花に添えた想い
arc3後|2006.07.29
色々邪魔は入ったけど、クレスさんの望むものも無事に手に入ったし、この仕事は成功だな――と。
ぱしっ、と片方の掌に拳を打ち付けるいつもの癖をしてから、
「それじゃ花も手に入った事だし、そろそろ帰りましょう、クレスさん」
「そうだね。ありがとう、アレク」
用心に持って来た器に土ごと花を入れて持ち帰るクレスを促して、アレクも元来た道を引き返す。
意外な事に、帰り道は一度もモンスターと遭遇しなかった。
無事に森の入口まで戻って来ると、クレスの顔が自然とほっとした明るいものへと変わる。
「ありがとう。アレク。ここまで来れば、もう大丈夫だから」
「それじゃ、僕はこれで」
「うん……あ、アレク」
「え?」
礼儀正しく頭を下げて立ち去りかけた所を不意に呼び止められて、アレクが怪訝気にクレスを見遣る。
「あの…さ、これ…君にもあげるよ」
そう言って、器用に取り分けて差し出された花。
「え……でも、良いんですか?」
「うん。君の協力あって採れた花だから」
持って来たは良いが、使われる事の無かった保護用の紙を取り出して花を包むと、照れたようにクレスが言葉を続けた。
「この花はね、大好きな人に自分の気持ちを伝える願いの花なんだ」
「えっ…」
「この花は想いの証。だから願いと想いの証でもあるこの花は、言葉と同じくらいの意味が込められているんだよ」
「それじゃあ、その花は…」
「うん。大好きな人に、願いを込めたこの花を渡して告白するのが、僕の村の昔からの風習。そして、相手がその花を受け取った時点で、両想いとして村の人に正式に認められるんだ」
「そんな特別な花を……。あ…ありがとうございます、クレスさん」
半ば茫然としながら、クレスが差し出した花を受け取るアレク。
「気にしないでよ。それじゃ、僕はもう行くから」
そう言って、次第に小さくなるクレスの背中を見送って、アレクはお裾分けで貰った花を眺めた。
恐らくクレスは、これから好きな人に自分の想いを告げに行くのだろう。
村の風習に則り、ノアリスの森の奥にしか咲かない珍しい花――想いの証の花を片手に。
「それにしても…花を渡すだけで特別な意味になるなんて…」
プロポーズの方法も色々あるんだな。
と、しみじみと妙に関心してしまったアレクである。
「さてと…仕事も成功したし、僕もギルドに報告しに戻ろう」
ぽつり、と漏らした彼の声が何となく晴れ晴れとしていたのは、思いがけずに貰った特別の花を意味を知ったからだ。
村の風習云々はこの際関係なく、好きな人に渡す花、の部分だけを都合良く取り入れて。
取り敢えず、ギルドであの人の居場所を聞いてみようと心に決めて、アレクはその場を後にした。
「ああ、お疲れさん、ハンター・アレク」
リノの街のハンターズギルドで仕事の報告を済ませて報酬を受け取った後、アレクは単刀直入にエルクの居場所をギルド職員に尋ねてみた。
一見、ハンターには縁の無いような花を手にしているアレクを不思議そうに見たハンターもいたが、別に花を持って入ったらいけないと言う理由も無いので、すぐにその視線は元々見ていたものへと向けられる。
「ハンター・エルクかい? ああ…彼なら今、リノ周辺の仕事を請けてるよ」
「本当ですか?」
「ああ。と言っても、その内容までは教えられないがね」
それは尤もな言い分である。余程の事がない限り、ハンターが請け負った仕事の内容は、他のハンターには決して明かされる事はないのだから。
エルクの居場所、その情報が手に入っただけでもまだ良いと、アレクはそう思ってある事を決意して一旦ギルドを出た。
そうして、再び彼がギルドに戻って来た時、その彼の手には先程の花と共に、簡素ながらも可愛らしい包みが握られていた。
「すみません。依頼…をお願いしたいんですが」
「あんたがかい?」
アレクと言う名は、ハンター仲間の間では伝説のハンターとして憧れの象徴である。
どうやギルド職員以外は、アレクがそのレジェンドハンターだとは気付いてないらしい。
アレク程のハンターが何を依頼するのかと、どことなく好奇な眼が向けられたのは無理もなく。
ぱしっ、と片方の掌に拳を打ち付けるいつもの癖をしてから、
「それじゃ花も手に入った事だし、そろそろ帰りましょう、クレスさん」
「そうだね。ありがとう、アレク」
用心に持って来た器に土ごと花を入れて持ち帰るクレスを促して、アレクも元来た道を引き返す。
意外な事に、帰り道は一度もモンスターと遭遇しなかった。
無事に森の入口まで戻って来ると、クレスの顔が自然とほっとした明るいものへと変わる。
「ありがとう。アレク。ここまで来れば、もう大丈夫だから」
「それじゃ、僕はこれで」
「うん……あ、アレク」
「え?」
礼儀正しく頭を下げて立ち去りかけた所を不意に呼び止められて、アレクが怪訝気にクレスを見遣る。
「あの…さ、これ…君にもあげるよ」
そう言って、器用に取り分けて差し出された花。
「え……でも、良いんですか?」
「うん。君の協力あって採れた花だから」
持って来たは良いが、使われる事の無かった保護用の紙を取り出して花を包むと、照れたようにクレスが言葉を続けた。
「この花はね、大好きな人に自分の気持ちを伝える願いの花なんだ」
「えっ…」
「この花は想いの証。だから願いと想いの証でもあるこの花は、言葉と同じくらいの意味が込められているんだよ」
「それじゃあ、その花は…」
「うん。大好きな人に、願いを込めたこの花を渡して告白するのが、僕の村の昔からの風習。そして、相手がその花を受け取った時点で、両想いとして村の人に正式に認められるんだ」
「そんな特別な花を……。あ…ありがとうございます、クレスさん」
半ば茫然としながら、クレスが差し出した花を受け取るアレク。
「気にしないでよ。それじゃ、僕はもう行くから」
そう言って、次第に小さくなるクレスの背中を見送って、アレクはお裾分けで貰った花を眺めた。
恐らくクレスは、これから好きな人に自分の想いを告げに行くのだろう。
村の風習に則り、ノアリスの森の奥にしか咲かない珍しい花――想いの証の花を片手に。
「それにしても…花を渡すだけで特別な意味になるなんて…」
プロポーズの方法も色々あるんだな。
と、しみじみと妙に関心してしまったアレクである。
「さてと…仕事も成功したし、僕もギルドに報告しに戻ろう」
ぽつり、と漏らした彼の声が何となく晴れ晴れとしていたのは、思いがけずに貰った特別の花を意味を知ったからだ。
村の風習云々はこの際関係なく、好きな人に渡す花、の部分だけを都合良く取り入れて。
取り敢えず、ギルドであの人の居場所を聞いてみようと心に決めて、アレクはその場を後にした。
「ああ、お疲れさん、ハンター・アレク」
リノの街のハンターズギルドで仕事の報告を済ませて報酬を受け取った後、アレクは単刀直入にエルクの居場所をギルド職員に尋ねてみた。
一見、ハンターには縁の無いような花を手にしているアレクを不思議そうに見たハンターもいたが、別に花を持って入ったらいけないと言う理由も無いので、すぐにその視線は元々見ていたものへと向けられる。
「ハンター・エルクかい? ああ…彼なら今、リノ周辺の仕事を請けてるよ」
「本当ですか?」
「ああ。と言っても、その内容までは教えられないがね」
それは尤もな言い分である。余程の事がない限り、ハンターが請け負った仕事の内容は、他のハンターには決して明かされる事はないのだから。
エルクの居場所、その情報が手に入っただけでもまだ良いと、アレクはそう思ってある事を決意して一旦ギルドを出た。
そうして、再び彼がギルドに戻って来た時、その彼の手には先程の花と共に、簡素ながらも可愛らしい包みが握られていた。
「すみません。依頼…をお願いしたいんですが」
「あんたがかい?」
アレクと言う名は、ハンター仲間の間では伝説のハンターとして憧れの象徴である。
どうやギルド職員以外は、アレクがそのレジェンドハンターだとは気付いてないらしい。
アレク程のハンターが何を依頼するのかと、どことなく好奇な眼が向けられたのは無理もなく。