第2話 能力(ちから)を使った日1

「なんで!どうして!私はこれだけ愛しているのに。こんなにもあなたのことを想っているのに。どうして・・・」
 暗い部屋で1人叫んでいる少女が居る。15,6歳ぐらいだろうか。
 窓から日の光が差し込んできた。もうすぐ朝。この少女は、ずっと泣き続けていたのだろうか。
 ふと、少女が顔を上げた。
「もう朝・・・。学校いかなくちゃ・・・」


「ふぁぁ」
 オレの朝は早い、と思う。6時前にいつも起きる。しかし、昨日早々と寝てしまったため、現在時刻は5時半。
 サフはというと、オレの膝からいつのまにか下りて、身体をすり寄せるようにオレにひっついて寝ている。起こさないようにそっと身体を起こした。サフが起きなかったのを確認して、昨日できなかったことをしに部屋へと向かう。レポートして・・・。ああ、風呂も入らねーと。


「は〜あ」
 いつも思うのだが、1人暮らしとはいえ高校生男子が、毎日いそいそと弁当作るのはどうだろう。ま、だからといって学食は高いなぁ。そう考えて、最近自分がケチくさくなってきたような気がする。とにかく、出来た。
「さてと、学校いくか」
 玄関へ向かうオレに朝食を食べ終わったサフがついてくる。
「お前も出勤か?」
「にゃー」
「・・・・そっか。じゃあな」
 家を出たところで別れる。戸締まりよし。
――――オレの通っている新士高校は、オレの家から自転車で、1時間の距離にある。新士高校は市の中心に 、4,5年前に創立した。市の中心の小さな土地に強引に作ったものなので、新士高校にはグラウンドがない。近くの土手の広場まで走っていかなければならない。過酷だ。
 ま、そんな学校ではあるけど、オレは正直気に入っている。
 市といっても、オレの家からだと、車の通らない細道でらくらく行けるし、帰りにはちょっと表通りに出るだけで、何でも手に入る。便利だ。
 そうこうしているうちに、学校についた。校門をくぐって、自転車置き場へ。オレが鍵をかけていると、
「元気かぁ!!」
「ぐふっ」
 後頭部に何かが当たった。こんなことしてくるヤツは、オレは1人しか知らない。予想は的中した。振り向くと、スゴイ笑顔で通学用鞄を頭の後で持っている少年が立っていた。凶器は鞄だったようだ。
「ジン〜。お前は中学生かよ」
 痛かったから、すこしうらめしそうに言ってやる。
 目の前に立っている、オレより背が高くて、トレードマークの赤いバンダナを頭に巻いている少年の名前は木下 仁(きのした ひとし)。オレと同じ1−2組ので、中学からの仲だ。
「元気づけたろ思ったんやで?シュウ」
 初めて名前を見たとき、オレたちはお互いの名前を読み間違えた。仁をジン、宗をシュウと。そのまま使うことになったのだけど。
「・・・ありがとよ」
「どーいたしまして。シュウは今日、一限目に何受けんの?」
「う〜ん、科学Uかな」
「おっ、オレも今日受けようと思っとったねん。ほな、一緒に行こ」
「おう」


 オレが学校で話す相手は少ない。ジンくらいである。あたりさわりのない世間話をしてくるヤツは2,3人。そんなもんだ。ジンが言うには、オレはこの容姿もあって、近寄りがたいオーラを出しているらしい。まあそうだろう。オレが自分でそうなるように鍛えたのだから。この能力のせいで、人と付き合うのがイヤになる。
 話すとイイやつなのにな。ジンはこう付け足した。これには・・・ノーコメントだ。あいつは、時たま恥ずいことを言ってくる。それはそれは、すっげー笑顔で。まあ、あいつのそういうとこ嫌いなわけじゃないけどさぁ。・・・勘弁して欲しい。


「シュウ〜。どした〜」
「へっ?」
「ぼーっとしとったやろ?今、4限目終わったで。今から昼休みや!弁当、弁当♪」
「あ、ああ」
 もう、それだけ時間が経ったのか。ジンが言うとおりぼーっとしていたみたいだ。
「・・・大丈夫なん?やっぱ、今日休んどったほうがよかったんちゃう?今からでも帰るか?」
 ジンには、じいちゃんが死んだことを言ってあるので、そう声をかけてきたのだ。優しいヤツ。オレは安心させるように言った。
「大丈夫。オレは後1時間だから、さっさと受けて帰るさ」
「・・・ん、分かった。そうしーや。さ、弁当タ〜イム!今日はなぁ、オレの手作りなんやで!!」
 嬉しそうに言う。そして、蓋を取りつつ言う。
「ジャーン!名付けて『憂鬱な月曜日』や」
「いや、今日水曜だぞ。」
 一応つっこんでおく。そして、弁当の中を見てひるんでしまった。
「う・・・ホントに『憂鬱』そう」
 ジンの弁当は、ナス、ホウレンソウ、肉だんごと黒っぽいモノばかりが入っていた。すごい。ジンは、オレの弁当を見て言った。
「シュウには、まだまだかなわんなぁ」
「そりゃあ、オレは3食作ってるからな」
「そりゃそうや。んでは、いただきま〜す!!」そう言って、ガツガツ食いだした。
 オレもお箸を持って、いただきますと合掌してから食べ始めた。



「ふ〜、食った食った」
「お腹いっぱいやぁ〜。次、数Aやろ?それまで、オレは寝る」
 ジンはそうオレに告げて、グーグーといびきをかきはじめた。はやっ。
「すごいな・・・。さてと、オレは屋上にでも」
 昨日とは違い、外は暖かそうだ。バックに弁当箱をしまい、トートバックと小説を取り出して、バックを肩にかける。この小説「みちさぐり」は市立図書館から借りたモノで、なかなかおもしろい。
 最近本を読む時間なかったからなぁと、1人ぼやきながら教室をでた。
「弟切!」
 後から高らかでよくとおる声がした。弟切なんて名前、オレの他にも居るんだ〜と呑気に考えていたら、その声がまたした。
「弟切 宗!!無視すんな!!」
 本名まで、出てきたが呼ばれる用件は特にないので、無視した。
「女男の弟切 宗!」
 ピキッ。オレのどこかが音を立てた。オレのコトをこう呼ぶのはヤツしかいない。勢いよく振り返って、冷ややかにオレはヤツの名を呼んだ。
「これはこれは、男女の前田 莢(まえだ さや)さんではないですか」
 男女の部分にアクセントをつけてやった。目の前にいる、ショートカットですらりとやせた体育系の少女の名前は、前田 莢。口が悪いうえに、オレより背が高い(ここ重要)ジンの幼なじみで、オレとは中学からの仲だ。仲といっても・・・犬猿の仲って言葉はオレとこいつの関係の為にあるんじゃないかと思うくらい。ちなみに、むこうが猿だろう。なにかあるたびに、つっかかってくる。
「ダレが男女よ。・・・ところで、仁は?」
「お前以外にいねーだろ。・・・ジンなら1−2の教室に居るよ」
「そ」
 オレの答えを聞いたとたん、前田はオレが来た方へと走っていった。なんなんだ?いったい。
 オレは気をとりなおして、歩き出した。



 屋上への階段を上がっていると、背中に衝撃が走った。
「きゃっ」
「お、おい」
 振り向くと、小柄な少女が今まさに階段から落ちそうだった。どうやら、前を見ずに急ぎ足で上がってきていたらしい。反射的に、身体を支えてやろうと手を伸ばす。あ、やべっとも思いながら、少女の手をつかんだ。
“これで死ぬのはさすがにイヤ!”
 あーあ、“コエ”をきいちまった。後の祭り。それはともかく、少女はなんとか階段から無様に落ちることはなかった。前見ろよなぁ。・・・迷惑なヤツ。
「あ、ありがとう」
「どーいたしまして。気をつけて下さいね」
「はい・・・」
 そういうと、少女は下を向いた。肩にかけたバックに手を突っ込んで、何かを探しているようだ。・・・なんなんだ。
「・・・えっと。あの、では」
 オレはそう声をかけると、階段を上がりだした。
 すると、背中を叩かれた。一発。
“待ってよ。あなたには悪いけど、遺書渡してもらわなくちゃ”
「はぁ!?」
 まぬけなオレの声が廊下に響いた。

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 新キャラ2人でてきました。仁と莢です。2人は幼なじみ。
 いいですねぇ、幼なじみ。
 私も居ますけどね。やっぱいいものです。
 莢が動かしやすいな。

 04-08-07
 修正 04-01-10