蒼い薔薇
arc3後|2006.10.01
「そうそう。そして愛しの恋人に渡すのが紳士のたしなみよ?」
(……嘘くせぇ…)
「あらあら、なにその顔は?この薔薇はあげると絶対喜ばれるわよー。なんて言ったって、世界中どこへ行っても咲いてない花ですもの」
「え?」
どういうことかとエルクが瞳を瞬かせると、花売り2人はにやりと笑った。その笑みは、かかったなと言わんばかりで、エルクは失態に気付く。が、あまりにも遅すぎた。
目をキラキラさせて花売りは、止める間もなく嬉しそうに説明しだす。
「この薔薇はね、3日前に品種改良に成功した新種なのよ」
「ここまで綺麗な蒼をだすのは、とーーっても苦労したのだから」
「その苦労を讃えて、世界花言葉協会から『不可能の象徴』って名前を付けられたのよ」
にこにこしながら花売りはそう言って、再度エルクに差し出した。促すようにそっと振るう。
小さく息をこぼし、観念したように笑ってエルクはようやく受け取った。
「…サンキュ」
「どういたしまして〜」
「ふふふ。ちなみにこっちの白い花は『また会える日まで』っていう花言葉がついてるの」
「また会える…」
「そ、なかなかロマンチックでしょ?」
そう首を傾げる花売りに、返ってきたのは小さな頷きと、目を伏せた寂しそうな笑顔で。
年齢にそわないその笑みに、2人組は顔を見合わせた。そうして思い至る。
(そうか、今日は大災害の日だものね…)
ダイヤモンドリリーの花言葉に反応したことから、会いたい人に理由はともあれ会えないということを示しているのは確実だ。
だから。
「ねえ、きみ」
「…ん?」
オレか?と顔をあげたエルクの表情は、先程と打って変わって幼いもの。それにツキリと胸が痛みつつも、花売りは笑顔でこう言った。
「私たちはね、笑顔がだ〜いこうぶつの悪魔なのよ」
その茶目っけたっぷりさに、エルクは出方をうかがうように眉を八の字にした。
が、それを見ずに花売りは右手人差し指を顎に当てて話を続ける。
「例えば、花を見ることで涙を流す人もいるし、笑う人もいる。呆れたようになる人もいるわね。それが大袈裟だろうとひっそりだろうと、花は人の感情を波立たせることが出来るの。そして」
「最後には吹っ切れたような笑顔を生み出すわ。私たちはね、何よりも大切に思うと同時に、嬉しくて嬉しくてたまらないのよ。だから」
「私たちは躊躇うことなく、花の寿命を奪い、人々に分け与えるの」
だから、悪魔。
にっこりと、それはもう妖艶な笑顔で言う。
「ねえ、その花をどう使ってもかまわないわ」
「正しい使い方なんてないのよ。例えば川に投げ捨てたっていいわ、土に還らさせてあげて」
「そう、あなたの望むままに」
ウインクひとつ。茶目っ気とほんの少しの本音を入れ混ぜたそれに。
エルクは小さく笑って首を振った。
「捨てるなんて、んなことしねーよ」
「?なんで?」
「花のため、っていうか、あんたたちのために。だって、あんたたちは花も好きなんだろう?悪魔とか自称してっけど、自分たちで作って、その研究を嬉しそうに語れるくらいにはさ」
そう言って、屈託なく笑ったエルクに、今度ばかりは花売りも何も返せず。
変わりに。
吹き出した。
それにもう、明らかに自分の台詞に笑われているのが、妙に鈍いエルクにすら分かってしまって。
顔を一気に朱へと染め上げて、隣で黙ってプルプル飛んでるままのヂークを睨んだ。八つ当たりである。
ようやく笑いが収まってきた花売りは、目頭に浮かんだ涙を指で拭った。
「あはは、ごめんね」
「…オレ何か変なこと言ったか?」
「ううん!!ちょっと、ね」
「ええ、キミがあまりにも、ね」
「んだよ…やっぱ、変なこと言ったんじゃねーの?」
どうやら拗ねてしまったらしく、ジト目で見てくるエルクに、今笑ったら口をきいてくれなくなるだろうと必死に笑いをかみ殺した2人組は、そっと互いの目を見合わせた。
「ねぇ、キミ。いいこと教えてあげるわ」
「ふふふ、私たち花売りに伝わるコトノハなんだけどね。
『失わされし者、末路の処にて冥加を捧げよ。さすれば希は紡がれぬ』
って言うのがあるのよ」
(……嘘くせぇ…)
「あらあら、なにその顔は?この薔薇はあげると絶対喜ばれるわよー。なんて言ったって、世界中どこへ行っても咲いてない花ですもの」
「え?」
どういうことかとエルクが瞳を瞬かせると、花売り2人はにやりと笑った。その笑みは、かかったなと言わんばかりで、エルクは失態に気付く。が、あまりにも遅すぎた。
目をキラキラさせて花売りは、止める間もなく嬉しそうに説明しだす。
「この薔薇はね、3日前に品種改良に成功した新種なのよ」
「ここまで綺麗な蒼をだすのは、とーーっても苦労したのだから」
「その苦労を讃えて、世界花言葉協会から『不可能の象徴』って名前を付けられたのよ」
にこにこしながら花売りはそう言って、再度エルクに差し出した。促すようにそっと振るう。
小さく息をこぼし、観念したように笑ってエルクはようやく受け取った。
「…サンキュ」
「どういたしまして〜」
「ふふふ。ちなみにこっちの白い花は『また会える日まで』っていう花言葉がついてるの」
「また会える…」
「そ、なかなかロマンチックでしょ?」
そう首を傾げる花売りに、返ってきたのは小さな頷きと、目を伏せた寂しそうな笑顔で。
年齢にそわないその笑みに、2人組は顔を見合わせた。そうして思い至る。
(そうか、今日は大災害の日だものね…)
ダイヤモンドリリーの花言葉に反応したことから、会いたい人に理由はともあれ会えないということを示しているのは確実だ。
だから。
「ねえ、きみ」
「…ん?」
オレか?と顔をあげたエルクの表情は、先程と打って変わって幼いもの。それにツキリと胸が痛みつつも、花売りは笑顔でこう言った。
「私たちはね、笑顔がだ〜いこうぶつの悪魔なのよ」
その茶目っけたっぷりさに、エルクは出方をうかがうように眉を八の字にした。
が、それを見ずに花売りは右手人差し指を顎に当てて話を続ける。
「例えば、花を見ることで涙を流す人もいるし、笑う人もいる。呆れたようになる人もいるわね。それが大袈裟だろうとひっそりだろうと、花は人の感情を波立たせることが出来るの。そして」
「最後には吹っ切れたような笑顔を生み出すわ。私たちはね、何よりも大切に思うと同時に、嬉しくて嬉しくてたまらないのよ。だから」
「私たちは躊躇うことなく、花の寿命を奪い、人々に分け与えるの」
だから、悪魔。
にっこりと、それはもう妖艶な笑顔で言う。
「ねえ、その花をどう使ってもかまわないわ」
「正しい使い方なんてないのよ。例えば川に投げ捨てたっていいわ、土に還らさせてあげて」
「そう、あなたの望むままに」
ウインクひとつ。茶目っ気とほんの少しの本音を入れ混ぜたそれに。
エルクは小さく笑って首を振った。
「捨てるなんて、んなことしねーよ」
「?なんで?」
「花のため、っていうか、あんたたちのために。だって、あんたたちは花も好きなんだろう?悪魔とか自称してっけど、自分たちで作って、その研究を嬉しそうに語れるくらいにはさ」
そう言って、屈託なく笑ったエルクに、今度ばかりは花売りも何も返せず。
変わりに。
吹き出した。
それにもう、明らかに自分の台詞に笑われているのが、妙に鈍いエルクにすら分かってしまって。
顔を一気に朱へと染め上げて、隣で黙ってプルプル飛んでるままのヂークを睨んだ。八つ当たりである。
ようやく笑いが収まってきた花売りは、目頭に浮かんだ涙を指で拭った。
「あはは、ごめんね」
「…オレ何か変なこと言ったか?」
「ううん!!ちょっと、ね」
「ええ、キミがあまりにも、ね」
「んだよ…やっぱ、変なこと言ったんじゃねーの?」
どうやら拗ねてしまったらしく、ジト目で見てくるエルクに、今笑ったら口をきいてくれなくなるだろうと必死に笑いをかみ殺した2人組は、そっと互いの目を見合わせた。
「ねぇ、キミ。いいこと教えてあげるわ」
「ふふふ、私たち花売りに伝わるコトノハなんだけどね。
『失わされし者、末路の処にて冥加を捧げよ。さすれば希は紡がれぬ』
って言うのがあるのよ」