ勇者としての力を与えられた者だ」
そんな者を疑うなどもってのほかだと、不服さを含んだ声に、エルクは複雑に笑みを浮かべた。
その笑みに何か思うところがあったのか、炎の精霊はしばし沈黙し、そして何かに気付き口を開いた。
「エルクよ、この国、スメリアの精霊を守り続けてきたトウヴィルの民に危険が迫っている」
それに眉を上げたエルクに対して、炎の精霊の言葉を理解し、反応したのはポコだった。
「それは本当なのですか!?」
掴みかかる勢いでエルクの横に立ち、深く頷く炎の精霊にポコは顔を青ざめた。
「ポコ、どういうことだ?」
「アークとククルの生まれた村の人達が、アンデルに捕まっているのさ。奴ら、村人達をパレンシアタワーという所に連れて行ったみたいなんだ!」
初めて見せる険しい表情で、ポコは早口にまくしたてると、唇をかんだ。
「僕はタワーへの通路を探すために、ここにやって来たんだ」
「通路ならそこにある」
音を立てて壁の一部が燃え上がり、入り口が現れた。
それを確かめ、ポコは炎の精霊に礼を述べると、エルクの手首をつかんだ。
「僕は、これからパレンシアタワーに行ってみるよ。だからエルクは、村人達の事をククルに伝えて来てくれないかな」
「伝えるってどうやって?」
ククルの不思議な技で送られた自分には、ククルがどこにいるのかも分からないとエルクが告げると、ポコは上着から手のひらサイズの青く渦巻く水晶玉を取り出した。
そのまま掴んだ手に握らせる。
「これはリーフの珠っていってね、念じればいつでもトウヴィルへ戻れるんだ」
「………いいのか?」
聞いていただろうと、エルクは問う。
自分がアークを村を滅ぼした人間だと疑っていた復讐者だと、分かっているんだろうと問いかける。
それにポコはふんわり笑った。今まで見ていたそれより、ずっと柔らかく、優しく。
「じゃあ、頼んだよ」
リーフの珠を握る掌ごと、身長のわりに大きな手で包み込んで、ポコは言うと、開かれた入り口に駆け込んだ。
それを見送り、エルクはリーフの珠をキュッと握った。
そして自分の様子をじっと見守っていた炎の精霊を見上げる。
「エルクよ、過去に縛られて、その力を間違った方向に向けてはならぬぞ」
「……ああ」
そのしっかりとした声に安心したのか、精霊の姿がゆっくりと薄くなった。
「それが我の望み、死んでいったピュルカの民の願いだ」
そう言って姿が完全に見えなくなった炎の精霊から、エルクは視線をヂークに移す。
ヂークは何も言わずエルクの傍に寄ってきて、ポンチョの裾をつかむ。
細い目でエルクを見上げ、そっと離れると、ポコを追いかけ入り口へと姿を消した。
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途中からヂークが空気よみすぎた^^*
さて、正念場。
09/08/13