お祝い大作戦
arc2|2007.12.25
「なになに『食品庫にて待つ』ね……って、果たし状か?」
食品庫といえば、缶詰など保存のきくものが入れられた部屋で、奥まった場所にあると言うこともあり、滅多にメンバーが立ち寄らない場所だ。それに、よくある校舎の裏側を連想したのだろうが、だからといって缶詰乾パンだらけの食品庫で闘いはないだろうとツッコミかけたが、アークはやめた。
「行くのか?」
「一応は」
「俺もついていこうか?」
「いや、のんびりしていてくれ」
「即答かよ?」
アークは小さく笑って、トッシュの肩を叩くと歩き出した。
「早かったな、アーク」
嬉しそうに笑みを浮かべ、エルクはトマトソースの缶詰に腰掛けたまま手を振って、アークを出迎える。
そして。
「遠かった…よ」
榛色の髪の合間から見える、色とりどりのくるくるとした紙リボン。キラキラと光る、小さな紙。
長い腕に収まりきっていない、大量のリボンの巻かれた箱。
3日間フルに活動しても澄ました顔でいる勇者の、へとへとな姿を見て吹き出した。
そんなエルクに、アークは肩をすくませる。
「全て、おまえの予定通りか?エルク」
「いや?あんたの人徳だろ?」
「……よく言うよ」
丁寧に床へ箱を下ろし、アークは疲れた、それでいてやられたと微笑みを浮かべ、ポケットから付箋を取り出すとエルクに突き付ける。
それに今の今まで、イタズラが成功した子どものように(事実それなのだろうが)楽しそうに笑っていたエルクが目をむいた。
「んな!な、なんで、あんたがそれを持って…っ」
「トッシュから拝借した」
「……あのヤロー…」
「まあそういうな、正確にはスッたから」
「っ!……て、ぐせわりー…」
信じられないと、顔を真っ赤に染めたエルクが気まずそうに視線をそらしたのを満足げに見ながら、アークは付箋へともう一度目をやる。
『この中にはアークへの誕生日プレゼントが入っています。
そしてこれをアークまで、8月23日中に、メンバー全員に回してから届けて欲しいのです。
受け取った人は、下記から自分の名前を消してから回してください。
最終的に誰がアークに届けてくれても構いません。
面倒でしょうがよろしくお願いします。
なお、この付箋はアークに見せないように、くれぐれも注意してください』
そしてその下には、船内全員の名前に打ち消し線。
だからアークは訊いた。というよりも確認した。
この食品庫が、普段アークのいる場所、私室、食堂、操縦室、談話室、その全てからメンバーの居住スペースを通り抜けなければ最短で辿り着けないことも。
こんな付箋を見たら、全員が各々プレゼントを用意し、出会った勇者の生誕を祝うであろうことも。
すべて、分かっていたのだろうと。
「エルクは優しいな」
「…それは違う。アーク、最初にオレにあんたの誕生日を教えたのはポコだ」
「でも、今の俺の状態へと考えて実行してくれたのはエルクだ」
「…………つーか」
エルクは困ったように頬をかき、近くにきたアークの髪から、誰かがやらかしただろうクラッカーの紙リボンを丁寧に取り除きながら、小さく呟く。
「当然だろ。オレとしては全世界が祝うべきだと思う」
「…それは」
「違わないし言い過ぎでもねーよ」
くいっと軽く髪を引っ張られて、濃紫の瞳が穏やかな光をたたえて自分を見るのに、アークは口をつぐんだ。
「あんたはもっと我が儘でいいんだ、自分勝手でいい」
むしろ、オレ達しか祝えなくてゴメンなと言いたいと、エルクは目を細めた。
「おめでと、アーク」
「……ありがとう。最高のプレゼントだったよ」
瞼を閉じれば、この部屋に辿り着くまでの道のりが浮かぶ。
扉から顔を覗かせた仲間達全員の笑顔。
クラッカーを持ち出し、少し申し訳なさそうに急遽用意したのだろうプレゼントを差し出してきた、戦いの中で細かく傷ついた掌。
実の親のように、愛情のこもった目で、そっと紡がれた祝福の言葉。
こんなにも普通でささいで、幸せなことはない。
そう、しみじみ思っていると、エルクの手がぴたりと止まった。
「…いや、オレまだプレゼント渡してねーんだけど…?」
食品庫といえば、缶詰など保存のきくものが入れられた部屋で、奥まった場所にあると言うこともあり、滅多にメンバーが立ち寄らない場所だ。それに、よくある校舎の裏側を連想したのだろうが、だからといって缶詰乾パンだらけの食品庫で闘いはないだろうとツッコミかけたが、アークはやめた。
「行くのか?」
「一応は」
「俺もついていこうか?」
「いや、のんびりしていてくれ」
「即答かよ?」
アークは小さく笑って、トッシュの肩を叩くと歩き出した。
「早かったな、アーク」
嬉しそうに笑みを浮かべ、エルクはトマトソースの缶詰に腰掛けたまま手を振って、アークを出迎える。
そして。
「遠かった…よ」
榛色の髪の合間から見える、色とりどりのくるくるとした紙リボン。キラキラと光る、小さな紙。
長い腕に収まりきっていない、大量のリボンの巻かれた箱。
3日間フルに活動しても澄ました顔でいる勇者の、へとへとな姿を見て吹き出した。
そんなエルクに、アークは肩をすくませる。
「全て、おまえの予定通りか?エルク」
「いや?あんたの人徳だろ?」
「……よく言うよ」
丁寧に床へ箱を下ろし、アークは疲れた、それでいてやられたと微笑みを浮かべ、ポケットから付箋を取り出すとエルクに突き付ける。
それに今の今まで、イタズラが成功した子どものように(事実それなのだろうが)楽しそうに笑っていたエルクが目をむいた。
「んな!な、なんで、あんたがそれを持って…っ」
「トッシュから拝借した」
「……あのヤロー…」
「まあそういうな、正確にはスッたから」
「っ!……て、ぐせわりー…」
信じられないと、顔を真っ赤に染めたエルクが気まずそうに視線をそらしたのを満足げに見ながら、アークは付箋へともう一度目をやる。
『この中にはアークへの誕生日プレゼントが入っています。
そしてこれをアークまで、8月23日中に、メンバー全員に回してから届けて欲しいのです。
受け取った人は、下記から自分の名前を消してから回してください。
最終的に誰がアークに届けてくれても構いません。
面倒でしょうがよろしくお願いします。
なお、この付箋はアークに見せないように、くれぐれも注意してください』
そしてその下には、船内全員の名前に打ち消し線。
だからアークは訊いた。というよりも確認した。
この食品庫が、普段アークのいる場所、私室、食堂、操縦室、談話室、その全てからメンバーの居住スペースを通り抜けなければ最短で辿り着けないことも。
こんな付箋を見たら、全員が各々プレゼントを用意し、出会った勇者の生誕を祝うであろうことも。
すべて、分かっていたのだろうと。
「エルクは優しいな」
「…それは違う。アーク、最初にオレにあんたの誕生日を教えたのはポコだ」
「でも、今の俺の状態へと考えて実行してくれたのはエルクだ」
「…………つーか」
エルクは困ったように頬をかき、近くにきたアークの髪から、誰かがやらかしただろうクラッカーの紙リボンを丁寧に取り除きながら、小さく呟く。
「当然だろ。オレとしては全世界が祝うべきだと思う」
「…それは」
「違わないし言い過ぎでもねーよ」
くいっと軽く髪を引っ張られて、濃紫の瞳が穏やかな光をたたえて自分を見るのに、アークは口をつぐんだ。
「あんたはもっと我が儘でいいんだ、自分勝手でいい」
むしろ、オレ達しか祝えなくてゴメンなと言いたいと、エルクは目を細めた。
「おめでと、アーク」
「……ありがとう。最高のプレゼントだったよ」
瞼を閉じれば、この部屋に辿り着くまでの道のりが浮かぶ。
扉から顔を覗かせた仲間達全員の笑顔。
クラッカーを持ち出し、少し申し訳なさそうに急遽用意したのだろうプレゼントを差し出してきた、戦いの中で細かく傷ついた掌。
実の親のように、愛情のこもった目で、そっと紡がれた祝福の言葉。
こんなにも普通でささいで、幸せなことはない。
そう、しみじみ思っていると、エルクの手がぴたりと止まった。
「…いや、オレまだプレゼント渡してねーんだけど…?」