蒼い薔薇
arc3後|2006.10.01
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「スメリア古語でね。簡単に訳すと『最後に別れた場所で知らないうちに受ける神様の恵み…つまり私たちで言う花を捧げなさい。そうすれば心は届くでしょう』よ。私たちの最大の宝にして秘密の言い伝え」
「え?ちょ、いいのかよ」
 思わず身を乗り出すエルクの頬に、花売りは手を当てて宥めるように目を細めた。
「ふふふ、選別」
「せん、べつ?」
「そう、選別」
 その笑顔があまりにも綺麗で、エルクはぐっと押し黙って頷いた。すると、花売りはその笑顔をより深め、エルクは慌てて目をそらす。
「あらら〜?そんなに私って、直視に耐えられない顔なのかしら?」
「え、あ、う、ちが違うぞ!」
 慌てて否定し、顔を合わせると、コンマ一秒でまた目をそらす。速い、速すぎるぞ。
 それをもう全く一ミクロンも気にせずに、花売りは満足げだ。
「そう、ならよかったわ」
「…あ、そう」
「ええ」
 ほのぼのとしてきたところで、愛おしそうに見守っていたもう一人の花売りが、ふと、顎に人差し指をあてた。
「ところで、呼び止めておいてなんだけど、キミどこかに行くのじゃなかったの?」
 ポツリと呟かれた、その言葉に。
 エルクは、我にかえったように、猫よろしく俊敏な動きで花売りから一人分間合いをとって、ヂークを掴む。
「今、今何時だ!!?」
「7時11分27秒ジャ」
「やべぇ!!急がねぇとっ!あ、花サンキュな」
 慌てながらも、右手にもつ花束を少し振ってエルクが礼を述べる。
 それは8年前から変わらない、礼と謝罪はしっかり出来るというエルクの利点のひとつだ。
 それに、花が綻ぶとはよく言ったもので、そう表現するのが一番近い笑顔が返ってきた。いってらっしゃいと手を振るオプション付きで。
「どういたしまして〜」
 既視感ではなく、実際に行われたそれと全く同じ音調音程音量に、エルクは知らず知らず同じような顔を返して、手を振った。
 時間をくってしまったけれど、おつりが返ってくるほどの価値がある。
 それが、今自身の右手にあるもの。
 そっと肩に担いで、その匂いを堪能しつつ、エルクは足を速めた。

 エルクが立ち去った後。
「ねえ…」
 花売りが呟くと、もう一人が口に出さなくても分かるわと激しく同意する。
「「あの、プロペラの機械も無茶苦茶可愛かったわねっ」」
「初めから気になってたのよね!プルプルプルプル、あの子の目の高さで浮かんでるし」
「そうそう、主人を見守ってる犬っぽくて!」
「途中から、時間を気にしてたのか、なんか焦ってるみたいだったし」
「それであの」
「超無機物な声!」
 可愛い〜〜〜!!
 手を取り合って、ヂークにメロメロになっていたとかいなかったとか。
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1000文字ずつ、携帯で打ち込んで、なんとか終了したもの。
「封印の場所にて」の番外編にして花束ゲットまでの経緯でした〜。
ながいこと時間かかってたんだね…ははは。