足りないもの
arc2|2007.02.12
「駄目よ、エルク。あなた一杯しか飲めないのでしょう?」
「明日に障るのなら止めた方がいい。辛いのはエルク、君だよ」
「んなの知ってる。でも、この味がわかんねーと、オレはガキってことらしいし?」
だからつげと、エルクは突き出したコップをそのままで、トッシュを見上げた。
嫌みでもなく、ストレートに。尋ねるように、つげというエルクに、トッシュはちょっとばかし謝りたい気分になってきた。
と、同時に疑問である。
(んな気にするようなことかぁ〜?)
別にガキであることを悪く言った…というか、この程度なら普段の遣り取りとさして変わらない小さなからかいの言葉。
トッシュは首を傾げ、素直に口にした。
「なぁ、そんなにガキはいやか?俺様からしてみりゃあ、若いってのはいいことだと思うぜ?」
そう訊けば、返ってくるのは何とも言えない表情だ。
「オレは年齢に不満があるわけじゃねーよ…」
いつまでたっても注がれないコップを、少々苛立ちつつエルクはようやく引っ込め、苦虫を噛み潰したように、忌々しげに呟く。
「ただ、ガキっていうのは、保護対象と同義語だ」
「ほごたいしょー…」
ぐっと手を握りしめ、言い切ったエルクに、さしものアークとククルも唖然としてしまう。そこまで言ってないよと。
非常に珍しいその様子、その表情は、某音楽家が後に「見たかったよ〜」と地団駄を踏みそうな程である。余談だ。
そして、これまた珍しいことに、ツッコミ体質な炎使いがそれにたいして、全く無反応で真剣そのものであった。
「ずっと、ガキ扱いなんだよな。…オレには決定的に足りないものがあるから、仕方ないんだろーけど…」
「足りないもの?…あー、力。腕力か」
「ちげーよ。たしかに…こないだのメンバー内対抗腕相撲大会男性部門でドベだったけど!あれから毎日筋トレやってるし!ただの鍛錬不足をグチグチ言うほど傲慢知己ヤローじゃねー」
(((………もう何も言うまい)))
奇しくも3人は同時に思う。そして、いつにもました「べらんめぇ口調」なエルクは手がつけられないとも思う。
エルクコワラピュール。微酔うと饒舌ではちゃめちゃな論理展開を繰り出すようになるらしい。
「じゃあ、えーと、まさかとはおもうけど…地位、とか?」
トッシュに酒をついでもらいながら、律儀なアークはエルクの話を進展させようと試みた。
先程からの会話の流れから、そんなに重い話ではなさそうなことに、そっと安堵しながら。
そんなアークの質問に、エルクは思いっきり首を横に振る。
「んなわけねーだろ。んだよ、分からねぇ?おめーらにあって、オレに足りないもの、だ」
そう問われて、3本目の瓶に突入した3人は、そろいもそろって顎に手を当てて考えてみる。
(エルクになくて、俺にあるもの…なんだ?)
(私にあるものねぇ…。ここで、胸っていう答えは流石にないわよね…って、ウエストだったらしばくわよ!)
(格好良さ、機転の良さ、人格の良さ…筋肉?肉体美…ってそれは他に特権者がいるか)
とても個性的に考える3人をよそに、エルクは小さく溜息をついた。らちが明かないと漸く気付いた彼は、これまた小さく呟く。
「………しんちょう」
「え?」「あら?」「ん?」
思考の沼から戻ってきた3人は、まじまじとエルクをみつめ、先程聞こえた単語を心の中で反復する。
(新調、深長、新町…慎重に聞こえなくもないけれど、やっぱりこの場合は身長…だよな)
一番冷静に物事を判断できる男、アークはエルクに向き直る。
そうして、重力に逆らう毛先から、靴の先までざーっと目を通して、首を傾けた。
「160cmぐらいか?十分あると思うんだけど?」
「ねぇっつってんだろ」
「あら、そんなに気にすることもないんじゃないの?これからまだ伸びて、私ぐらいにはなるでしょう?」
そうフォローしてくれる175cmの勇者と、167cmの聖母。そして、また1人クツクツと笑い出している181cmの飲んだくれ剣士。
そんな彼等から、身長160cmの炎使いはプイッと顔を背ける。
「んなに、期待できねーんだよ…」
「?なぜ?」
首を傾げたのはククル。顔を向け、その後ろに心配そうなアークの顔を認めて、エルクは困ったように笑みを零した。
「薬害」
小さく息をのんだククルを見てから、困ったように頭を掻く。
「なんつーか、たりねーんだよな、この身長。いっつもオレの前を邪魔する壁は高すぎて、いつも手が届かない」
「明日に障るのなら止めた方がいい。辛いのはエルク、君だよ」
「んなの知ってる。でも、この味がわかんねーと、オレはガキってことらしいし?」
だからつげと、エルクは突き出したコップをそのままで、トッシュを見上げた。
嫌みでもなく、ストレートに。尋ねるように、つげというエルクに、トッシュはちょっとばかし謝りたい気分になってきた。
と、同時に疑問である。
(んな気にするようなことかぁ〜?)
別にガキであることを悪く言った…というか、この程度なら普段の遣り取りとさして変わらない小さなからかいの言葉。
トッシュは首を傾げ、素直に口にした。
「なぁ、そんなにガキはいやか?俺様からしてみりゃあ、若いってのはいいことだと思うぜ?」
そう訊けば、返ってくるのは何とも言えない表情だ。
「オレは年齢に不満があるわけじゃねーよ…」
いつまでたっても注がれないコップを、少々苛立ちつつエルクはようやく引っ込め、苦虫を噛み潰したように、忌々しげに呟く。
「ただ、ガキっていうのは、保護対象と同義語だ」
「ほごたいしょー…」
ぐっと手を握りしめ、言い切ったエルクに、さしものアークとククルも唖然としてしまう。そこまで言ってないよと。
非常に珍しいその様子、その表情は、某音楽家が後に「見たかったよ〜」と地団駄を踏みそうな程である。余談だ。
そして、これまた珍しいことに、ツッコミ体質な炎使いがそれにたいして、全く無反応で真剣そのものであった。
「ずっと、ガキ扱いなんだよな。…オレには決定的に足りないものがあるから、仕方ないんだろーけど…」
「足りないもの?…あー、力。腕力か」
「ちげーよ。たしかに…こないだのメンバー内対抗腕相撲大会男性部門でドベだったけど!あれから毎日筋トレやってるし!ただの鍛錬不足をグチグチ言うほど傲慢知己ヤローじゃねー」
(((………もう何も言うまい)))
奇しくも3人は同時に思う。そして、いつにもました「べらんめぇ口調」なエルクは手がつけられないとも思う。
エルクコワラピュール。微酔うと饒舌ではちゃめちゃな論理展開を繰り出すようになるらしい。
「じゃあ、えーと、まさかとはおもうけど…地位、とか?」
トッシュに酒をついでもらいながら、律儀なアークはエルクの話を進展させようと試みた。
先程からの会話の流れから、そんなに重い話ではなさそうなことに、そっと安堵しながら。
そんなアークの質問に、エルクは思いっきり首を横に振る。
「んなわけねーだろ。んだよ、分からねぇ?おめーらにあって、オレに足りないもの、だ」
そう問われて、3本目の瓶に突入した3人は、そろいもそろって顎に手を当てて考えてみる。
(エルクになくて、俺にあるもの…なんだ?)
(私にあるものねぇ…。ここで、胸っていう答えは流石にないわよね…って、ウエストだったらしばくわよ!)
(格好良さ、機転の良さ、人格の良さ…筋肉?肉体美…ってそれは他に特権者がいるか)
とても個性的に考える3人をよそに、エルクは小さく溜息をついた。らちが明かないと漸く気付いた彼は、これまた小さく呟く。
「………しんちょう」
「え?」「あら?」「ん?」
思考の沼から戻ってきた3人は、まじまじとエルクをみつめ、先程聞こえた単語を心の中で反復する。
(新調、深長、新町…慎重に聞こえなくもないけれど、やっぱりこの場合は身長…だよな)
一番冷静に物事を判断できる男、アークはエルクに向き直る。
そうして、重力に逆らう毛先から、靴の先までざーっと目を通して、首を傾けた。
「160cmぐらいか?十分あると思うんだけど?」
「ねぇっつってんだろ」
「あら、そんなに気にすることもないんじゃないの?これからまだ伸びて、私ぐらいにはなるでしょう?」
そうフォローしてくれる175cmの勇者と、167cmの聖母。そして、また1人クツクツと笑い出している181cmの飲んだくれ剣士。
そんな彼等から、身長160cmの炎使いはプイッと顔を背ける。
「んなに、期待できねーんだよ…」
「?なぜ?」
首を傾げたのはククル。顔を向け、その後ろに心配そうなアークの顔を認めて、エルクは困ったように笑みを零した。
「薬害」
小さく息をのんだククルを見てから、困ったように頭を掻く。
「なんつーか、たりねーんだよな、この身長。いっつもオレの前を邪魔する壁は高すぎて、いつも手が届かない」