雨空を抜けて
arc2|2008.02.21
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 本当に不思議なヤツだ。エルクは小さく笑った。
 そして、いやこのアーク一味全てがだなと思い直す。
 目的が一致しているとはいえ、未だハンターの称号を持ち続けているエルクに向ける、全幅の信頼を込めたその目も、過ちを犯し続けた自分の過去を訊いた後でさえ揺らがないその声も、今みたいに、いちレジスタンスとしては間違っている、個人の意志を尊重するその姿勢も。
 全てがエルクには、不思議で、ほんの少しだけ不快で……なによりも面映ゆい。
「なーに?エルク。こんな平凡な顔見たって楽しくないでしょ?」
 思考していたため、気付かなかったが、ぼんやりと見つめていたらしい。ポコが照れくさいな〜と頭をかく。
「あ、それとも、エルクもアヒル部長と遊びたかった?」
 ほらほら〜とポコがアヒルを持った手を振る。
 エルクは手を伸ばして、クチバシの上をつついた。柔らかさに笑みが浮かぶ。
「なんで部長?」
「お風呂大好き倶楽部のリーダーだからだガァ。キミも倶楽部に入るのだー、ガァ」
 そう言って、自分の口まね(?)に笑いだしたポコに、エルクは苦笑して、今度は強く、クチバシをついた。



「ちゃんと仲直りしたみたいね」
「「え?」」
 異口同音で、タオルで髪の水気をぬぐっていたいつも通りの2人から言われて、シャンテは思わずうなだれた。
 それに2人は動揺し、顔を見合わせて、同時に思い当たる。
((そうだった、喧嘩してたんだった))
 完全に忘却の彼方に追いやられていたのは1時間も経たない出来事。
 2人は気まずそうに視線を交わした。
 しかしそれは、思い出した喧嘩の再発だとか、言い合った後の相手に対する気まずさではなく。
(ねえ、エルク)
(分かってるって。せーの、な)
(うん。………せーのっ)
「ごめんなさい、シャンテ。迷惑かけました!!」
「わりぃ、シャンテ。世話になった!!」
 このとおりですっ、と言わんばかりに深々と下げられた2つの頭。シャンテは予想外の出来事に目を白黒させた。
「そ、そんな、謝ることじゃないわよ?それより、あんな誰かが止めなきゃ止まらない、馬鹿げた口喧嘩、二度としないでよね」
 左手を腰に、ビシッと2人を指さしてそう言って。一件落着ねと息をついたシャンテは、ゆっくりと2人の顔を見て絶句する。
「あーーー、まあ、なあ?」
「やーうん……無理、かも」
「なんでよ!」
 困ったように言葉を濁す2人に、シャンテは思わず口調を荒げ、拳をきつく握る。
 しかしそれに動じることなく、だってと、幼子のように口をとがらせて、エルクとポコはお互いを同時に指さした。
「エルクは格好つけだもん」
「こいつは意地っぱりだからな」
「……………」
 ここでシャンテは初めて衝動的な殺人を犯す犯罪者の心理を体感した。
 喧嘩した後で、どうしてこうお互い理解しておりますと、見せつけられなければならないのだろう。
(普段仲がいいあんた達が喧嘩してたから、こっちは心配して半時間も待ってたっていうのに…ってちょっと待って?)
 よく考えなくても、口喧嘩の時点でそんな感じだったような。
 思い当たって、予想以上に深い溜息がこぼれた。
 馬鹿馬鹿しい。本当に馬鹿馬鹿しい。
 こんなことなら、冷水なんてあまいもんじゃなく、ダイヤモンドダストの一発や二発放っていればよかった、なんて物騒なことすら思う。
「……お互い譲る気がないなら、せめてジャンケンとかして、どっちかが譲るようにしなさい…」
 うんざりと、シャンテは弱い口調でそう提案する。
 しぱりとシャンテを同じように目を丸くして見たのは3秒ほど。
「それ、いいアイデア!」と、顔を見合わせ嬉しそうにはしゃぐ2人に、シャンテはとうとう額を押さえ、ソファに沈んだ。
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シャンテ姉さん苦労話(笑)
2006年10月11日のブログにて、前半ちょびっとだけ公開されていたブツをようやくお披露目できました。
いやはや…すごいね!長かったね!
えーと、それで。このコンビでの喧嘩は、優しさと思いやりで自己犠牲の自己満足が根本にあると思いまして、序盤の口喧嘩となりました。

※アヒルって、どの町に浮いていたのか…実は自信ないです;間違っていたらこっそり教えてください(>m<;)