封印の地にて
arc3後|2006.07.29
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「結局、オレ、ククルとそんなに話が出来なかったなー」
「あ、それもそうだね」
「無茶苦茶世話になったんだけどな」
「ま、それは気にしてないと思うけどね。またどこかで会えたら、お礼しておけばいいよ」
「んー、まだあいつら働いてんのかな」
 働くというのは、アークとククルのその後の活動のこと。
 肉体を失った2人だけど、人間と精霊との仲介役として、まだどこかで見守っているはず。
「多分ね」
「あ、そういやさ。あいつらって年とるのか?」
「ん〜?それはどうだろう。とってなさそーだよね」
「つーことは、もし会えるならそんな遠くない未来がいいよな…」
「?なんで?」
 思わず顔を上げエルクを振り返ってみると、苦虫を噛み潰したような顔をしたエルクが、ヂークをいじくっているのが見えた。
「だってよー、オレはおっさん。あっちは永遠の16歳とかだったら、なーんかへこまね?って、オレ、この時点で年齢超しちゃってんじゃんか!!」
 愕然と、手に持っていたヂークを落とした。ヂークがイタいと小さく文句を言った気がするが、全くもって無視である。
 あわわわわって感じだ。
 …そんなに気にすることなのだろうか…。
「ああ気になるね!」
 おお、読心術がつかえたんだね!エルク!
 感心してエルクを見ていると、小さな声が聞こえた。
「…ノカ?」
「?」
 そっと、音の発生源らしい、エルクが落としたヂークを持ってみる。
 それにエルクがぴくりと反応し、あ、と呟く。
 どうしたの?と聞く前に、手の中のコアだけになった機神が教えてくれた。
「モウ、1分前ジャがいいノカ?」
「?……1分前って…ああああ!」
 気づいた。まずい、このあと演奏だった!
 ボクは慌ててクラリネットの調整へと戻る。
「わー、エルクと話してる場合じゃなかったぁ!!!」
「な、オレのせいかよ!」
 無視して息を吹き込む。むむー、やっぱり空気の悪さはここらも変わらないか。
 大慌てで楽器を暖め、音を出して。
 なんとか、なんとか間に合ったと一息ついたと同時。
『…ポコ?大丈夫か?』
「だいじょーぶです、はは」
「…大丈夫じゃねー…」
 エルクの小さなツッコミを無視し、ラジオの方に耳を傾ける。
『それでは皆様、ご静粛に。音楽家ポコによる音楽を添えて、黙祷を捧げましょう』
 ぴ、ぴ、ぴと秒を刻む音。
 ちょうど2年前。
 あの時止められていれば。何度も繰り返した仮定と後悔。
 2年経っても取り返すことの出来ない、過ち。
『ぴー』
 合図とともに、ボクはクラリネットに息を吹き込んだ。


 ふぅと息を吐き、オトヒロエル君の電源を落とす。
 そうするとパチパチパチと拍手の音。
 先程まで黙祷を捧げていたエルクとヂークが、なんだか泣きそうな顔でボクを見る。
 と、不意にエルクの表情が柔らかくなった。
 立ち上がって、ズボンの土をはたき落としながら、ボクを見る。
「お疲れ。で、どうする?」
「え?どうするって?」
 きょとんとしただろうボクに、エルクはにっこり笑った。
「これからのこと。オレらは、パルトスに行こうと思ってな。式典会場って闘技場だろ?」
「うん。あ、なら、ボクも一緒に」
「おう。ギルドマスターに船借りてきてっから、乗ってけ」
「そうジャ、そうシロ」
「うん、じゃあお願いします」
 無線と集音機をしまって、トランクを抱える。
 そうして歩き出したエルクの隣に、小走りで駆け寄った。
 そっと、トランクの取っての端を持たれる。少し、軽くなった。
「あー、そういや、ポコ。おめー、武器もってねえのな」