蒼い薔薇
arc3後|2006.10.01
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 ジハータ宿屋。一階レストラン。
「よし、ラグナーク行くぞ」
 音をたてずにコップを置いて、エルクは、正面でストローを使いオリーブオイルを吸い込んでいるヂークに今日の予定を告げた。
「何故……アア、モウそんな時期カ」
「ああ、早いもんだよな…」
 一瞬だけ、瞳に陰をエルクはおとして、チップも含めて代金を多めに机の上に置き、トレードマークとなりつつある山吹色のマントを羽織る。
 基本的にエルクは私服を着ない。というのにも理由がちゃんとある。あるのだ。
 ひとつは、自分だという主張。
 もし何かあった時に自分を捜す人に特徴を与え、恨みをもつ人間の的になることで周りへの危害を減らす。オレはここだ、よーく狙ってこい、と言うことである。
 また、目立つ色合いは、逆にエルク自身の容姿を印象に残しにくくなり、服装と髪型を変えるだけで他人が気付く確率を一気に下げることができる。
 もうひとつは、清潔面と健康面への配慮。
 あるときは下水道に潜り、海に飛び込み、鉱山を駆け抜け、砂漠を歩く。血と汗で汚れることが多すぎるため、その汚れへの対策をうってある服が好まれる。
 また、エルクのマントは通気性・遮光性・保温性・吸水性に優れており、手触りバッチリの素敵なもの。どこでもかかってこい、である。さっきからなんて好戦的なんだ。
 そんなわけで今日は仕事ではないのだが、レジェンドハンターエルクであったほうが融通がきいたりするので、マントを翻してペイサスの町を歩く。
 ギルドマスターから借りた船が港で待ってる。
 自分のが欲しいなと思いつつも、ヒエンの便利さを知っているだけになかなか手を出せなくて。
 だから、いつかまとまった時間を手に入れて、ビビガのような…ビビガだったら最高なんだけど…優秀なエンジニアに出逢えたら、いちから作ろうか。そう思って、部品を少しずつ集めていたのだけれど。
 なかなか難しいと、そうエルクが我知らず苦笑を浮かべると。
「ちょっと、赤のターバン巻いた男の子!」
「…?」
 男の子。この単語に、自分はもう入らないだろうと思いつつも、一応振り向いてみる。
 と、華やかな服装のお姉さん2人組と目があった。後ろの屋台には花、花、花。
 ああ花屋かと思ったところで再度声がかけられた。
「蒼い薔薇いらない?」
「…悪い、いらねー」
 ひらひら手を振って断ると、2人は向かってきた。
 あれだ、ナチュラルに無視しやがった。
「わ〜、キミ可愛いね。…ん?あれ?」
 男にむかって可愛い言うなと身構えたら、急に怪訝そうな顔つきのお姉さん。
 さすがに不思議に思ってエルクは花売りをまじまじと見つめて。
 妙な感覚にとらわれた。
(ん〜?なんか見たことあるぞ…なんか、さっきからの会話も、既視感があるような…なんだ、この思い出せそうで思い出せない感覚。気持ち悪い)
 そう思っていると、花売りがポンッといい音を立てて手を叩いた。目をやけにパチパチさせてる。
「もしかして、コスモスの子!?」
「あら本当!大きくなったわねー」
 そう言って微笑む2人に、エルクはコスモスと言うキーワードを脳内検索にかけて。
 ヒット件数1。
「あー!!あの花売りさんか!!」
 思わず失礼ながら指さし、エルクは叫んだ。
 ヂークはひたすら黙って展開を見守っている。
「あらあら、こんな美女花売り2人組を思い出すのに時間がかかりすぎよ〜?」
「本当本当」
 や、7年前のことだし、話をしたのは5分ちょっとだから!思い出せただけ褒めてくれよ!
 そう言いたいのを、ぐっとこらえた。アーク一味で、女性陣に文句を言えば最後、ありとあらゆる知識と偏見と言いがかりと陰謀で凄まじい反撃をくらうというのを本能的に叩き込まれた悲しいエルクである。
 せめてもと恨めしそうに軽く睨んだ。
 が、残念ながらそれは拗ねているようにしかうつらず。某音楽家がここに居合わせていれば「きたよ、無自覚」と溜め息をつきながら呟きそうなもので。
 とにかく、全く効果のない睨みに花屋2人組はそれはもうにっこり笑って、7年前と同じようにどこからともなく花束を取り出した。
 青い蒼いバラと、それを引き立てる純白のダイヤモンドリリー。
 綺麗だったので、エルクとヂークが思わずまじまじと見つめてしまうと、クスッと満足気な笑みと共に差し出された。
「はい、プレゼントしちゃう」
「え…?や、いい」
「あら、またそんなこと言って。花束のひとつやふたつ素直に受け取りなさい。