以心伝心 Act3.アーク
arc3後|2007.02.15
ぱたぱたと廊下を駆けて、宛行われた客間へと戻ったエルクは、丁度自分に対して背を向けて、胡座を掻いて座っているアークを見て、しまったと今更に静かに襖を閉めた。
同時に、チン、と小気味良い金属音が響いて、それが剣を鞘に収めた音だと気付くと同時にアークがエルクを振り返る。
「お帰り、エルク」
「あ、ただいま。剣の手入れ中だったんだ」
「ああ。でも丁度今、終わった所だ」
手早く道具を片付けて、傍らに父の形見の長剣を置く。その、手慣れた一連の動作に全くの無駄が無いのはどうかと思うのだが。エルクは、まあこいつはこういう奴だしと気持ちを切り替えて、これまでと同様にアークの側に移動した。
唯一違うのは、畳に座する為に腰を下ろした事だろう。
「なあ、アーク」
「何だい? エルク」
「頼みがあるんだ」
「頼みって?」
おや、と柔らかな光を瞳に映したアークをひたと見詰めて、神妙な面差しでエルクが口を開いた。
「して……欲しいんだ」
だから、またしても前置きのないエルクの開口文句に、一瞬時を止めたように眼を見開いたアークは。
「本当に良いのかい?」
そう、穏やかな眼差しでエルクに聞き返した。
「ん? だから、してくれって……って、うわっ!?」
がしゃん、と形見の長剣が足の先の方で聞こえた気がしたのを合図に、エルクはアークに有無を言わさず上から押さえ込まれていた。
「え? え? あ、アーク!?」
「いけないな…そんな大胆な文句で俺を誘うなんて、随分と可愛らしい事をしてくれる…」
状況が全く掴めてないエルクに向かって、にっこりと綺麗な笑みを見せたアークが静かな口調で言い切った。
もしやこれは、絶体絶命か!? とたらりと冷や汗を浮かべてエルクが見上げると、しっかりと自分の動きを封じたアークがふっと鼻先で笑ったのを見て、エルクはぴしりと固まっていた躰を慌てて活動させに掛かった。
「えっ!? あ、あの、ちょっと待ってくれねえ?」
「待たない」
「え…えぇぇぇっ!? いや待てっ、頼みたい事はそれじゃなくて――」
「俺に向かって、あんな誘い文句を言うお前が悪い」
「あっ…やっ! 待…っ…」
首筋に掛かる吐息に思わず身を竦ませて、エルクが精一杯の制止を込めてアークの肩を掴む。
「声は、抑えたほうがいいかも知れないね。残念だけど…お前の声を他の皆に聞かせたくはないし」
「そ、そう思うなら潔くやめてくれると嬉しいんだけど…」
「まさか。ここまで来て引き下がるなんて、俺が出来る訳がないだろう?」
「っ…」
引き下がって欲しいと、眼で訴えて通じる相手なら苦労はしない。
「でもエルク、今日は、殆どの組の人が出掛けていて良かったな」
「よ…よくねえぇぇよっ!!」
馬鹿ーっ、と涙目で小さく叫んだエルクを無視して、アークはエルクの叫びを抑える為に、その可愛らしい唇を自らの唇で塞いだのだった。
同時に、チン、と小気味良い金属音が響いて、それが剣を鞘に収めた音だと気付くと同時にアークがエルクを振り返る。
「お帰り、エルク」
「あ、ただいま。剣の手入れ中だったんだ」
「ああ。でも丁度今、終わった所だ」
手早く道具を片付けて、傍らに父の形見の長剣を置く。その、手慣れた一連の動作に全くの無駄が無いのはどうかと思うのだが。エルクは、まあこいつはこういう奴だしと気持ちを切り替えて、これまでと同様にアークの側に移動した。
唯一違うのは、畳に座する為に腰を下ろした事だろう。
「なあ、アーク」
「何だい? エルク」
「頼みがあるんだ」
「頼みって?」
おや、と柔らかな光を瞳に映したアークをひたと見詰めて、神妙な面差しでエルクが口を開いた。
「して……欲しいんだ」
だから、またしても前置きのないエルクの開口文句に、一瞬時を止めたように眼を見開いたアークは。
「本当に良いのかい?」
そう、穏やかな眼差しでエルクに聞き返した。
「ん? だから、してくれって……って、うわっ!?」
がしゃん、と形見の長剣が足の先の方で聞こえた気がしたのを合図に、エルクはアークに有無を言わさず上から押さえ込まれていた。
「え? え? あ、アーク!?」
「いけないな…そんな大胆な文句で俺を誘うなんて、随分と可愛らしい事をしてくれる…」
状況が全く掴めてないエルクに向かって、にっこりと綺麗な笑みを見せたアークが静かな口調で言い切った。
もしやこれは、絶体絶命か!? とたらりと冷や汗を浮かべてエルクが見上げると、しっかりと自分の動きを封じたアークがふっと鼻先で笑ったのを見て、エルクはぴしりと固まっていた躰を慌てて活動させに掛かった。
「えっ!? あ、あの、ちょっと待ってくれねえ?」
「待たない」
「え…えぇぇぇっ!? いや待てっ、頼みたい事はそれじゃなくて――」
「俺に向かって、あんな誘い文句を言うお前が悪い」
「あっ…やっ! 待…っ…」
首筋に掛かる吐息に思わず身を竦ませて、エルクが精一杯の制止を込めてアークの肩を掴む。
「声は、抑えたほうがいいかも知れないね。残念だけど…お前の声を他の皆に聞かせたくはないし」
「そ、そう思うなら潔くやめてくれると嬉しいんだけど…」
「まさか。ここまで来て引き下がるなんて、俺が出来る訳がないだろう?」
「っ…」
引き下がって欲しいと、眼で訴えて通じる相手なら苦労はしない。
「でもエルク、今日は、殆どの組の人が出掛けていて良かったな」
「よ…よくねえぇぇよっ!!」
馬鹿ーっ、と涙目で小さく叫んだエルクを無視して、アークはエルクの叫びを抑える為に、その可愛らしい唇を自らの唇で塞いだのだった。