雨空を抜けて
arc2|2008.02.21
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 最高気温が20℃をきるなかで、突然のスコールに遭遇し、全力をもって走り帰ってきたシルバーノアの自分たちの部屋。
 不快指数はこれでもかと上がりっぱなし。
 雨に当たるのは慣れているし、まあキライではなかった…はずが、服は泥と雨でグショグショで絞れるほどときている。
 その限度をはるかに振り切る結果に、キライではないと言えるほど人間的に成長できていないし、なによりスコールに合った原因が、理不尽なパシリ行為の末だったのだから、機嫌は地をはうようで。
 兎にも角にも、心身共にぐったりめのエルクとポコは、飛び込むように入った部屋の扉も閉めずに。
 何故かにらみ合っていた。
 殺気ではなく敵意でもなく悪意でもなく憎悪でもない、ただただ純粋な怒りをお互いにぶつけているのに、2人の目には不釣り合いな程に“心配”の色。憤りのような、有耶無耶な感情。
 そもそもの始まりはポコのたった一言だった。
「ねー、エルク。シャワー、先に浴びていいよー」
 いつもの笑顔で手をぴらぴら振った、自身と同じかそれ以上ずぶ濡れのポコに、エルクは目を据わらせる。
「…今、なんつった…?」
 若きゴッドハンターの地をはうような低い声に全く怯えることなく、ポコは瞳を瞬かせて見せた。それに加えて、にっこり笑う。
「だから、お先にどーぞって」
 それがゴングの合図。
 エルクは勢いよく、籠める力を考えず、ポコの、その冷えきった手を掴んだ。
「…っざけんな!!」
「え?」
「お前、本気で言ってんのか?昨日まで、微熱が続いてたくせに!」
 まさか忘れているんじゃないなと噛みつかんばかりのエルクに対して、当の本人はあっけらかんとしている。
「ああ、あれ?大丈夫、治ってるし。今日も問題なかったしね。だから、」
「だから、は違うだろ!?」
「違わないよ」
 ガラリと声のトーンを落とし、身にまとう空気を凛としたものにかえ、瞳の色が濃くなった。エルクは一瞬気圧される。それが悔しくて、思わずつかんだ手に力をこめた。
 痛いだろうに、それを全く気にすることなく、ポコはいつになく真剣な表情で口を開く。
「エルク、最近寝不足気味でしょ?抵抗力弱ってる。早く体、温めないと」
「…オレは、炎の民の末裔だ。体温上げるのになにもいらない」
「嘘だね。キミに出来ることは炎をだすだけ」
「………でも、お前よりはマシ」
「そうかもね。でもそんなのガス栓ひねれば、ボクだって同じだもん。だから先にどーぞってば。分かった?」
「……っ寒さで顔真っ青なくせして、よく言うぜ」
「ボクよりキミのが青」
「鏡も見ずに言いきんな!つか、その長ったらしい服、水吸いすぎ。したたってるだろ?後で拭くのメンドー。だから入ってこい、おめーの好きな緑茶、用意してやっから」
「拭くのも緑茶入れるのも自分でします」
「…楽器、早く手入れしねーと、それこそ使いものにならなくなんじゃねーの?」
「問題なしだよ、ありがとー。で、服の話に戻すけど、エルクは薄着すぎなの!ボクのは保湿性バッチリだし、帽子のお陰で髪の毛濡れてないしー」
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