封印の地にて
arc3後|2006.07.29
ラグナーク、簡易港。
ここに来るのは本当に久しぶりだなと、懐かしさに目を細めた。
灰色の大地。災害前も災害後も、この印象は変わらない。
「なあ、本当にいいのか?音楽家さん」
声をかけられ、ボクは自分を乗せてここまで運んでくれた漁師を振り返る。
海の男!そんな、日に焼けた褐色の肌と筋肉の付いた体。
予定がよく合うため、ちょこちょこ海を渡るときにお世話になっている、粋な御方。
その豪快な雰囲気がどうも他人に思えなくて、ボクはこの人のことを気に入っていたりする。
誰に似ているのかは、あれとあれとあれを足してわったとだけ説明しておこうかな。
「うん、大丈夫だよー。ここまでありがとー」
「いや?あんたには救われたしな。礼にはおよばねーよ。…ところでよー、今日の式典どうするんだ?」
「ん?うん、大丈夫だよ」
心配そうな漁師にボクは笑ってみせて、トランクを下ろす。
そっと開けて、漁師に中身を見せ、大丈夫でしょとボクは首を傾けた。
「なーる。でも、こんなところで使えるのか?」
「うーん…そうなったら、準備してあるのがあるから。…ごめんだけど、ね」
「使い回しじゃないんだろ?」
「とーぜんだよ」
そう言うと、漁師はあからさまに安堵の息をついた。
そうして、自身の船に乗り込み、再度ボクを見る。
「なら問題ねーよ。それじゃあ気をつけなな?ここらのモンスターは滅茶苦茶強いからよ。ま、アカデミーんとこに用事なんだろ?大丈夫だ、人のいないところに行かなきゃな。本当に気を付けるんだぞ」
「うん、ありがとう。また会えたら乗せてね?」
「それこそとーぜん。次は船の上でなんか演奏してくれよな」
「わー、それはさすがのボクも船酔いするから無理ー」
手をひらひら振ると、それもそうかと漁師は笑って、軽快なエンジン音とともに水平線へと去っていった。
笑顔でそれを見送って、見えなくなるとボクは思わず腕を組む。
「うーん、たしかに、ここらのモンスターは手強そうだなあ」
ま、なるようになるかと、3年前には思いもしなかったことを考えて苦笑した。
トランクを持ち上げて、海に背を向け歩き出す。
ひとつだけ、漁師に内緒にしておいた。
ボクが用があるのは、そのアカなんじゃらじゃなくて。大陸の奥の、人が入り込んでない湖なんだな。
大災害から今日でちょうど2年になる。
「むむむ、このへんも草だらけだなー」
黒い黒い草。なんとかモンスターに遭遇することなくもうすぐ目的地だと言うところまで辿り着いた。
うーん、我ながらなんという幸運。
さすがに疲れてきたが、なんのこれしきだ。
ただ。上空を見上げ、舌を出して、ボクは眉をひそめた。
空気が、とても悪い。埃、ガスに湿気。
今度は下を見る。
ぬかるんだ土。黒ずんだ土壌。
2年たっても人が住まないはずだ。
っと、それは違うか。ボクは誰も見ていないのに首を振って否定する。
唯一の簡易港の近く、漁師の言ったとおり、アカンパニーだとかアカデミーとかいう組織が大きな建物を作っていたから。
(それにしても、なんでこんなところに作るんだろうなー)
不思議だなと首を捻りながら歩いていて、ふと唐突に感じた。
顔を正面にむけ、思わず立ち止まる。
(あ、れ?)
とても小さくて微かで、それでいて懐かしい存在感のある気配。
誰のものなのか、思いつくのに秒も必要なかった。
「っ、エルクだ」
下げていたトランクを胸に抱えて、足場の悪い土を蹴りあげ、ボクは駆けだした。
草を掻き分けて、ようやく辿り着いた湖。
その脇に、こちらを見て目をパチクリさせる人物と、黒いプロペラつきの浮いている真四角の箱。
思った通りの組み合わせに、ほっと息をつくと、人影が小さく口を開いた。
「…ポコ?」
ここに来るのは本当に久しぶりだなと、懐かしさに目を細めた。
灰色の大地。災害前も災害後も、この印象は変わらない。
「なあ、本当にいいのか?音楽家さん」
声をかけられ、ボクは自分を乗せてここまで運んでくれた漁師を振り返る。
海の男!そんな、日に焼けた褐色の肌と筋肉の付いた体。
予定がよく合うため、ちょこちょこ海を渡るときにお世話になっている、粋な御方。
その豪快な雰囲気がどうも他人に思えなくて、ボクはこの人のことを気に入っていたりする。
誰に似ているのかは、あれとあれとあれを足してわったとだけ説明しておこうかな。
「うん、大丈夫だよー。ここまでありがとー」
「いや?あんたには救われたしな。礼にはおよばねーよ。…ところでよー、今日の式典どうするんだ?」
「ん?うん、大丈夫だよ」
心配そうな漁師にボクは笑ってみせて、トランクを下ろす。
そっと開けて、漁師に中身を見せ、大丈夫でしょとボクは首を傾けた。
「なーる。でも、こんなところで使えるのか?」
「うーん…そうなったら、準備してあるのがあるから。…ごめんだけど、ね」
「使い回しじゃないんだろ?」
「とーぜんだよ」
そう言うと、漁師はあからさまに安堵の息をついた。
そうして、自身の船に乗り込み、再度ボクを見る。
「なら問題ねーよ。それじゃあ気をつけなな?ここらのモンスターは滅茶苦茶強いからよ。ま、アカデミーんとこに用事なんだろ?大丈夫だ、人のいないところに行かなきゃな。本当に気を付けるんだぞ」
「うん、ありがとう。また会えたら乗せてね?」
「それこそとーぜん。次は船の上でなんか演奏してくれよな」
「わー、それはさすがのボクも船酔いするから無理ー」
手をひらひら振ると、それもそうかと漁師は笑って、軽快なエンジン音とともに水平線へと去っていった。
笑顔でそれを見送って、見えなくなるとボクは思わず腕を組む。
「うーん、たしかに、ここらのモンスターは手強そうだなあ」
ま、なるようになるかと、3年前には思いもしなかったことを考えて苦笑した。
トランクを持ち上げて、海に背を向け歩き出す。
ひとつだけ、漁師に内緒にしておいた。
ボクが用があるのは、そのアカなんじゃらじゃなくて。大陸の奥の、人が入り込んでない湖なんだな。
大災害から今日でちょうど2年になる。
「むむむ、このへんも草だらけだなー」
黒い黒い草。なんとかモンスターに遭遇することなくもうすぐ目的地だと言うところまで辿り着いた。
うーん、我ながらなんという幸運。
さすがに疲れてきたが、なんのこれしきだ。
ただ。上空を見上げ、舌を出して、ボクは眉をひそめた。
空気が、とても悪い。埃、ガスに湿気。
今度は下を見る。
ぬかるんだ土。黒ずんだ土壌。
2年たっても人が住まないはずだ。
っと、それは違うか。ボクは誰も見ていないのに首を振って否定する。
唯一の簡易港の近く、漁師の言ったとおり、アカンパニーだとかアカデミーとかいう組織が大きな建物を作っていたから。
(それにしても、なんでこんなところに作るんだろうなー)
不思議だなと首を捻りながら歩いていて、ふと唐突に感じた。
顔を正面にむけ、思わず立ち止まる。
(あ、れ?)
とても小さくて微かで、それでいて懐かしい存在感のある気配。
誰のものなのか、思いつくのに秒も必要なかった。
「っ、エルクだ」
下げていたトランクを胸に抱えて、足場の悪い土を蹴りあげ、ボクは駆けだした。
草を掻き分けて、ようやく辿り着いた湖。
その脇に、こちらを見て目をパチクリさせる人物と、黒いプロペラつきの浮いている真四角の箱。
思った通りの組み合わせに、ほっと息をつくと、人影が小さく口を開いた。
「…ポコ?」