足りないもの
arc2|2007.02.12
基本的に自分は短時間で深い眠りをとるタイプだ。エルクは自覚している。
勿論、明らかに襲撃の危険性がある場所で独り、となると話は別だ。そこまで図太い神経を生憎持ち合わせていない。
ただ、一人でも誰か信頼できる者がいれば、周りが呆れるほどに、深い眠りへと堕ちてしまう。
事実初めて部屋を借りたとき、同室人が困ったように笑っていた。
またシュウのアパートでも、シュウの外出に気づかなかったのにプラスしてリーザに起こされる始末。
だから今日も、シルバーノアよりも周囲に頼りになる人の気配を感じる中、自身がこうして深夜に目覚めてしまったのは本当に珍しいことであった。
(…なんだ?)
上体を起こして、周りをキョトキョトと探ってみる。特に妙な気配を感じるわけでもない。最有力候補の理由はこれで消えた。
一応はハンターの端くれ…と言ったら、一味は凄まじく否定してくるが…とにかくハンターであるため、殺気には敏感に反応するように、この感覚は出来てあったから、違っていて、そっと安堵する。
続いて、自分の体に違和感がないか見下ろしてみる。特に見あたらない、思い当たらない。
そういえばいつか、お腹が空きすぎて起きたことがあった。当時はもうそれはそれは深刻で、命に関わる事態だったが、今となってはただの笑い話。
話を戻そう。
予感めいたものを感じて動悸が激しいわけでもないし、お腹も空いてはいない。こうして二次候補も消えてしまった。
(じゃあ、なんだろう…)
不思議な気分だ。眠りなおす気にもなれずに、エルクは枕元の上着を肩に掛けて立ち上がった。
トウウ゛ェル・ククルの神殿。
シオン山が近いため気温の低い気候に、石造りのこの建物は、息が凍る肌寒さ。灯され続ける松明の光の方へと、足音を極力小さくして歩く。
足音や気配を完全に消してしまうと、逆に起きてしまう不憫な仲間の寝顔を見つつ、たどり着いたのは大広間。昼間は賑わうそこで立ち止まり、気づく。
奥の部屋。ククルが常にいるそこから、かすかに笑い声が聞こえてきていた。エルクは小さく首を傾ける。
しばし思案し、顎に添えていた指をはずして、エルクは意を決して部屋へと足を踏み入れた。
「おいおいおいおい…」
まず最初にエルクの口から飛び出したのはこんな言葉だった。
「あら、エルク?」
まっさきに反応を返してきたのは、紫の長い髪と菫色の瞳を有する若き聖母。2歳上でこの落ち着き方はいかがなものかとエルクは常日頃思っていた。
「どうしたんだ?」
続いて、負けず劣らずてめーはいったい何歳だと聞きたくなるほどのおとなっぷりをお持ちな我らが勇者が、位置的にククルの後ろから背を伸ばしてこちらを見てくる。
「…ハーン、さては眠れない、とかか?まっさかそんな、ガキじゃあるめーしなあおい」
そうして、実は視線にいれないようにしていた、あり得ないほど自己主張の激しい緋色の髪の男がこういって締めくくる。エルクは頬が引きつるのを感じたが、無視だ自分、耐えきれるところまで無視が効果的だと、自分に言い聞かせて拳を握った。
そうして、部屋の中央。祭壇の前の段差に座る3人組の持ち物に再度目をやってみた。
透明なグラス。大きさもノーマル。中身は氷と薄い黄色の液体。
が、トッシュの横にある茶色の瓶は、どう肯定的に見てもお酒だったりする。
「なあ、アークにククル」
「ん?ああ、エルクも飲むかい?」
からんといい音をたてて、アークはグラスを少し掲げて笑いを含ませながら言えば、エルクはもう我慢を突破した。
年齢詐称な2人だけど、どんなに大人に見えたところで!
「おめーら、酒は20からだろーがっっ!!」
とまあ、警察からも忌み嫌われるハンターのトップランクで、ルールは破るためにあると断言しそうなタイプのエルクがこう言ったのだ。実は、予想外なことに、本当のところを言うと彼は、結構、万に一つにも!真面目で律儀なのである。
それにククルは目をパチクリさせて、アークはもうクツクツと笑いを堪えるのに必死で、トッシュはそんなアークを見て呆れていた。
「うっ、な、なんだよ」
「…いや、エルクが、そんな堅いこと言い出すとは、思わなくてね」
ごめんねと手を合わせながら、ピンポイントでツボに入ったらしいアークは肩を振るわせる。
その言葉に、エルクはすっと目をそらす。らしくないことを言ったと、自分でも思ったらしい。
「あ、あと、エルク」
「…んだよ」
「スメリアじゃ、15からオッケーなんだ」
勿論、明らかに襲撃の危険性がある場所で独り、となると話は別だ。そこまで図太い神経を生憎持ち合わせていない。
ただ、一人でも誰か信頼できる者がいれば、周りが呆れるほどに、深い眠りへと堕ちてしまう。
事実初めて部屋を借りたとき、同室人が困ったように笑っていた。
またシュウのアパートでも、シュウの外出に気づかなかったのにプラスしてリーザに起こされる始末。
だから今日も、シルバーノアよりも周囲に頼りになる人の気配を感じる中、自身がこうして深夜に目覚めてしまったのは本当に珍しいことであった。
(…なんだ?)
上体を起こして、周りをキョトキョトと探ってみる。特に妙な気配を感じるわけでもない。最有力候補の理由はこれで消えた。
一応はハンターの端くれ…と言ったら、一味は凄まじく否定してくるが…とにかくハンターであるため、殺気には敏感に反応するように、この感覚は出来てあったから、違っていて、そっと安堵する。
続いて、自分の体に違和感がないか見下ろしてみる。特に見あたらない、思い当たらない。
そういえばいつか、お腹が空きすぎて起きたことがあった。当時はもうそれはそれは深刻で、命に関わる事態だったが、今となってはただの笑い話。
話を戻そう。
予感めいたものを感じて動悸が激しいわけでもないし、お腹も空いてはいない。こうして二次候補も消えてしまった。
(じゃあ、なんだろう…)
不思議な気分だ。眠りなおす気にもなれずに、エルクは枕元の上着を肩に掛けて立ち上がった。
トウウ゛ェル・ククルの神殿。
シオン山が近いため気温の低い気候に、石造りのこの建物は、息が凍る肌寒さ。灯され続ける松明の光の方へと、足音を極力小さくして歩く。
足音や気配を完全に消してしまうと、逆に起きてしまう不憫な仲間の寝顔を見つつ、たどり着いたのは大広間。昼間は賑わうそこで立ち止まり、気づく。
奥の部屋。ククルが常にいるそこから、かすかに笑い声が聞こえてきていた。エルクは小さく首を傾ける。
しばし思案し、顎に添えていた指をはずして、エルクは意を決して部屋へと足を踏み入れた。
「おいおいおいおい…」
まず最初にエルクの口から飛び出したのはこんな言葉だった。
「あら、エルク?」
まっさきに反応を返してきたのは、紫の長い髪と菫色の瞳を有する若き聖母。2歳上でこの落ち着き方はいかがなものかとエルクは常日頃思っていた。
「どうしたんだ?」
続いて、負けず劣らずてめーはいったい何歳だと聞きたくなるほどのおとなっぷりをお持ちな我らが勇者が、位置的にククルの後ろから背を伸ばしてこちらを見てくる。
「…ハーン、さては眠れない、とかか?まっさかそんな、ガキじゃあるめーしなあおい」
そうして、実は視線にいれないようにしていた、あり得ないほど自己主張の激しい緋色の髪の男がこういって締めくくる。エルクは頬が引きつるのを感じたが、無視だ自分、耐えきれるところまで無視が効果的だと、自分に言い聞かせて拳を握った。
そうして、部屋の中央。祭壇の前の段差に座る3人組の持ち物に再度目をやってみた。
透明なグラス。大きさもノーマル。中身は氷と薄い黄色の液体。
が、トッシュの横にある茶色の瓶は、どう肯定的に見てもお酒だったりする。
「なあ、アークにククル」
「ん?ああ、エルクも飲むかい?」
からんといい音をたてて、アークはグラスを少し掲げて笑いを含ませながら言えば、エルクはもう我慢を突破した。
年齢詐称な2人だけど、どんなに大人に見えたところで!
「おめーら、酒は20からだろーがっっ!!」
とまあ、警察からも忌み嫌われるハンターのトップランクで、ルールは破るためにあると断言しそうなタイプのエルクがこう言ったのだ。実は、予想外なことに、本当のところを言うと彼は、結構、万に一つにも!真面目で律儀なのである。
それにククルは目をパチクリさせて、アークはもうクツクツと笑いを堪えるのに必死で、トッシュはそんなアークを見て呆れていた。
「うっ、な、なんだよ」
「…いや、エルクが、そんな堅いこと言い出すとは、思わなくてね」
ごめんねと手を合わせながら、ピンポイントでツボに入ったらしいアークは肩を振るわせる。
その言葉に、エルクはすっと目をそらす。らしくないことを言ったと、自分でも思ったらしい。
「あ、あと、エルク」
「…んだよ」
「スメリアじゃ、15からオッケーなんだ」