第10話 能力を使った日9
祖父をはさんで会ったことしかなかった。
そんなある日、いつものように病室でなんとはなしに話をしていると、祖父が飲み物を買ってくるからというを理由に席をたつことがあった。
残されたオレと彼女は…今となっては笑えるのだが…まるで恋人同士のように、照れ合って顔をそらした。
オレ自身、祖父と医者以外で2人きりになることがなくて。
気の利いた言葉なんてでてこないし。
その時点で、まあ彼女に嫌われてはいないのだと自信はあったのだけど。
それに、居心地が結構よかったから。
2人して黙ってた。
「ゆーぅちゃーん!」
仁の声が、住宅街に響く。
はっきりいって近所迷惑も良いところの時間帯である。ご近所の皆さん、すみませんと宗は謝りたくなってきた。
まあ、優を捜すには、やっぱり呼びかけるのが一番。
絶対このあたりに来ているはずだと、妙な確信を宗は秘めていたから、自転車におとなしく座って、前方を見据えていた。
冷静な自分に宗自身正直驚いている。
それはやっぱり1人じゃないのもあるんだろうなあと思う。
待っているのは、風斗かサフ、もしくは近くの動物たちからの報告。
動物というのは縄張りを持っていて、自分の縄張り内については熟知しているから、きっと見つけてくれる。
勿論、報告してくれるかは別として。
「シュウ?大丈夫か?」
仁は、あまりにも宗が黙っているから心配して軽く振り向いた。
運転しながらなので、すぐに前をむきなおしたけれど。
「え?」
「え?ってお前、ほんま大丈夫か。ボーっとしよってからに」
「え…あ、ああ。大丈夫」
「ほんまか?」
「うん、マジ」
「そうか、なら良かったんやけど…ん?何や?」
ふと仁が何かに気付いて自転車を止めると夜空を見上げた。
宗もつられて見てみると、そこには微かに何かが飛んでいる。円をえがいて。
「あ…風斗!」
飛んでいた何かに宗は呼びかけると、ぶんぶん手を振る。
それに答えるように、何かはコチラへ向かって飛んでくる。
「風斗って、あのカラス?」
「そ。オレの親友」
え、カラスが?とでもいうように、仁は一瞬目を見開いたが、すぐにその瞳を細めて笑った。
「頼りになるダチやなぁ」
「お前もな」
宗がさらりと言うと、仁はまた同じように目を見開いて細めた。
「お前言うようになったなあ…」
「まあな。それで、風斗。どうだったんだ?」
ぱさぱさ羽音と共に舞い降りた風斗は、宗の腕に止まった。
”どうやら近所の猫がそれらしい子どもをこの近くの公園で見かけたらしい。分かるか?”
「公園…あ、あそこか!」
「公園?」
「ああ、お前も行ったことあるだろ?この近くのでっけぇ土管となんか無駄にでかい象の銅像が建ってるとこだ!そこに優がいる!」
「あそこに優ちゃんが!?それ、ほんまか!」
「ああ、間違いない。そうだろ、風斗」
すると風斗はかぁと一声鳴いて、羽をばたばたさせた。
「よし、そんじゃ行くか!」
「ああ!ありがと、風斗」
くちばしを宗がなでると風斗は闇夜の瞳を細めた。どうやら気持ちがいいらしい。
「しっかり捕まってろや!」
「うわっ」
自転車は走り出した。
団地内の一角、小さな公園内に、白いヒラヒラとした幼稚園服を身につけ、黄色いバックを下げた女の子が1人ブランコにのって揺れていた。
俯いたその姿からは表情は窺えないが、まっとっている雰囲気からは泣いているように見える。
事実時々聞こえるのは嗚咽のようだ。
「…ひぐっ…おにーちゃん…っ…」
痛々しいその姿を照らすのは公園にあるひとつの街灯と月光だけで。
そんな女の子に近づいてくるのはひとつの影。
それは女の子の前に来て、立ち止まる。
薄明かりに照らされて影の姿が少し見えるようになった。どうやら15、6の少女のようだ。
「どうしたの?」
「!」
全く気付いていなかった女の子は身をすくめて、おそるおそる少女を見上げた。
その少女はにこっと笑って女の子に視線の高さを合わせるためにかがむと、優しく言った。
「大丈夫?」
優しい囁きに、女の子は促されるように首を縦に振る。
「そっかぁ。ね、名前なんて言うのか教えてくれないかなあ?あ、お姉ちゃんは結宇っていうんだけど」
「ゆう!?」
女の子は驚き飛び上がると、まじまじと少女―結宇を見る。
「優と同じ名前…」
「?誰と?」
「優と」
はてな、である。
結宇は困惑して女の子に確かめる。
「うん、優っていうのはあなたのことなのかな?」
「うんっ」
こくりと頷かれ、やっと結宇は理解することが出来た。
「じゃあ”ゆう”仲間だね」
「ええ、そうね」
そう言ってお互いにこっと笑い合った。
そして笑みを浮かべたまま、優は隣のブランコを指さした。
「結宇ねぇちゃん、おとなりどうぞ」
「はい。失礼します」
かしこまって結宇はブランコに腰掛けると、見守っていた優に尋ねる。
「それで優ちゃんはどうしてこんなところにいるの?」
今まで笑っていた優はその言葉にびくっと体を震わせると、顔を俯かせてぽつりと答えた。
「おにーちゃんを…捜しているの。おうちがどこか分からなくて」
「おにーちゃん?」
「うん、優ね大好きなの。それで会いに来たんだけど…」
「分からなくなっちゃったの」
「…うん」
しょんぼりと優はうなだれた。結宇は元気づけるように努めて明るく提案した。
「そうなの…。ねぇ、お姉ちゃんも一緒に捜してあげるわ」
「ほんと!?」
「うん、だからお兄ちゃんの名前、教えてくれる?もしかすると分かるかもしれないわ」
「うんっ!お兄ちゃんは―」
優が答えようとした瞬間、公園の入り口から声が届いた。
「ゆう!」
「!」
2人が声のしたほうを向くと、こちらに1人誰かが走ってくる。どうやら声の持ち主らしい。
その後ろから、ちょいまてやという声と共に1人追ってくる。
前を走る人物は公園に点々と設置された街灯に照らされて、優は走ってくる人物が誰だか理解した。
それは優が待ち望んだ人物。つまり、
「おにーちゃんっ!!」
である。優もまた駆け出し、兄に飛びついた。
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またしても中途半端。というのも視点を変えようと思いまして…。
このままいくと、誰視点でパニックに陥るんです、私が。
文章能力ないのが辛い。
個人的に優と結宇のやりとりが好きですw
子ども大好きw
当分こんな笑いナシの方向でゴーです。うぅ、早くギャグ書きたい。
も、勿論こんな雰囲気も好きなんですけどね!
05-05-08