お祝い大作戦
arc2|2007.12.25
「よわった」
エルクは手に持っていた時計をゆっくりと下ろし、深く息を吐く。
『時間よ戻れ』と、誰もが望み叶わない願い。それを内心呟いて、もう一度時計を見る。
8月23日5時12分。やっぱり先程見たのと同じ日付、同じ時間。
いまいましげに髪の毛を掻き上げる。
「あーあ…………ま、後悔したって仕方がねーし、ちょっと不安だけど、計画通りに事を進めるとすっか」
持ち前の前向き思考で、膝を叩き、自分を鼓舞して立ち上がる。
我らがリーダー、アークが生をうけて17年目のこの日を、エルクは後悔から始めた。
「ポコ」
「うん?……なにソレ?」
すっと差し出された封筒に、ポコは軽く目を開いて、エルクを見る。
その封筒。淡い黄色に、シックで可愛らしいデザイン。朝からごそごそと何かをしているようだとは知っていたが、ソレが何なのか見当がつかない。
問いかけたものの、それでもなお黙って突き出してくるエルクに、ポコは躊躇しながらも受け取った。
だが事態は変わらず、エルクは黙ったままだ。真剣な濃紫の瞳を、じっと向けてくる。
さすがに困ってしまって、ポコはもう一度視線を封筒に戻し、すみっこに同系色の付箋が貼られていることに気付く。
ゆっくりとそれに書かれた文字を拾って、エルクが沈黙に徹した理由が分かった。
この目の前の少年は、自分の文章力に全く自信がないのである。
顔を上げ、ポコは笑って頷いた。
「了解したよ」
「そっか…」
ほっと、安堵の溜息をついたエルクに、もう一度頷く。
「なら、よろしくな」
「うん、ただもうちょっと早めにしろって言われそうだねー」
「…本当は昨日には回すつもりだったんだ」
項垂れて言うエルクに、ポコは苦笑し、軽くその肩を叩く。
「まあ、ボクも同罪だから。ここのところ忙しかったとはいえ、さ」
「でもよー、お前に教えて貰って、先週までは覚えていたんだぜ?」
「うーん、そういうもんなんだよ。大事なことこそ、ね。それじゃあ行ってくるね」
「ん、頼んだ」
手を振って、ポコは小走りに部屋を出た。
(それにしても)
封筒を優しく握って、ポコは苦笑する。
今日が23日だと、うっかり忘れていた自分に呆れたのは本当、アークを祝いたいって気持ちも、エルクが覚えてくれていたことに微笑ましく思うこの気持ちも嘘じゃない。
でも、ほんのちょっとだけ。
「羨ましい…かな?」
ポコは自分の真実に、小さく笑った。
「おーい、アークー!」
立ち止まり、アークは振り返って驚いた。
なにせ、未来の親分が、シルバーノアの廊下を走ってこちらへとやってきているのである。
「どうしたんだ、トッシュ」
外でならまだしも、普段余裕綽々のトッシュが走ってこなければならない程の事態が起こっているのかと、アークの口調は固くなる。
目の前にまで来たトッシュが、ちょっと待てと右手を上げ、息を整えるのだからなおいっそうだ。
聞き出したいのを堪えつつ、落ち着いてきたらしいトッシュがぐいっと口元を拭うのを見届けて、今度はどうしたのだと目で問いかける。
それにトッシュはニッと不敵に笑って、先程から何か握っているなと思っていた右手を広げて見せた。
エルクは手に持っていた時計をゆっくりと下ろし、深く息を吐く。
『時間よ戻れ』と、誰もが望み叶わない願い。それを内心呟いて、もう一度時計を見る。
8月23日5時12分。やっぱり先程見たのと同じ日付、同じ時間。
いまいましげに髪の毛を掻き上げる。
「あーあ…………ま、後悔したって仕方がねーし、ちょっと不安だけど、計画通りに事を進めるとすっか」
持ち前の前向き思考で、膝を叩き、自分を鼓舞して立ち上がる。
我らがリーダー、アークが生をうけて17年目のこの日を、エルクは後悔から始めた。
「ポコ」
「うん?……なにソレ?」
すっと差し出された封筒に、ポコは軽く目を開いて、エルクを見る。
その封筒。淡い黄色に、シックで可愛らしいデザイン。朝からごそごそと何かをしているようだとは知っていたが、ソレが何なのか見当がつかない。
問いかけたものの、それでもなお黙って突き出してくるエルクに、ポコは躊躇しながらも受け取った。
だが事態は変わらず、エルクは黙ったままだ。真剣な濃紫の瞳を、じっと向けてくる。
さすがに困ってしまって、ポコはもう一度視線を封筒に戻し、すみっこに同系色の付箋が貼られていることに気付く。
ゆっくりとそれに書かれた文字を拾って、エルクが沈黙に徹した理由が分かった。
この目の前の少年は、自分の文章力に全く自信がないのである。
顔を上げ、ポコは笑って頷いた。
「了解したよ」
「そっか…」
ほっと、安堵の溜息をついたエルクに、もう一度頷く。
「なら、よろしくな」
「うん、ただもうちょっと早めにしろって言われそうだねー」
「…本当は昨日には回すつもりだったんだ」
項垂れて言うエルクに、ポコは苦笑し、軽くその肩を叩く。
「まあ、ボクも同罪だから。ここのところ忙しかったとはいえ、さ」
「でもよー、お前に教えて貰って、先週までは覚えていたんだぜ?」
「うーん、そういうもんなんだよ。大事なことこそ、ね。それじゃあ行ってくるね」
「ん、頼んだ」
手を振って、ポコは小走りに部屋を出た。
(それにしても)
封筒を優しく握って、ポコは苦笑する。
今日が23日だと、うっかり忘れていた自分に呆れたのは本当、アークを祝いたいって気持ちも、エルクが覚えてくれていたことに微笑ましく思うこの気持ちも嘘じゃない。
でも、ほんのちょっとだけ。
「羨ましい…かな?」
ポコは自分の真実に、小さく笑った。
「おーい、アークー!」
立ち止まり、アークは振り返って驚いた。
なにせ、未来の親分が、シルバーノアの廊下を走ってこちらへとやってきているのである。
「どうしたんだ、トッシュ」
外でならまだしも、普段余裕綽々のトッシュが走ってこなければならない程の事態が起こっているのかと、アークの口調は固くなる。
目の前にまで来たトッシュが、ちょっと待てと右手を上げ、息を整えるのだからなおいっそうだ。
聞き出したいのを堪えつつ、落ち着いてきたらしいトッシュがぐいっと口元を拭うのを見届けて、今度はどうしたのだと目で問いかける。
それにトッシュはニッと不敵に笑って、先程から何か握っているなと思っていた右手を広げて見せた。